あの子の地声
月鮫優花
あの子の地声
声も言動も見た目も愛嬌に溢れた大人気配信者、
そしてそれは今晩とて例外ではない。
「今日はねぇ、コラボの告知をさせていただきます!活動始めてから初のコラボだよ〜!前から相手は決めてたんだ、初めてコラボするならこの子がいいって!じゃーん!!」
そうして画面に映し出される、コラボ相手の画像。
「どん!
ご機嫌で話し続ける桜羅キラとは裏腹に、コメント欄は「誰?」「知らない人だ」で埋められていった。
それも仕方なかった。愛野恋好は弱小配信者と言っても過言ではない。桜羅キラとは明らかに知名度に差がありすぎる。
一通りコラボの情報を話した後、桜羅キラの配信は程なくして終わった。
「今日の配信はいつもより疲れちゃったぁ。瞳ちゃん、SNSでの反響はどう?」
荒れたタイムラインを見ていた私に声をかけてきたのは、親友の
「あーあ、その顔を見る感じだとダメそうだね。でもさ、覚えてる?私に『配信者になろう』って言ってくれた日のこと。」
あれはお互い自分たちの取り柄も理解していなかった、数年前のことだった。その頃私はちょうど他の有名配信者にくびったけだった。朝から晩まであの人のことを考えていた。特に興味を持っていなかった桜まで巻き込んでハマりにハマりまくった。
ある日思いついたのは、私が有名配信者になればあの人とのコラボができるのではないか、ということだった。止まっていられなかった私は早速その計画を桜に打ち明けた。
結果的には何もかも失敗してしまった。あの有名配信者はこの数年のうちに引退してしまったし、私は有名にはなれなかった。しかし極め付けはやはり、私の野望を聞いた桜が「じゃあ、私もやろうかな」なんて言った時に「いいね、一緒に配信者になろうよ!」なんて返事をしてしまったことだろう。桜が私の宣伝により配信者の魅力に気づき始めていたのも致命的だった。それに、あろうことか桜は私より随分大成した!
「あの頃はここまで来れると思ってなかったな、瞳のおかげでここまで来れたんだよ?」
ここまで圧倒しているのに、まだ言うか!と、黙って睨みつけてしまった私を見て、桜はいたずらに笑った。
「実は私ね、愛野恋好が有名じゃなくてよかったなって少しだけ思ってるの。」
桜の腕が、私の腰に巻き付いた。
「だってそっちの方が瞳のこと独り占めしているみたいで楽しいんだもん。本当は瞳だって似たようなこと思ってるよね?」
声も言動も見た目も愛嬌に溢れた大人気配信者、桜羅キラ。今やインターネットの枠を超え各種メディアで活躍している彼女の地声を、肌の温度を、生活を、私だけが知っている。
あの子の地声 月鮫優花 @tukisame-yuka
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