第32話 役場で酒盛り
おはようございます。ベランダを開ければ、朝のいい空気。果樹園や畑の残りの作物を収穫し、薬草を植え。養鶏場・パン屋・酒蔵からコインを回収し。さあ、早速洗濯だ。
洗濯機を回しながら、まずは腹ごしらえ。こないだ作った自作の野菜炒めを食べてしまおう。玄米ご飯と一緒にカッ込めば、何だか健康になった気がする。軽く身支度を整えたら、村役場にご出勤。
「ちわーす。村長さんたち、いらっしゃいますかー」
ベランダを開けた時、畑の住民が俺を目撃している。カウンター奥の事務机には、村長さんズと三人娘がいた。
「おお、これはユート様。おはようございます」「お待ちしておりました、ささ」
村長ズに勧められて、事務机に陣取る。てか、デスクが4つしかないな。三人娘は丸椅子を持ち出して座っているが、ちょっと狭い。
「集まってもらってありがとう。まずベルティーナ、筆記用具だ。使ってくれ」
「おお、文明の利器」
君、文明の利器って言葉好きだな。確かに鉛筆削りも消しゴムも、この世界からすれば文明の利器かも知れん。
「まあっ、植物で出来た紙ですの?!そして炭がこんなに書きやすく!ユート様、こちらはいかほどご用意「姉ちゃん、転売はダメだから」
何が何でも転売したいビビアーナ。一切のブレがない。
「ユート、あれ良かったぜ!折れちまったんだが、また頼めねぇか?」
だから包丁は槍の穂先ではない。
彼らには、
まず村のレイアウトだが、「ユート様のお好きなように」「ユート様に一任したい」という意見が多く、全面的に都市計画を任されることになった。後で不具合があれば、陳情を受け付けるという形で。
次に作物や食材については、前回提案した砂糖と油を早急にお願いしたいと。しかし、植物油については交易で入手可能。砂糖については、僅少ではあるが蜂蜜が採れるらしい。
「蜂蜜か、完全に頭から抜けてたな。養蜂すれば量産出来そうだけど」
「蜂を飼育する技術については、熊族が得意としております」
そうだ。蜂蜜があるなら、メイプルシロップも採れるんじゃないだろうか。付近にサトウカエデが無いか調べなければ。古いスマホで画像検索して持って来よう。
「そういえば、こっちにチーズはないかな」
「酪農を
そうか、酪農か。その人たちが、この村に移住してくれればいいんだけど。東側の丘陵地帯は、果樹園のみならず酪農にも適している。
「実は、ユート様が移住者をお望みだということで、我らも同胞に働きかけております。採集班の男衆を二人一組で近隣の街に向かわせ、手紙を出したり声を掛けたりと」
それは有り難い。現在村の総人口は98名だが、あと少しで解放される機能もある。
「それより、チーズをお気になさるなんて、何か美味しいものでもご存知ですの?」
ビビアーナから、鋭いツッコミが入る。
「そうだそうだ。この間も、親父たちだけいい匂いさせやがって」
「何だと。お前たちだって、ユート様にご馳走になっていたではないか」
「それはそれ、これはこれ。私、ユートのご飯作り手伝ったし」
ああもう、餌付け失敗。みんな言い争うポーズを見せつつ、俺のことをジト目で見ている。
「うんんんんまッ!!!」
「何じゃこりゃあ!パンがこのような馳走にッ!!!」
ああ。役場がパーティー会場になっちまった。
あの後俺らは、みんなで連れ立ってパン屋へ。パン屋では、天狼族と栗鼠族の女性職人がせっせとパンを焼いており、「いくらでも持って行ってください」とにこやかに申し出てくれた。ありがてぇ。そしてその足で、酒蔵にも立ち寄る。「最近やっと味が安定して参りまして」村長たちが勧めるものだから、とりあえず木製のピッチャーに一杯頂いて来た。なお、三人娘たちにはブドウ果汁だ。アニェッラは「あたいは成人だっつーの」とブー垂れていたが、俺が来たからにはお酒は二十歳になってから。
