現実的すぎるバス運転手の物語

きっしゃん

第1話 運行初日 いってきます!

これは、とある大阪の貸切バスドライバーのお話。

将来のことなんて考えずに大学で何気ない日々を過ごしていたある日、幼少期に優しくしてくれた観光バスのドライバーを思い出し入社したこのバス会社。

今日は6月1日、2か月の研修期間が終わり遂に独り立ちの日だ。

「おはようございます。点検異常なしです。」

「おぉー風間!遂に独り立ちやなぁ、気ぃつけていってらっしゃい!」

「ありがとうございます。」

朝の点呼を終えて向かうは幼稚園近くの駐車場。今日の仕事は幼稚園児の遠足だ。沢山の命を背負ってるんや、と思いハンドルをギュッと握り直した。

「運転手さん!おはよう!」

可愛らしい幼稚園児を見て少し緊張が緩んだ風間は笑顔で挨拶を返した。

「園児は全員揃いました。よろしくお願いします!」

「かしこまりました!」

「本日は大阪観光バスのご利用、誠にありがとうございます。安全の為、お座りの間はシートベルトをお締めください。皆様にとって良い1日となりますようお手伝いさせていただきます運転手の風間と申します。狭い車内ではございますがごゆっくりお寛ぎください。」

アナウンス、言い忘れてへんかなぁ、少し心配しながらも、園児の楽しそうな声に安心する。

今日は単独運行なので自分のペースで走れるが、裏を返すと先輩方のペース配分がわからない。信号待ちで時計をチラチラ見ながらバスを走らせる。

「はい!天王寺動物園に到着いたしました!足元にお気をつけてお降りください。」

「運転手さんありがとー!」

「はーい!いってらっしゃい!」

全員降りて車内の点検を終えて少しの休憩に入る。

腹ごしらえに駐車場から出てみる。てんしばを歩いていたら学生時代に友達とふざけ合ったことを思い出した。みんなどうしてるんかなぁ。

思い出の地に行きたくなった風間は昔の行きつの定食屋に入った。いつものおばちゃんが居た。

「おー!悠太やんか!久しぶりー!」

ハイテンションなおばちゃんにあちこちを叩かれた。

「仕事、今日から独り立ちなってきてみたんですよ。」

「えらいなー、天丼でええな?」

「はい!」

懐かしい天丼定食が出てきて、ちょっと泣きそうになった。一緒に飯食ってたあいつらどうしてんのかなぁ。

「ご馳走様でした!」

「おーまたきてや!」

また時間はあるが緑茶だけ買って早めにバスに戻って歩いていたら隣のバスに見覚えのある顔を見つけた。見間違いかなぁなんて思っていると、園児たちが帰ってきた。

「ゾウさんすごかったでー。キリンも!」

「では、発車します。」

幼稚園へ向けて出発した。静かになったと思いルームミラーを見ると、園児たちはすやすやと寝ていた。可愛い。安心な運転をできているのかなと思い少し安堵した。

「運転手さん、ありがとうございました!」

園児の笑顔とありがとうで疲れが吹っ飛んだ気がした。

バスを会社に回送して点検する。

「風間くん、1日お疲れさん!」

「ありがとうございます。失礼します。」

ほっとした気持ちで自転車で帰宅する。

しかし、駐車場の隣におったやつ誰やったかなぁ、帰ってから卒業アルバムを見ることにした。

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