第9話 カミーユ・カサノヴァ子爵。
私はマリアンヌ。
庶民に生まれたけど料理の才能が有った、そしてお客さんに教えられた愛想笑いのお陰で、貴族が通う学園にも入れた。
だから宣伝もした、庶民が貴族に相手にされるワケが無いって分かってたけど、お金は大事だし。
料理には本当に自信が有ったから、だから皆に宣伝した。
そうしたら王子様が査察だってお店に来てくれて、料理を気に入ってくれて、私も気に入ってくれた。
でも婚約者が居るから、なれても妾。
それでも、来年の生活には、一生生活に困らない。
だから相手が居ても別に良かった、けど。
私を守る為に内緒にって、別にそれはどうでも良かった。
だって、相手は王子様だから仕方が無いのかなって。
でも王子様は内緒にするって言いながら、お店に通うだけじゃなくて、学園でも話し掛けて来て。
だから愛想笑いを教えてくれた人に相談したら、秘策を教えるって。
その秘策を王子様に伝えて、暫くしたらアニエスって令嬢が来て、彼女を隠れ蓑に使う事になった。
最初はちょっと悪いかなと思ったけど、一時でも王子様の相手になれるのは名誉な事だって、私に親切な人も王子様のお付きの人も言ってたし。
それに貴族だから大して苦労もしてないだろう、だから、この位は却って良い事だって。
だから、別にアニエスさんには学園でも会わないし、良く知らないから。
そのウチ考えなくなった。
だって、バレないのが1番だから。
なのに、私の王子様は本気でアニエスさんを妻にするんだ、って。
《そんな、何で?》
『君の為だよ、礼儀作法には疎いし、国の政策や政治が君に分かるかい?』
《それは、良く分からない事も多いけど、今は頑張って勉強してるし》
『それも嬉しい事だけれど、僕は君と出来るだけ長く一緒に居たいんだ。正妻は仕事を、妾は国王と愛を育てる者、その為の妾なんだから。ね、庶民でも賢い君なら分かるよね』
《ぅん》
『良い子だねマリアンヌ』
私の事は本気で好きなんだって事は分かる、でも不安だから。
《本当に好きか、知りたい、分かりたい。ねぇ?ダメ?》
『流石に結婚前に妊娠させられないからね』
《でも大丈夫な日だよ、今日、ちゃんと授業で習ったし》
『不安なのかい、アニエス嬢の事が』
《だって地味だけど、別に、顔は悪く無いし、貴族だし》
『多少は相手をするけれど、大丈夫、君が1番可愛いよマリアンヌ』
《じゃあ、ちゃんと、したいって思ってくれてる?》
『勿論、コレでも凄く我慢しているんだよ』
《本当に?》
『本当だよ』
《じゃあ見せて、見るだけ、好きなら見せてくれるよね?》
そうやって体でも落とせ、って親切な人が教えてくれた通りにした。
そしたら不安もかなり減ったし、王子様はもっとメロメロになってくれたし。
作戦も順調だって。
だから安心してたのに。
「今回の舞台、凄かったね」
『本当、面白くなさそうだと思ったけど、庶民が王子様と幸せになれる物語も有るんだって感じだよね』
《でもコレ、前編と後編に分かれてるんだよね?後編に何をするんだろ》
「あ、その後、じゃない?」
『王子様と庶民の幸せな生活、とかじゃない?』
《そっかー》
でも違った。
今度は貴族の女の子が、牢に居る場面から。
それから物語は不穏な空気になって、女の子は殺されて、国も滅びた。
「マジで何アレ、庶民と王子様が結婚しちゃいけないって事?」
『かもだけどさ、物語なんだから幸せになれたって言いじゃんね』
《それ、アンケートに書いて大丈夫かな、名前入れないとだし》
「文句を言う権利は有るって先生達も言ってたし、別に良いんじゃない?」
『そうだよ、別に間違った事を書くワケじゃないんだし、不満も書いて良いって書いて有るじゃん』
《そう、だよね》
私は別に正妻になるつもりも無いし、国を滅ぼす気だって無いし。
別に良いよね、アンケートに何か書いたからって、死刑になる筈も無いんだし。
『ご不満だったみたいですね、マリアンヌ・ブフさん』
僕に呼び出された事、だけでこの警戒心なのか。
王太子との事についてなのか。
かなり不安感と警戒心が強いですね。
