五話 小田原紫織 『ツヅミさん』


―――


 やっほー。

 えへへ、そろそろ来る頃なんじゃないかと思って、どんな話をしようか迷っていたところだったんだんだ。

 アタシ以外にも怖い話、色々聞いてるんだって?

 ……ふんふん、三年生の先輩に、後輩に……。

 

 ……どうしてそんなことしてる、って聞いちゃダメかな?……あ、やっぱりダメなんだ。

 まあ、アタシは怖い話を聞くのも話すのも好きだからいいんだけどさ、気になっちゃって。


 ま、いいや。

 えーと……確かこの学校にまつわる怖い話を聞きたいんだよね。

 他の生徒から、どんな話を聞いたの?


 …………。


 なるほどね。

 アタシが知っている話もあれば、その子しか知らないような話もある……さすが、キミの選んだ語り手だけあるね、おさえてるところおさえてるなぁ。なんだか嫉妬しちゃうかも、あはは。

 よーし、負けないくらい怖い話するぞー。


 ……とはいえ、うーん……なににしようかな。

 アタシの好きな話って……なんていうか、雑多としてるんだよねぇ。色々な人から噂として入ってくる怪談で印象に残ったのをピックアップしているだけだから。

 でも、その中でも特に印象に残っている話はあるよ。


 ……よし、このお話にしよう。

 これはこの学校にまつわる、とある伝説のお話……。

 キミもいつか、関わり合いになるかもしれないから、注意して聞いておいてね。


 『ツヅミさん』のお話。



―――



 特にアタシ達くらいの年代だとさ、学校ではグループで過ごしている子がほとんどだよね。


 仲の良い友達同士が集まって、休み時間になるとおしゃべりしたり、お菓子食べ合ったりしてさ。……まあ、女子に特に多い感じかな。男の子は結構、一人でいたり二人で喋ってることが多いよね。

 女の子のグループって、結構めんどくさいんだよ。五人くらいのグループになってくると、あんまり一人と仲が良すぎちゃうといけないと思って他の子に平等に接しようとしたり、友達の誕生日をしっかり覚えておいてプレゼントを用意したり……。

 アタシもまあ、そういうのはあるんだけどさ……正直、苦手なんだよねぇ。仲良くしてくれる手前、あんまり冷たくするのもいけないから程々に付き合ってはいるんだけれど……一人でぼーっとしていたいなぁ、って思いながらグループでお喋りしてることとかも結構あるよ。

 

 そういう生徒同士のグループってさ、人数が多ければ多いほど、その中で色々と格差みたいなのが生まれてくるの。 

 リーダーみたいにみんなで遊びに行く日や場所を取り仕切る子が出てくる。それで、そのリーダーに従順になる子も出てきて、更にそこに小さなグループが生まれる。可愛い子、綺麗な子、普通な子……色々な人が集まってくる。

 それでね、あまりにそれが組織化されてきちゃうと……元々は仲の良い友人同士で集まったはずのグループなのに、いつしかそこに見下したり蔑んだりする気持ちが生まれてきちゃうの。

 原因は色々。小さなトラブルだったり、リーダーの言うことが気に入らなかったり……容姿で判別されたりする例もあったりね。

 人間だから、そこは仕方ないと思うよ。誰しも平等なグループを作ろうなんて、きっと無理なんだと思う。どこかにそういう優劣をつけないとグループって上手く機能しないんだと思うし……。

 ……そう思わない?アタシだけかなぁ。


 それでね。

 昔、とあるグループが二年生のあるクラスにあったの。


 人数が八人くらい。結構大人数の集団で、まあクラスメイトの女子達が仲良し同士でお喋りをしているうちに出来た友達の集合体って感じかな。ごく普通だよね。

 最初は二人ずつくらいの友達同士が、その友達を巻き込んで話すようになって、それが増えていって……。

 うーん、考えてるだけで……なんか、めんどくさいよね。

 意図せずそんな八人くらいのグループが出来上がっちゃうと……当然そこには不和が生まれてくるの。

 リーダーが出てきて、そのリーダーの権限が強過ぎちゃうと、特にね。大抵は成績が良かったり容姿が良かったりするんだけど、まあ、そのリーダーの子もそんな感じだったんじゃないかなぁ。

 西浦、って名前の子だったの。結構キツい性格だったみたいで、表では仲良しのグループのまとめ役みたいなのをしていたみたいだけれど、結局はグループの外の女子や男子に自分をアピールしたいっていう気持ちでリーダーみたいなことをしていたんだよ。

 西浦さんは、自分を褒めたりおだてたり、従順な子には仲良くしていたけれど……ちょっとでも気に食わない子がいると、露骨にそれを態度で表していたの。

 元から話し友達くらいで集まっていた子はたまったもんじゃないよね。急にリーダーぶる女の子が現れて、自分を上から見下ろしてくる。それで話をしていて少しでも意見が食い違うと途端に顔色を不機嫌にして舌打ちしてくる……。楽しいおしゃべりも、一気に気まずくなるよ。

 

