第34話 ざっくり都市計画

 ガーリックトーストとワインを持って2階へ。村長室では、アレッサンドロ村長と三人娘が、応接セットで会議中だった。こっちは真面目に働いてくれているらしい。かと思えば、ちゃんと手元にはプロトタイプガーリックトースト。


「ユート様、お待ちしておりました」「お、来た来た」「下が騒がしいですけど、何かありましたの?」「ユート、手に持ってるの、何」


 俺が下でピザソースと新型ガーリックトースト、ブルスケッタを伝授したと知るや、三人娘は村長室を飛び出して行った。やれやれ。俺は残ったアレッサンドロさんと、持って上がったワインとトーストで乾杯した。


「いやはや。ユート様のお陰で、皆の陽気な笑い声が絶えません。どうお礼を申し上げたら良いか」


「いや、パンや酒を作ってるのは皆さんですから」


 俺も褒められると悪い気はしない。さっきまでは「昼間っから酒ってどういうことだ」なんて思ってましたけども。


 本日の彼らからの伝達事項は、特になし。居酒屋開業で、それどころではないようだ。俺からは、赤い果皮のブドウを植えたので、食べるなりワイン作りなり活用してほしい、ということ。すると村長はガタリと席を立ち、「こうしてはおれん!」と村長室を走り去った。


 一人村長室に取り残された俺は、そっとため息をついて、我が家に戻ることにした。




 洗濯機は止まっていた。シーツを干しておく。今回のこっちでの仕事のうち1つは、これで終わり。もう1つは、冷蔵庫の設置とワインの冷却だ。それにしても、コンセントだけじゃなくてアースまで付いているとか。ここの電力供給はどうなっているんだ。


 帰り道にもらったワインを、慎重に瓶に詰める。しっかりキャップを閉めたら、冷蔵庫へ。これで次回にはキンキンに冷えているはず。赤ワインも楽しみだ。これから増やした畑は全て赤ブドウ園にしよう。


 改めて、もらったパンにピザソースを塗り、チーズを乗せてオーブンへ。そして焼けるのを待ちながら、居酒屋夫婦に作ってもらったガーリックトーストとブルスケッタをとともに、白ワインをキュッと一杯。ヤバいな。このクオリティのワインが飲めれば、もうチューハイなんか要らない。ビールは別枠だが。ああ、早くこっちでビールが作れるようにならないかな。


 ピザとガーリックトースト、ブルスケッタと来たら、もうほとんどイタリアンだ。パスタでも作れるようになったら、完璧だな。いや、居酒屋ならば、和洋中全部置いてあってもいいはずだ。こないだ立ち読みして買わなかった、つまみのレシピ本。あれを買って来るといいかも知れない。


 熱々のピザとワインを持って2階へ上がり、ベランダから薬草を回収。そして次の薬草の生育を横目に見ながら、コピー用紙に都市計画。都市計画と言っても、ほとんどゲーム通りに配置しようと思っているが。やはり見慣れたレイアウトは安定感がある。しかし、そもそも効率厨の俺にはセンスが皆無だ。せっかくヨーロッパの田舎のような街が作れるというのに、俺の作った村は、区画整理された畑と新興住宅地のような、直線的で残念な様相を呈している。ここは装飾アイテムで誤魔化すしかない。


 村の北に、俺の家。これは固定で行こう。アプリの画面ならともかく、3Dの世界で農作業をするなら一目で見渡せるに限る。そして住宅地は西側。これもこのままでいいだろう。今は適当に固めて建ててあるので、少し間隔を空けて、小さい公園を挟んだり街路樹でも植えて、それっぽく。そして中央から南は畑、東は果樹園と養鶏場。


 栗鼠族が移住して、建てられる建物が増えた。街路樹のような装飾もそうだが、集合住宅や大きめの住宅なども。これまで洞窟などに隠れ住んでいた彼らは、家族単位で小さな住宅に住んでいるが、平屋の1LDKに1家族ずつなんて雑魚寝もいいところだ。単身者用や大家族用も用意した方がいいだろう。


 道は全て石畳に。それから、小川の先に池を配置してもいいな。水場は良いレジャーになる。運動場も作れるんだが、需要はあるだろうか。いや、もうちょっと人口が増えれば学校が出来るから、その時でいいかな。


 今は役場を俺ん家の隣、村の西北に建てたけど、この辺が暫定商業地区ということでいいだろうか。パン屋と酒蔵以外の商業施設も順次増えて行くとなれば、もっと拡張が楽な南側に持って行くべきか。ゲームではそうしていた。しかし、俺が毎回出向くとなれば、出勤先の役場が隣にあるのは有難いんだよな。よし、建物が増えて村を拡張する場合は、住宅地を南にずらして行くことにしよう。俺が好きにしていいって言ったんだから、そうさせてもらう。


 洗濯も終わったし、都市計画も立てたことだし。のんびり風呂に入って、そろそろおいとまするか。次に来た時には白ワインがキンキンに冷えているはずだ。俺はワクワクしながら、1階へ向かった。




 さて、こっちに戻るとすっかり暗い。19時なら、まだ本屋に間に合う。急いで支度して、つまみのレシピ本をゲットだ。それから、イタリアンといえばパスタ。スーパーでパスタとパスタソースをゲットだ。これもレシピさえあれば、あっちで作ってもらえそうだな。しまった、それならパスタのレシピ本を買って来れば良かった。とりあえず明日また本屋に立ち寄るとして、今日のところはいくつかネットで調べておこう。


 ネットで調べるといえば、サトウカエデのことを忘れていた。お古のスマホで画像検索して、スクショしておく。記事によると、春先のちょっとの間しか取れないらしい。そして、40分の1になるまで煮詰める必要があるとか。結構気が遠くなる工程だな。だが、熊族をスカウトして養蜂を待つよりは、メイプルシロップの方が入手が簡単そうだ。サトウカエデ、あっちで見つかればいいが。


 そして、気になるのが食洗機。もう家電もあらかたあっちに持って行ってしまって、こっちのミニキッチンに置ける食洗機なんか探す気が失せてしまった。あっちなら、多少大きくてもどうとでもなる。こうして改めてネットで見てみると、食洗機って思ったほど高くない。上を見ればキリがないが、一人用なら4万円も出せば買えそうだ。これはいよいよ導入を検討すべきかも知れない。


 改めて、あやふやだったブルスケッタのレシピを検索。そしてつまみのレシピ本を改めてパラパラと…ああ、何で忘れてた。つまみといえば枝豆じゃないか!それから、だし巻きやオムレツなど、卵を使ったつまみもだ。あっちで卵が採れるようになったはずだが、まだ俺の口には入っていない。100人もの人口を支えるためには相応の卵が必要だろうから、遠慮してたんだが。養鶏場についても相談しなければならない。規模の拡張が必要なら、畑を一部転用してやらなければ。


 ああ、ネットを見ているとキリがない。レシピ本もだ。全部一気に調べて導入なんて無理だろう。何事も、一歩一歩だ。なんせ、農村経営のモットーは「風呂、飯、酒」「癒されること以外はしない。無理はしない。頑張らない」と決めたからな。


 それにしても、村役場が居酒屋に化けていたのはちょっと呆れたが、いつか飲食店が欲しいと思っていた俺の野望は、かなり前倒しで実現したわけだ。ここは素直に喜ぼう。アウグスト・アイーダ夫妻には大いに期待している。さあ、あっちで美味い飯と酒にありつこう。

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