第42話 仲間を求めてー1

「それにしたって、勝ち目はないだろう?」

「う、るさい、ぞ。おれの、こえで」

「お前の思考に間借りするのは心地よい。

 死なれては俺も困るのだ」

 この猫の思考と発言は『異能』で読み取った俺のものでもある......。

 不毛なやり取りだ。

「そうだな、不毛だ。だが、声に出して整理するのが斉藤佳助だろう?

 俺が手伝おう」

 癪だが、仕方がない。状況を整理しよう。

「俺の肉体は、3か月の昏睡で発話すら困難、十全に動かすには、気の長く苦しいリハビリが必要だろう。

 『異能』については、未知だ。

 『異能視』が強化された結果として通常の視界が失われている。

 微生物の『色彩』まで『視える』から、真っ黒な画面に輪郭線が浮かんでいるような視界だ。

 ......それだけでは、武器たりえない。

 もっと自由な解釈で、『異能視』と向き合わなければ。

 透視や『異能』の性質を見切るくらいができるようになれば文句はないのだが。

 敵は、千里さんとその支持者1000万人。

 まあ、そのうち俺を直接阻むのはそう多くないだろう。

 『異能』を考慮して、近代化された軍隊を相手取るくらいだろうか」

 


 整理すると......絶望的だ。

 例えば通常の軍隊相手ならば、悟君の『情報転写』で電子装備を無力化できる。

 通常の人間の暗殺ならば、『ライオン』志村大志の『認識阻害』で可能だろう。

 通常の軍人相手の接近戦であれば、『ジャガー』田中悠斗の『超加速』で敵なしだろう。

 しかし、相手は、無数の『異能』で武装した人間。

 ありとあらゆる『非常識』がたった1つの『異能』を押しつぶすだけ。



「結論は堂々巡りだが、少し思考が冴えてきたな」

 そうだ、1つの『異能』では勝ち目はない。

「仲間を集める......。

 レジスタンスと合流する?市民を扇動する?

 いや、もっと地道に。

 悟君と『協会』メンバーを探そう」

 


「先生......!」

「さと、る、くん」

 いつの間にか、引き戸の向こうには悟君が立っていた。

 左腕の黒いブロックノイズ、見間違うはずもない。

 しかし、イメチェンしてベリーショートだった髪は更に短くなっている。

 スポーツ刈りに近いシルエットだ。

「俺が代弁しよう。悟君、髪切ったね?」

 猫、少しおどけすぎだ。

「目が見えないって聞きましたけど、今は見えるんですね?」

 悟君が駆け寄り、かがんで俺の顔に目線を合わせる。

「嘘を吐いても仕方ないから言うが、『異能』で輪郭を捉えるくらいで、眼球は機能していないんだ」

「そんな......」

「心配するな、輪郭は分かるって言ったろ?」

「猫、嘘だろ?」

 枕もとの猫に詰め寄る悟君。猫はシャー!と鳴いて窓枠の上に逃げ込む。

「ほんと、うだ」

「じゃあ、この指は何本です?」

 三本指を立てる悟君。それでは証明できることが無くないか?

「りん、かく、はみえる。さん、ぼ、ん」

「じゃあ見えてるじゃないですか!あの猫!」

「待て、落ち着け悟!やつに俺の模様を訊け!」

「あのクソ猫の模様は!?」

 見えないし、『視えない』。

「まえ、はみけだ、た」

 悟君が息を呑む。

「本当に、見えないんですね......。あの猫又、白いですよ?」

「そういうことだ。俺に詫びろ」

 猫は俺の腹の上に飛び乗り、高らかにのたまう。重いぞ。

「......悪かったよ、猫」

 悟君も指摘しない。

 俺は寝返りにも苦労するのに、この重量感はキツい。

 吐く物も胃に入ってないにしても、だ。

 まずい、意識が......。

「先生、それよりも......」

 頭が痛い......。

「ちょっと、猫さん!?佳助さんの顔色が!」

 時子の声......。

 響く......。

 遠く......。

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