本当の君は未来の人で今は過去に来ているんだね

仲瀬 充

本当の君は未来の人で今は過去に来ているんだね

藤堂義彦は福岡郊外の町で学習塾の講師をしている。

独身の一人暮らしなので自宅マンションに友達を呼ぶこともある。

「お前、また連れて来たな。」

中にはそう言いたくなる友人もいる。

本人には言わないが義彦には取り憑いている霊が見える。

そんな霊感の強い義彦が通勤途上で気になっているスポットがある。

小高い丘のふもとにある近所の公園の公衆電話ボックスである。

得体のしれない霊気を感じるのは義彦だけではないらしく、少女の幽霊が出るという噂がある。


仕事収めの12月29日、義彦は職場から帰る道筋の公園を歩いていた。

すると電話ボックスの前で急にキーンと耳鳴りがした。

同時にボックス内の受話器がカタカタと動いた。

義彦は誘われようにボックスに入り、受話器を取った。

「ご希望の年月日をダイヤルしてください。お帰りは1か月以内に。」

後はツーという発信音が聞こえるだけである。

霊も見える義彦だからこの怪異現象にそれほど驚きはせず、受話器を置いた。


義彦には最近になって気になりだしたことがある。

大学4年生の冬休みに帰省した時のことである。

義彦は福岡市内の私立大学に通っていたのだが、同じ学部に高見裕子という女友達がいた。

彼女への愛情が募り、4年生の夏休みに恋人としての交際を申し込んだ。

すると彼女は大阪に就職している1学年上のサークルの先輩と結婚の約束をしていると言った。

義彦はそれも知らずに告白した自分の間抜けさを笑い、恥じもした。

12月も押し詰まった30日、帰省するために義彦は裕子と同じバスで博多駅まで行くことにした。

義彦の実家は佐賀で、裕子は岡山だった。

ところがバスの中で聞くと裕子は実家ではなく兵庫県の有馬温泉で年末年始を過ごすと言う。

神戸で待ち合わせている婚約者との初めての泊りがけの旅行とのことだった。

とうに諦めていたとはいえ切ない気持ちになり、義彦は博多駅までの間、裕子に体を寄せた。

裕子はそれを嫌がるそぶりは見せなかった。

ジーンズを通して裕子の脚の温もりが伝わった。

バスを降り博多駅でそれぞれの乗り場へ向かおうとした時、裕子が言った。

「藤堂君も一緒に来れば?」

おかしな冗談を言うものだと思った。

婚約者どうしのカップルと行動を共にするのはどう考えても不自然だった。


その時のことが2年経った今になって気になりだしたのだった。

「藤堂君も一緒に来れば?」

あの言葉は冗談ではなく裕子の本心だったのではないか。

裕子は義彦と婚約者のどちらを生涯の伴侶に選ぶかを決めかねていたのではないか。

あの日と同じ12月30日が巡って来た。

義彦は深夜に公園の電話ボックスに入った。

「ご希望の年月日をダイヤルしてください。お帰りは1か月以内に。」

義彦は2年前の12月30日になるようにダイヤルボタンをプッシュした。

プッシュし終わった途端、まばゆい光に包まれた。

つぶった目を開けると義彦は学生時代に住んでいたアパートにいた。

部屋を見回すと何もかも2年前のままだった。

昼少し前に帰省の用意をしてアパートを出た。

そして同じバスに乗り合わせて2年前と同じように裕子の予定を聞いた義彦は言った。

「僕は裕子ちゃんを失いたくない。君の婚約者と話をさせてくれ。」

裕子は義彦の目を見て何も言わずに頷いた。


神戸駅で出迎えた裕子の婚約者はとまどった顔をしたが、とりあえず3人で近くの喫茶店に入った。

事の成り行き上、裕子に同道したわけを義彦は婚約者の室田清に話した。

義彦の話が終わると室田が口を開いた。

「話はよく分かりました。今度は僕が裕子をどんなに愛しているかを語る番でしょうがそれはもう必要ない気がします。」

