(一)
○福永修司の自宅、応接間
ダークブラウンで調度類が統一された部屋。
壁面にはガラス扉の本棚。
中央に一枚板の高級テーブル。その上に黒電話。その両側に黒の本革ソファ。
和服姿の神和泉(福永修司)、福永修一、福永美幸、スーツ姿の高井戸文彦がソファに腰掛けている。
福永幸恵がお盆にお茶を乗せてキッチンから部屋に入ってきてテーブルの上に置いていく。
携帯電話が鳴る音。
福永修一「お、ついに来た!」
福永美幸「いやこれは携帯の音よ」
高井戸、背広のポケットから携帯電話を取り出す。音が大きくなる。
高井戸「スミマセン、私のです」
美幸「ほらあ」
携帯電話、鳴り止む。
高井戸「あっ」
修一「高井戸さん、紛らわしいよ。電源切っておいてよ」
高井戸「スミマセン。編集長から電話がかかってくる予定なんで」
高井戸、携帯のボタンを押してから背広のポケットにしまう。
幸恵、空のお盆を持って立ち上がる。
幸恵「来るなら固定電話の方ですよ。ねえ」
神和泉、腕を組み目を閉じ無言で頷く。
幸恵、キッチンへ消える。
修一「そうなの? 高井戸さん」
高井戸「たぶんそのはずです」
美幸「そりゃあ茶川賞くらいになったら、自宅の電話にかかってくるもんでしょう。携帯にはかけてこないわよ」
全員、ローテーブルの上の黒電話を見る。
美幸「それに……」
修一「それに?」
美幸「まだ審議中なんじゃないの?」
美幸、部屋の端にある大きな古時計を指さす。時刻は一二時二五分。
高井戸「そうですね。発表は午後一時ですし。それに審議に時間がかかれば、遅れるはずです。いずれにせよ、まだ時間ありますよ」
全員、一斉にため息を吐き出す。
(続く)
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