 その中の、戸村とむらさんっていう女の子は特に……なんていうか、あんまり喋らないタイプの子でね。いつも自分の席で静かに本を読んでいるタイプの子だったんだけれど、それじゃあクラスで浮いちゃうから、って女子同士で会話をしていたら知らず知らずのうちに西浦さんのグループに入り込んじゃった……みたいな感じだった。大人数での会話なんて割り込めないし、話をする気さえ出来ずに適当に相づちを打つくらいしかできない。

 それが、西浦さんの目に留まっちゃったのね。


 生徒のグループって、自然と……一番下、って思う子を選んじゃう時があるの。誰かがそう言わなくても勝手にね。最悪それがイジメみたいなのに発展しちゃって、酷い扱いになっていくパターンも多い。

 戸村さんも元々の性格が内気だし、ルックスだって特段可愛いわけではない。あくまでその辺にいる、普通の女の子よ。

 成績優秀、ルックスも良くて人望もある西浦さんからしたら、彼女は蔑んで馬鹿にするには格好の相手だった、ってわけ。

 ……ムカつく話だけどね。アタシがもしそこにいたら睨み付けてやるんだけど……まあ、昔の話だから。


 初めは「戸村さんって暗いよねー」くらいの言葉。それが段々と身体に触れて、小突いたり頭を軽く叩いたりするようになって……彼女のいないところでひそひそと悪口を言うようになったり、戸村さんの背中を見て数人で馬鹿にしたような笑いを向けるようになった。

 「あの子ってホント陰気」「あたし達がいなけりゃ一人きりなんだろうね、可哀想」「あんな性格だからだよ」……なんて。西浦さんのグループの悪い部分のはけ口になったような感じになってしまったの。


 勿論、戸村さんもそれに気付いていたわ。

 自分が馬鹿にされていたり、笑われたりするのは分かっていたけれど……それは、グループの中だけのこと。

 クラスでは一応は西浦さんの集団の一員として振る舞えるし、それによってクラスで浮くこともなくなる……。考えてみればそこになんの意味もないけれど、とにかく集団に所属していないと安心できない、っていう心理もわかるよね。

 だから、自分がグループの最下層の人間だとしても、彼女は耐えていなければいけなかった。


 けれど、西浦さん達の行動はエスカレートしていった。

 座ろうとした彼女の椅子を引いて転ばせたり、足を引っかけて転んだのをみんなで笑ったり……。彼女の教科書やノートをどこかに隠したり、酷い時には水道の水をわざと引っかけたりしていた。

 ……本人達は『いじり』なんて体の良い言葉で済ませようとしていたらしいけれど、度を過ぎているのは分かるよね。明らかにそれは、イジメ……加害の域まで発展していっていた。

 戸村さんがそれに傷つかないはずもないわ。

 みんなに笑われて、馬鹿にされて……グループの中でのイジメから、だんだんとそれはクラス全体で戸村さんをイジめる雰囲気へと変化していった。


 ……全ては、西浦さんがグループにいるせいよ。

 初めは隣の席の女の子と喋っていただけなのに、いつの間にか西浦さんのグループに入っていて、配下のような扱いに上手く溶け込めないとイジメの標的にされていく……。

 そこになにも感じないような彼女じゃなかったわ。日に日に肉体や精神に苦痛を抱くような行為が行われていくことに、怒りを覚えていったの。

 けれども、戸村さんはなにもできなかった。

 グループどころか、クラスや学年でも人気者である西浦さんに自分が刃向かうとどうなるか、想像ができたから。

 今よりももっと多くの生徒を敵に回し、イジメを行う生徒もどんどん多くなり……そんな嫌なイメージが膨らんでしまった。

 つまり、戸村さんはただただエスカレートする加害行為を受け入れるしかなかった。


 悔しかった。悲しかった。学校に行くことを何度も止めようと思ったわ。

 けれど、両親や祖父母からの期待を裏切るわけにもいかず……どうしても通うしかなかったのよ。あくまで彼女は、普通の生徒でいたかったの。



 そしてそんな時……『ツヅミさん』の噂を耳にしたの。



 説明するね。


 ツヅミさんっていうのは、この学校の生徒の間で噂されていた……『なにか』なの。

 その正体は分からない。幽霊や妖怪、それとも別の恐ろしいなにか……。けれども、ツヅミさんがどんなことをするのかは分かっているわ。

 

 それは……とあるおまじないをすると、ある晩、夢の中に現れるの。

 女性の姿をしていて、肌は真っ白。真っ赤なワンピースを着ていて、唇も口紅を塗っているのか同じように赤い。

 そして、夢の中で彼女に願い事をするんだって。


 ……『この人を呪ってください』って。


 そう。ツヅミさんは、人の呪いを代行してくれるの。


 嫉妬や恨み、復讐……理由はなんでもいい。大切なのはその相手を深く憎んでいて、どうしても呪いをかけたいと強く願っていること。それを、夢の中の真っ赤な服を着たツヅミさんが叶えてくれるんだって。