室田は隣に座っている裕子を見た。

「最終的には裕子、君が決めることだ、どうする? 僕は君の気持を尊重するよ。」

室田は視線を義彦に戻した。

「藤堂君、もし裕子が君を選んだら僕は大阪に引き返します。予約したホテルは君たち二人で使ってください、支払いは済ませてあります。」


義彦は室田の潔い態度を見て負けたと思った。

喫茶店に入って席に着く時、裕子が室田の横に座った時点で既に勝負はついていたのだ。

裕子に辛い選択を口にさせてはならない。

「裕子ちゃん、僕はやっぱり来るべきじゃなかった。佐賀に帰るよ。」

義彦は荷物を持って立ち上がった。

「室田さん、裕子ちゃんを頼みます。」

室田も立ち上がり義彦に手を差し出した。

握手を交わしながら義彦は言わずもがなのことを言った。

「余計なことかも知れませんが、僕は裕子ちゃんとは手をつないだこともありません。」


義彦は神戸から福岡のアパートに戻った。

アパートから電話ボックスのある公園まではバスで20分近くかかる。

あたりに人がいないことを確かめて電話ボックスに入り、受話器を取り上げた。

まばゆい光が消えると義彦は元の世界の12月30日に戻っていた。

仕事は1月3日まで休みだが、義彦は実家に帰る気分にならなかった。

元旦も寝正月を決め込み、昼近くにマンション1階の郵便受けから年賀状を取ってまたベッドにもぐりこんだ。

1枚1枚見ていくと室田裕子からも年賀状が来ていた。

夫婦と赤ん坊の3人家族の写真が印刷されている。

それを見て義彦はあることを思いついた。

一種の賭けだった。

ドキドキしながらスマホで裕子にメールを送った。

「年賀状出せずにごめん。2世誕生おめでとう。旦那さんも初めて見たけどイケメンだね。今年もよろしく。」

返信はすぐにきた。

「子供だけじゃなく夫までほめてくれてありがとう。今度紹介するから大阪に来ることがあれば寄ってね。」

義彦がワープしたのは存在しない過去になっていた。

しかし、その空しさが裕子を失った悲しみをより強烈なものにした。


新年の業務が始まった。

失恋の痛みに悶々としながら大学入試の過去問を分析しているうち、義彦は一石二鳥のワープを思いついた。

高校3年時に戻って東京の一流私大を受験しようと考えたのである。

当時の義彦の学力では無理だが、今ならその年次の入試問題が過去問として存在している。

合格は確実な上に裕子との出会いも消滅して今の失恋の苦しみから解放される。

義彦は早速過去問の対策を行い、2月中旬に公園の電話ボックスに向かった。

ダイヤルボタンで6年前の1月上旬の日付けをプッシュした。

試験は1月下旬だが事前に願書提出の必要があるので上旬にワープしたのである。

高校3年時だからワープした先は佐賀の実家だった。

両親と1か月近く同居するうち、入試の日が近づいた。

義彦は母親に見送られて東京へ向かった。

受験科目は英語、国語、地歴の3教科でマークシート方式である。

対策は万全だから気抜けするほど簡単に英語、国語を終えた。

最後の地歴は日本史を選択したのだが一番の得意科目なので余裕で解答していった。

ところが最後の設問の答をマークしようとしたところ、解答欄がなかった。

解答用紙を点検すると、最初の答を2問目の欄にマークしていた。

全ての解答を一つずつずれた欄にマークしていたのだった。

青ざめた義彦がマークし直そうとして解答を全て消し終わった時、試験終了のチャイムが鳴った。


東京から佐賀の実家に戻った義彦は呆然として日々を過ごした。

国語、英語が満点でも地歴が0点では合格はおぼつかない。

体調もおかしくなり、喘息になったように息苦しくなった。

義彦は急いで福岡の電話ボックスへ行き、ダイヤルボタンをプッシュした。

例のようにまぶしい光に包まれ、目を開けると義彦は公園の近くの自宅マンションに戻っていた。

