第21話 苦く甘い恋心

スローテンポな音楽と談笑。

おごそかなヴァイオリンの曲と、透き通るチェロの音色、軽やかにかなでられるピアノの音。

それらが全て遠くで聞こえる。

まるで今、みているのは夢だとも思える、幻想的な蠟燭ろうそくと月光がわずかに差し込むバルコニー。


静まり返ったその場所には、紗良とレオナルド王子しかいなかった。

 

「そういえば、シア姫から先日聞きたわ。レオの婚約者をそろそろ決めるとか」

その言葉に、レオナルド王子は眉をひそめた。

 

「どれだけ、何を聞いた?」

「えっと、今後行われる舞踏会で決める予定だとか何とか?よかったですね、今日も素敵な令嬢たちがより取りみどりで」


 見るからに華やかな女性たちが彼を見ていたのは知っている。

 誘いを待っているのだろう、というのも見てわかる。

 そもそも、シア姫いわく今回の舞踏会は各国要人の婚約者探しだったらしいし、と思い返す。

 

「それに関しては……お前は――この世界にくる前に、婚約者とか、いたのか?」


「ううん、いなかったよ。というか、シア姫にもいったけど、どちらかといえば、私たちのいた世界は好きな人と結婚する人が多い世界だったし、そもそも年齢的にも早い感じで。あと5年くらいしたら……そこは、わかるようなきもするけど」

 

「いたのか?好きな人とやらは」

「特にいなかったわ……そういうレオはいるの?」

「ああ」


そのあっさりと返された言葉に紗良は、胸がえぐられるように痛くなった。

続く会話の質問を考えたが、思うように頭が回らない。


「そっか」


 ――そういえば、自分が婚約候補に挙がっていた時。互いの合意がない、とかで話が流れたんだっけ、と思い返す。

 好きな女性がいれば、それは当たり前の行動だろう。

 

なんとか、短く相槌を言葉を出すのがやっとだった。

沈黙が心をより重くさせる。


紗良はレオの瞳をみた。吸い込まれそうになるほどの深紅の瞳。

彩る僅かな照明が反射して、いつもよりも憂いを帯びていた。

先日押し込めていた気持ちが、また浮上し始める。

 息が苦しくなる。


「好きな人のことで、話そうと思っていた……実は」


紗良は首を振った。

 泣かないよう、指の爪を自身の腕に食い込ませ、我慢する。

もう少し、そのあたりについては……自分の気持ちに整理がついてから聞きたい。

それが叶わぬなら、例えわずかでも先延ばしにしたくもあった。


「レオ、待って。私……踊ったら喉が渇いちゃったから。ちょっと飲み物を取ってくるね」


取りつくろった笑顔だと自覚する、またひきつってしまっただろうか。

 

「いや、俺が行くから、待っててくれ」


去り行く後ろ姿に、紗良は静かにうつむいた。

 

――やはり自分はレオが好きなのだ。それは、わかっている。


ため息をついた。

戻ってくるわずかな前に、気持ちに整理がつけるのは難しいだろうな、と考えていた矢先のことだった。


「はあ、やっと見つけた……おい、女!ここにいたのかよ」


その声に、紗良は顔を上げた。

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