俺は役場の給湯室で、パンにピザソースを塗り、チーズを乗せて、薪オーブンで焼く。途端に、役場の中にはガーリックの香りが充満する。
パンは焼きたてなので、上のチーズが溶ければ完成。熱々のピザを1枚ずつ取り分け、ワインと果汁をカップに注いで乾杯だ。
———彼らは総じて猫舌というか、熱い食べ物に弱いらしいが、口の中を火傷するのも構わずにピザにガッつき、あっという間に平らげた。役場の前には、既に俺らのことをパン屋から
「あの、皆さんに行き渡るほどのピザソースとチーズはありませんが…」
それからは、村人全員が仕事をそっちのけで、パンとワインを手に役場へ集まった。俺は急遽ニンニクを増産し、微塵切りにし、持ち込まれたパンを片っ端からガーリックトーストに加工した。塩も油も使い果たした。村人も手伝ってくれたとはいえ、一体俺は何をやってるんだ。しかし、ガーリックトーストだけでワインが進むのは分かる。分かるぞ。ああ、あっちに戻ったら、とりあえず油を調達だ。サラダ油でいい。それからおろし金。そして、ピザソースのレシピを調べて来よう。
盛り上がる村人を尻目に、俺は一旦辞去した。幸せなのはいいことだ。
家に戻ると、洗濯機はとっくに止まっていた。洗い上がったシーツと、布団も干しておく。二階に上がって薬草を取り込み、プチトマトとニンニクを増産。その間に、チキンカレーの制作だ。ジャガイモとニンジンをピーラーで皮剥き、鶏肉と玉ねぎと共に炒めて水を注ぎ、煮込む。具は全部大ぶりだ。煮込みながら、プチトマトやレタス、スプラウトなどを増産して洗っておく。
改めて、さっき役場でもらったワインとガーリックトーストをいただく。ワインはフルーティーなのに辛口で飲みやすく、あまり得意でない俺の口にもぴったりだ。もしこれがキリッと冷えていれば、言うことないだろう。いっそ冷蔵庫をこっちに持って来てしまうか。そして、ガーリックトーストもだ。本格的なガーリックトーストとは違う、油を塗ったパンににんにくのみじん切りを乗せ、塩を振ってオーブンで焼いただけなのに、ワインがガンガン進む。
ニンニクを刻みながら、村人の女衆と話したところによれば、ここで使う油は主に獣脂だそうだ。彼らのタンパク源は、狩猟。養鶏場が出来た今でも、それは変わらない。アニェッラは狩猟班の主力メンバーで、彼女が俺の嫁に寄越されたのは、彼女が腕っぷしが強く跳ねっ返りで、自分より強い男じゃないと嫁ぎたがらなかったという問題もあるが、彼女を嫁に迎えれば、食肉に困らないだろうという配慮もあってのことだそうだ。やたら包丁を武器にしようとして呆れていたが、彼女は彼女で自分の役割を果たそうとしていたんだな。ちょっと誤解していた。
獣脂も貴重だが、植物油は交易でしか手に入らず、更に貴重品。だから、俺が油の採れる植物を持ち込んでくれるのを、皆期待して待っているということだ。ううむ、通販が到着するのは明日の夕方。もう少し待っていただきたい。
他に貴重なのは、塩。この辺りにも、わずかながら岩塩が採れる場所があるらしいが、採掘が困難。逆に、採掘が容易な場所は、利権問題があるとのこと。村で砂糖も油も採れるようになれば、今度は塩を定期的に買って来なければならないかも知れない。サラリーマンの語源は「塩を買うための俸給」だと聞いたことがあるが、彼らの労働の対価に塩を払うようになれば、彼らも俺と同じリーマン仲間ということになるのだろうか。
そろそろカレーが煮えて来た。弱火にして、ルーを割って溶かして完成。フードコンテナに小分けして、鍋を洗って終了。ああ、コンテナがもっと欲しい。もう少し買い足して来よう。
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