日めくりカレンダーを見るとワープ前の2月中旬のままだった。

義彦は佐賀の母親に電話をかけた。

正月に帰らなかった言い訳や近況報告をしながら義彦はさりげなく言った。

「福岡もいいけど、東京の友達からの年賀状を見れば僕も東京に行けばよかったって思うよ。」

すると母親は言った。

「それならそうすればよかったのに。あんた、受験の時そんなこと一言も言わなかったじゃない。」                                

義彦は電話を切った後、人生のワープはカーナビに似ていると思った。

違った道に外れても結局は予定されたルートに戻されてしまうのだ。

もうワープするのは止めよう、そう思った矢先に福岡地方に中規模の地震が起きた。

そのせいで公園の丘が土砂崩れを起こした。

倒壊した電話ボックスを見て義彦は諦めがついた。


3月に入ったある日、義彦は帰る途中で公園内の市立図書館に立ち寄った。

館内の暖房で体が温まったら帰ろうと思って書架を見て回っていると『時をかける少女』という本が目に入った。

自分はさしずめ時を翔けた青年といったところだな、そう思いながら本に手を伸ばすと、横からも同時にすっと白い手が伸びてきた。

「あ、すみません。」と言ったのは制服を着た女子高生だった。

かわいい顔をした子だったが表情が硬く暗い。

霊は取り憑いていないが、どことなく気になる雰囲気を漂わせていた。

義彦はその子に本を譲り、図書館を出た。

数日後、義彦がまた図書館に寄って出ようとすると入れ違いにこの前の女子高生が図書館に入って来た。

二人は顔を見合わせてお互いにちょっと頭を下げた。

義彦が家に向かって歩いていると、女子高生が小走りで近寄って来た。

「この前の本、今返却しましたからよかったらどうぞ。」

「そう、ありがとう。じゃ、今度来た時にでも借りようかな。」

女子高生の家も同じ方角らしく、二人は並んで歩く形になった。

「図書館にはよく来るの? 受験勉強かな?」

「ええ、まあ……。」

話が弾まないまま、電話ボックスがあったところまで来た。

崩れた土砂は片付けられていたが電話ボックスは撤去されて跡形もない。

通り過ぎようとすると女子高生が立ち止まった。

自分だけ立ち去るのも不自然なので義彦も立ち止まった。

「前はここに公衆電話ボックスがあったね。」

何気なく言った義彦の言葉にショックを受けたかのように女子高生がしゃがみ込んだ。

「どうしたの? 帰ろうよ。」

すると女子高生は誰に言うともなく呟いた。

「帰れない……」

今度は義彦がショックを受けた。

「君、もしかして……」


女子高生は山本玲子という名の高校3年生で、先日卒業したが国公立大の受験が済むまでは学校に通うとのことだった。

義彦と玲子は仕事帰り、学校帰りに図書館で会っていろんな話をした。

「大学1年生の夏休みに半年前の高3の2月にワープしたんです。」

「すると本当の君は未来の人で今は過去に来ているんだね。不思議な感じだなあ。」

「高3のバレンタインデーの時から付き合い出した男子がいたんです。ずっと続くと思ってたのに卒業の時に振られました。」

「どうして?」

「それが分からないんでワープしたんです。私に悪いところがあったのならやり直そうと思って。」

「それで?」

「ワープ前と同じようにバレンタインで告白したんですけど、その後暫くして私の友達が彼に話しかけているのを立ち聞きしてしまったんです。『玲子と私と二股かけてるの?』って。」

玲子はうつむいた。

義彦は催促せずに待った。

「『違うよ、本命は君だけだよ。だけどチョコをくれた時、玲子ちゃんが思い詰めた顔をしてたんで気の毒になって。だから傷つけないように付き合うふりをしてやってるだけだよ。』彼はそう言ったんです。」

