うちのお隣さんが可愛い過ぎるせいで青春を知ってしまう件

星海ほたる

第1章

0.1  令嬢様と顔見知り? 

「……藤山さん?」


 火曜日の夜のことだ。天気が良く次の日がゴミの日だったから一週間で溜まりに溜まった厄介な家庭ゴミを近所のゴミステーションで分別し帰っていたその時。


 綺麗で透き通るほどに心地よい声で喋りかけたのは……同じクラスの女子――小山 めぐみだった。


 彼女と始めて言葉を交わしたのは高校生活に少しずつ慣れてきて初めてのグループワーク。その時の印象は、清楚な雰囲気で大人しそうな男子に人気のある美少女ってくらい。このグループワークで二人の距離が縮まったわけでもなく今に至る。


 なぜここに小山恵がいるのかが不思議でたまらない。


「あ、うん。小山さん? だったよね」


 ここで会話が終わる。そう思っていた。


 しかし……


「名前……覚えてるんですね。お家は近所で?」

「うん。ゴミ出して夜ごはんでも買おうかなって」


 なんでほぼ面と向かって話すのも初めてで、俺みたいなパッとしない陰キャに話しかけてくるんだ……。


 でも人見知りでなるべく人と関わるのを避ける自分にしてはこんなにも自然に答えられるのは珍しいと思った。


「俺みたいな陰キャ凡人と話してると令嬢様のイメージ下がるし、ここで」

「藤山さんはそんなことないです! それに私は令嬢ではないですし、それほどできた人間ではないので……」






 ――部屋に戻ってソファーで一息。小山恵のことを思い出した。


 小山恵は成績優秀、スポーツ万能、顔も学校一可愛いと言われているし、俺みたいなちり紙レベルを相手してくれるはずがない。俺がちり紙なら高級車みたいな人だから。


 クラスや周りでは良く小山のことを『令嬢様』と呼んだりしているのを耳にする。


 その言葉からは小山恵が学校内で品格が高く、とても人気な存在だということが表れている。


 何度も言う。俺みたいなクラスで居場所の少ない八軍男子みたいな奴には縁もないそんな人だ。まさに『ご令嬢様』。


 さっき偶然会ったところ学校の奴に見られてないといいけど……。陽キャな男子にでも見られていたら明日質問攻めされそうで面倒くさいな。


 小山恵のことも少しずつ頭から離れてテレビに夢中になってきた時。

 そろそろお風呂に入って寝る準備でもしようかと決心がつき立ち上がったタイミングでうちのインターホンを誰かが鳴らした。


 夜も遅かったので少し警戒しながらも待たせると悪いのでホウキを片手に持って玄関のドアを開いた。


 そこには数時間前に何処かで見た顔。


「夜分遅くにすみません……」

「ん?」


 この顔には確かに見覚えがあった。


「小山さん?!」

「藤山さんお願いがあります」


 少し涙ながらに玄関の外で俺の顔を見上げるのは、令嬢様――小山恵だった。

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