鬼はどこ?

夏目咲良(なつめさくら)

鬼はどこ?

 2がつ3か。

 

 きょうはせつぶんのひでした。

 ほいくえんでは、おにのおめんをつくって

おひるには、おまめをたべました。

 あたしは6つなので6こ、たべました。

 そのあと、おにがきて、みんなでまめをぶつけました。

 おには、えんちょうせんせいでした。

 おむかえのじかん、ママがきゅうなようじでこれないと

れんらくがありました。なので、パパがくるまでむかえに

きてくれました。

 ばんごはんは、パパといっしょにレストランでたべました。

 おこさまランチがおいしかったです。

 コンビニもいって、おまめを買いました。

 おうちにかえるとまだママはかえってきていませんでした。

 パパがまめまきしようと、いいました。

 パパはおめんをかぶって、にわにでました。

 わたしは、おにはそとー、とパパにまめをぶつけました。

 とちゅうでパパがしゃがんだので、どっかいたいのー、と

ちかづいたら、パパがいきなりだきついて、くすぐってきました。

 わたしは、またまめをぶつけました。

 わたしもパパもおおごえでわらいました。


♦♦♦


 十五年前の節分の日。それが、私が父を見た最後の日だった。

 離婚。原因が父の浮気だったというのは随分後になってから聞かされた。

 こうして、汚い字で書かれた保育園の時の日記を読み返すと、いろいろと

腑に落ちることだらけだなと苦笑してしまう。

 母が迎えに来ず、いつもは来ない父が迎えに来たこと。レストランに連れて行ってくれたこと。そして、鬼に扮した時の異常なほどのはしゃぎっぷり。

 もう会えなくなる娘に『鬼は外』と大量の豆をぶつけられる父の気持ちは

如何ほどであったか。それは、母と私を裏切ったことへ対するせめてもの贖罪だったのか。

 私達が『家族』であった最後の日。一緒に過ごすことも無く、只、時の流れに身を任せていた母にとって、父はもう『鬼』でしかなかったのか。少なくとも私にとっては優しい最高の父だった。

 父は私達を捨てて得た新しい家庭の『福』になることができたのだろうか。





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