泣き出しそうな表情になったので義彦は玲子を促して図書館を出た。

帰り道を辿りながら電話ボックスがあったところまで来ると玲子は立ち止まった。

「彼のひどい言葉を聞いてすぐに元の世界に戻ろうと思ったんです。でも地震でこんなことになってしまって、それで図書館で『時をかける少女』を借りたんです。元の世界に戻れるヒントが書かれてないかと思って。」

義彦は慰めるように玲子の肩に手を回して歩き出した。

玲子の家は公園を出て義彦のマンションに向かう途中にあった。

「電話ボックスがまた設置されるまで待てばいいさ。じゃ、また明日。」


電話ボックスでのワープについて玲子はいろいろなことを知っていた。

「試してみたんですが未来へはワープできませんでした。過去も電話ボックスが設置された時までしかさかのぼれないみたいです。最初のうちはちょっとだけ前の過去に何回かワープしてみました。でも恐いのでそのたびにすぐ戻りました。」

少女の幽霊が出るという噂はそのせいだと義彦は思った。

「僕は2回ワープした後はもうやらなかった。幽霊が出るという噂もあるしね。」

玲子はその噂は知らないと言った。

「それって道祖神の祟りのせいじゃないんですか?」

「え?」

「父が言ってたんですけど、あの電話ボックスを設置する時、側に祀られてあった道祖神に気づかずに業者が破壊してしまったそうです。今度の土砂崩れもその祟りじゃないかって。」