《そう、ですけど、何で呼び出したんですかガーランドさん》
『ジハール、と。どう不満だったのか、今後の作品の為にも、是非具体的に聞きたかったのでお呼びしただけですよ。家の手伝いをしてらっしゃるそうですから、ココで話して貰えるだけで、賃金は出しますよ』
《話したらお金をくれるんですか?》
『はい、1時間、この金額です』
《本当に?》
『はい、僕は庶民にも楽しんで貰える作品を書きたいので、コレは先行投資です。先ずは先払いでコチラをお渡ししますね』
食堂で稼げるチップの分だけ、出したんですが。
《じゃあ、はい》
『では、何がご不満でしたか?』
《何か、王子様と庶民が結婚したらダメっぽいのが、嫌でした》
『誰のセリフにも、ダメとは言ってませんが?』
《でもだって、皆不幸になって国が滅びたじゃないですか》
『その原因が、庶民と王子の結婚だと思いますか?』
《それは、良く分かんないけど》
『幾ら時間が掛かっても良いですよ、お金は出しますから』
《じゃあずっと黙ってたら》
『僕の機嫌次第ですね、払うだけの価値が無いと思えば、他の方に頼みますから』
《あ、はい》
『それで、国が滅んだ原因は何だと思いますか?』
《難しいんですけど、庶民と王子が結婚したからじゃないんですか?》
『原因の1つ、ですね』
《他に何個有るんですか?》
『僕が思い付いた限りでは、最低でも3つ、ですね』
《3つ》
『はい』
《あ、王子様が優し過ぎたせい?》
『いえ』
《意地悪してます?》
『いえ、ですがご不満でしたら黙っていますよ』
《いえ、もう少し何か教えて下さい》
『ヒントは、大人、ですね』
《大人に悪い人なんて居ました?》
『それは、どの立場ですか?庶民の子女ですか?それとも貴族令嬢の方ですか?』
《そこは、貴族の事は良く分からないので、庶民の立場、ですけど》
『何もしていない貴族令嬢からしてみれば、悪いのは誰か、考えてみて下さい』
《はい》
そして出た答えは、魅力の無い元婚約者が悪い、と。
王太子殿下から、ミラ様についてそう聞かされている、と言う事でしょうか。
それとも、ジュブワ男爵令嬢の事か。
『そうですか、以降は気が向いた時にいつでも来て下さって良いですし、好きに切り上げて下さって構いませんよ。では、今日はありがとうございました』
《あ、あの、友達も誘って良いですか?》
『なら、コチラをお渡ししますので、書いて持って来て下されば、文章の量の分だけお金を出しますよ。マリアンヌさんもこの方法が良いなら、コチラでも構いませんから』
《はい、ありがとうございました》
挨拶やお辞儀の乱雑さ、礼儀の無さが気になって仕方が無い。
けれど、王太子殿下は、そこが良いんでしょうか。
恋をすればアバタもエクボ、だとは聞きますが、アレでは。
『あ、先生、先生は気になりませんでしたか、あの礼儀作法や振る舞い、考えについて』
《庶民と言うよりは、教育の無さ、でしょうね。十分に礼節を理解している子も居ますよ、それこそ大工の子や裁縫に在籍する子達も、十分に理解していますからね》
『特待生だからと期待していたんですが、どうしてあんなにも浅慮な子が』
《彼女を推薦した者が相当の大物、今はそこだけお伝えしておきましょう》
『相当の大物』
明らかに陰謀の香りがするんですが。
王太子殿下からの推薦かも知れませんし、本当に大物が善意で学園に入れた可能性も有る。
分からない。
父にも相談はしたのですが、見守れ、と。
先生にも見守るべきだと言われ、こうして話を聞く事しか。
《さ、次の舞台へ向けて原作を探しましょうか》
『いえ、既に有りますので、ご一読をお願い致します』
《筆の早さは評価しますが、先ずは敬愛の念が有るか、じっくり見させて頂きましょう》
『はい、宜しくお願い致します』
結婚も人生も脚本も、相対する方へ敬意をもって接しなくてはならない。
もし、敬愛の念を忘れてしまうと、全てが崩壊してしまう。
国も、人生も、何もかも。
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