異能閉鎖都市東京
第40話 覚醒の代償ー1
_すまない。過酷な運命を君に強いている_
そうだな。だが、あんたが出てくるならあの世ではないということだな。
_私が『視る』ことが出来る時間領域、その果てが近い_
そうか、清々するよ。訳知り顔で語るくせに、記憶には残してくれないのだから。なんの役にも立たないあんたとも、お別れなんだな。一発かましてやれないのが残念といえば残念だ。
_いや、最後に餞別だ。この空間での記憶、君が目覚めても持ち越せるようにした_
ということは、あんたの励ましは虚しく、東京は滅茶苦茶になるということだな?
_……少し、違う_
なんだと?
_私にとってはそうなのだが、君にとっても、もう、なっている。覚悟を決めるんだ_
目が覚める。視界は漆黒。どうやら深夜の病室、それも個室のようだ。横たわったまま、首を右に向ける。わずかに輪郭から分かる窓の外もまた、夜闇に包まれている。星も明かりも無い。
いや、星が無ければ街灯りが、街灯りが無ければ星が見えるはずだ。これはおかしい。
「こ......れ......」
声が出ない。体は鉛の重さ。おそらくは......。
「おそらくは、俺は昏睡していたのだろう」
俺の声。発したのは俺ではない。声の主は、『淡い黄色』の猫、いや、猫又であった。
「俺が代わりに喋ろう。
3か月ぶりの目覚めにしては、お前の思考はクリアだ」
この猫又は、他者の思考回路に間借りして理性と声を得る『異能』を持つ生物だ。
「そうだな。かつてお前が『非常識探偵』としての依頼で探し当てた猫だよ」
「俺に『異能』を与えた女の話は覚えているな?
今なら察しがついているんじゃないか?」
そうだ。この猫には人間の見分けは、見比べれば分かる、くらいだと言っていた。俺は千里さんを思い浮かべる。
「そう、千里さんだ。
あの人は、自分や仲間が持て余す『異能』を適当にばらまいていたんだ」
なるほど......。雑なことだ。
「俺は心底迷惑したぞ。人間が持て余すモノを猫なんぞがどうできるんだ?」
「それはさておき、気分が悪いだろうが、お前の知りたいことを単刀直入に語ってやる。覚悟は良いか?」
そうだな。自分の声で自分の内心を語られるよりは建設的だ。
「いいだろう。まず、ここは都内の総合病院だ。
お前は先ほど言ったように、3か月昏睡状態だった」
そこまでは良い。
「今の時刻は......そう、昼過ぎだ。
良い天気だぞ。春の風が薫る、日向ぼっこ日和だ」
では......。
「お前の目は、光を映していない。
『異能視』で微生物のかすかな『色彩』を『視て』いるのだ」
そうか。それは......受け入れるのに時間がかかりそうだ。
「お前の『異能』がその類で幸いだった?
いや、逆だな。『異能』が肉体の許容量を超えたんだ。
医学的には問題無いその視神経は、お前の『異能』でビジー状態だ。
眼球ごと入れ替えても解決はしないだろう」
そうか。あの『棺』が『異能』を強化する海未の『異能』を発動した結果が、これか。
「では、あの敷地内にいた『協会』の面々は?悟君は?時子は?そして、この都市に住まう人は?
おい、落ち着け。思考が多すぎて喋れないぞ」
「落ち着いて聞け。
お前ほど影響を受けた生物はいない。
だが、この都市は、駄目だ。今の人類では手に負えない」
「俺を信用できないようだな?
お前の思いつく人物では......時子がこの病院で手伝いをしている。
ナースコールで呼べるだろう」
猫又はナースコールのボタンを前足で器用に押す。
「俺の声に覚えがあるだろうが、俺は猫だ。
斉藤佳助が目を覚ました証明になるだろう?」
俺はこんな回りくどい口調だったか......?
「猫にそんなこと聞いてどうする?」
こいつめ......。
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