「よくは知らないけど道祖神は道の通行に関する神様だろうから、それであの電話ボックスが過去への通路のパワースポットになったのかな。」

お互いの秘密を共有した義彦と玲子は急速に親しくなり、毎日のように図書館で待ち合わせた。

塾の講師をしている義彦は玲子の受験勉強の手助けにはうってつけだった。

ある時、玲子が勉強を終えて広げていた参考書を閉じようとした。

義彦はスーツの内ポケットからしおりを数枚取り出してそのうちの1枚を参考書に挟んでやった。

「これ、うちの塾のPR用のしおり。あっ、でも君が受験に失敗してうちの塾に来ればいいなんて思ってないからね。」

慌てる義彦を見て玲子はふふっと笑った。

義彦は玲子の明るい顔を初めて見た。

帰り道では玲子のほうから手を差し出し、二人は手をつないで歩いた。


玲子が大学生になったら交際を申し込もうと義彦は思い始めた。

すると明るさを取り戻していた玲子の様子が次第におかしくなった。

「最近、元気がないね。どうしたの?」

「何だか体調が悪くて食欲がないんです。」

玲子は図書館に来なくなった。

国公立大学の合格発表の時期なのでそのせいかとも思ったが、義彦は胸騒ぎがして玲子の家に行った。

インターホンを押して名乗ると母親が出てきた。

「あなたが藤堂さん? 玲子がいつもお世話になっているそうで。」

そう言いながらも母親は険しい顔をした。

しかしその険しさは藤堂に向けられたのではなく、玲子の病状が思わしくないせいだった。

見舞ってやってくださいと母親は藤堂を玲子の部屋に案内した。

玲子はベッドから上半身を起こした。

「喘息気味になって学校も休んでるんです。」

「図書館に来ないから心配してたよ。大丈夫?」

「大丈夫じゃないみたいです。こんなことになるんだったらワープなんかするんじゃなかった。」

玲子の苦しそうな声を聞いて義彦は不意に思い出した。

「お帰りは1か月以内に。」

義彦は自分を振り返った。

大学生だった頃へのワープは1日限りのワープだった。

裕子を諦めなければならないショックは大きかったが体調に変化はなかった。

大学受験に向けての2回目のワープは戻るまでに1か月近くを要し、体調が悪化した。

義彦は思わず玲子の手を取って勢い込んで言った。

「玲子ちゃんはこっちのいつの日付けにワープしたの?」

「バレンタインデーの前の日だから2月13日です。」

「明後日でまる1か月じゃないか!」

明日の夜に連絡するからと言って義彦は玲子のスマホの番号を聞き、玲子の家を出た。


マンションに帰り着いた義彦がネットであれこれと検索して寝たのは夜中だった。

義彦は夜が明けるのが待ち遠しかった。

朝になると義彦はNTTに勤めている学生時代の友人に電話をした。

「藤堂か、こんな朝早くからどうした。」

「すまん、ちょっと知りたいことがあって。公衆電話の電話番号は公開されてないみたいだから教えてほしくてね。」

「なんでだ?」

眠そうな声ながらも友人は不審がった。

「授業のネタにしたいんだ。電話番号の下4ケタには縁起の悪い42(死に)とか49(四苦)とかは付けないそうだが、その浮いた番号は公衆電話に割り当てるんだろう?」

「よく知ってるな。」

「ネットで調べたのさ。たとえばこないだの地震で壊れたうちの近所の公園の番号なんか分かるかな。」

「出勤したら調べてみるがお前も物好きだな。」

義彦は友人からの電話を塾で首を長くして待った。

玲子の命がかかっていた。


その日の夜遅く義彦が玲子の家の前まで行くと皆寝静まっているらしく明かりが消えていた。

玄関先で義彦は玲子に電話をした。

電話に出た玲子の声は昨日よりもさらに弱っていた。

「玲子ちゃん、僕を信じて今から言うとおりにしてほしい。」

そう切り出してスマホを持って外に出て来るように告げた。

暫くして静かに玄関のドアが開いた。

玲子は閉めたドアにもたれかかり、立っているのがやっとのようだった。

義彦は玲子を背負って公園に向かった。

そして電話ボックスがあった地点で背負っていた玲子を下ろした。

義彦は玲子のスマホに友人から聞いた電話番号を入力した。

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ご希望の年月日をダイヤルしてください。」

荒い息をついていた玲子だが、それを聞くと目を見張った。

「藤堂さん、どういうことですか?」

「いいから、君がワープした時の元の世界の年月日を早く! もうすぐリミットの明日になる!」

玲子はスマホを受け取り、震える指で画面に触れた。

入力し終わると同時に目もくらむような光が二人を包んだ。

義彦は玲子を強く抱きしめた。

玲子が倒れそうになったせいもあるが、それよりも義彦は玲子と運命を共にしたかった。

まばゆい光が消えた。

玲子の姿は見えず、義彦一人がその場に佇んでいた。


玲子が元の世界へ戻った翌日、義彦は仕事に身が入らなかった。

玲子は永遠に自分より半年先の未来を生き続けるのだろうか。

それとも自分のことを思い出して会いに来てくれるだろうか。

そんなことばかり考えて1日を過ごした。

次の日、出勤途中に義彦が玲子の家の前を通りかかった時のことだった。

玲子は登校するところのようで、見送る母親と一緒に玄関から出てきた。

義彦は足がすくんで立ち止まった。

玲子と母親は義彦をちらりと見たが何の反応も示さなかった。

自分の場合と同じだと義彦は思った。

玲子は元の世界に戻り、ワープした過去は存在しないことになったのだと。


仕事帰りに義彦は久しぶりに図書館に立ち寄った。

館内には高校生も何人かいたが、玲子の姿は見えなかった。

いたとしても今の玲子にとって義彦は一人の見知らぬ他人に過ぎない。

義彦は書架から『時をかける少女』を取りだしてカウンターに行った。

「お尋ねしますが、この本は今でも人気があるんでしょうか。」

司書は義彦が持参した本にバーコードリーダーを当てて言った。

「映画化もされた筒井康隆の作品ですね。でもこの1年間は貸し出しの記録はありません。お借りになりますか?」

「いえ、結構です。ありがとうございました。」

義彦は司書から本を受け取り、書架に戻した。

暫くの間本の背表紙を見つめていた義彦はスーツの内ポケットを探った。

そして取り出した塾のしおりに自分のイニシャルを小さく書いた。

書き終えると書架から『時をかける少女』を抜き出してしおりを挟み、再び書架に戻した。

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本当の君は未来の人で今は過去に来ているんだね 仲瀬 充 @imutake73

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