 呪いをかけられた相手には、近いうちに不幸なことが起きる。

 怪我をするだとか、大切な試験に落ちるだとか……偶然にも、そんな不幸なことが起きてしまう。そんな噂よ。


 胡散臭い、小学生が噂にするような話だけれど……復讐の出来ない戸村さんにとっては、まさに救いのような話だった。

 自分で手を下すことなく、気付かれることもなく相手を不幸な目に遭わせることができるツヅミさんの噂は、彼女にとっての希望だったのよ。……相当、切羽詰まっていたんだろうね。


 ツヅミさんを呼び出す方法は……ごめん、これは詳しくは分からないんだ。昔からある話なんだけれど、あまり詳細に伝わっていないの。

 でも……ある程度は分かっているわ。

 まず、おまじないを書いた白紙を四つ折りにして自分の枕の下に入れておく。このおまじないの文字や図形っていうのが、詳細が分からない部分ね。

 次に夜、そこで寝るんだけれど……その時に、強く呪いたい相手のことを思いながら、眠りにつく。これはなかなか難しいと思うよ。一時も呪いをかける対象のことから思考を離さず、眠りにつかなくちゃいけないの。

 他にも寝方や時間にも色々とあるらしいんだけれど……このあたりも詳しくは分からない。昔の話だから仕方ないよね。


 とにかく大切なのは、おまじないをして、呪いたい相手のことをずっと思いながら眠りにつかなくちゃいけないこと。

 これが、ツヅミさんに会う条件よ。


 戸村さんはこの情報を正確に入手して、実行した。昔は今よりも、ツヅミさんの情報がしっかり残っていたんだと思うわ。

 そして……呪いたい、西浦さんやその取り巻き達のことをずっと思いながら眠った。相当に憎しみがあったんだと思うよ。普通は、そんなことできないもの。心のどこかに別のことが思い浮かんじゃうと思う。

 

 戸村さんは、眠りについた。


 夢の中は、真っ白な空間。それは部屋なのかもしれないし、無限に続く平野かもしれない。とにかく、全てが真っ白で、他にはなにもないの。



 そこに『ツヅミさん』はいたわ。



 黒いストレートヘア。白い空間に混じりそうな真っ白な肌と、それを際立たせるような血の色のワンピース。そして、赤い唇と……大きく見開かれて飛び出しそうな瞳。まるで笑顔を作っているような表情だった。


 ツヅミさんは一歩、夢の中で戸村さんに近づくと……こう言ってきたの。


「のろうの、だあれ?」


 それは老人のようにしわがれた声にも、幼女のような無邪気な声にも聞こえたそうだよ。

 ツヅミさんは少し首を傾げて、戸村さんの顔を覗き込むように聞いてきた。


 不思議と、戸村さんに恐怖はなかった。

 これが夢の中だからかもしれないし、西浦さん達を憎む気持ちがあまりにも強かったからかもしれない。

 戸村さんは、ツヅミさんに言ったわ。


「西浦……。同じクラスの、西浦を、呪って!」


 戸村さんがはっきりそう言うと……ツヅミさんは、口角をつり上げて、まるで作ったような笑顔を戸村さんに向けた。満面の笑み……けれどもあまりにも不気味な笑顔。


 そして……戸村さんは目が覚めたわ。日付を見れば翌日になっていた。あまりにも短い夢だったので自分が本当に眠ったのかよく分からなかったけれど、どうやら夜から朝までぐっすり眠っていたみたい。



 それで、次の日。

 呪いは……実現したの。



「きゃっ!」


 西浦さんが、学校の階段を踏み外して転げ落ちたの。

 本人の不注意だったみたいだけれど、数段の段差をゴロゴロと転がり落ちた西浦さんは、足を捻挫してしまった。

 取り巻きが心配そうに西浦さんに駆け寄っていくけれど、西浦さんは必死に笑顔を作ってその場を誤魔化していたわ。


「ごめんごめん、ちょっと足がもつれちゃって。大丈夫だから、心配しないで」


 なんて言ってね。捻挫をして、痛みで冷や汗をかきながらも彼女はグループのリーダーらしく気丈に振る舞っていた。


 そしてそんな様子を見て、戸村さんは内心でほくそ笑んでいた。

 これは、呪いの効果に違いない!ツヅミさんへの願いが通じたんだ!……ってね。単なる偶然なのかもしれないけれど、確かに西浦さんには小さな不幸が起きたから。


 その日の夜も、戸村さんはツヅミさんに会う方法を実践した。おまじないや寝方、そして呪う相手を強く念じながら……。


「のろうの、だあれ?」


 夢の中に、ツヅミさんは昨日と同じように現れたわ。同じ顔、同じ真っ赤なワンピース、同じ距離……そして、同じ言葉を戸村さんに聞いた。

 戸村さんは次に、西浦さんの取り巻きを指名した。西浦さんの手下みたいな存在で、その命令で戸村さんをイジめていた女子……。

 その名前を告げると、ツヅミさんはまた不気味な笑顔を作って……そして、戸村さんは目が覚めた。


 

 呪いは、またしても実現した。



 その取り巻きの女子の顔面に……野球部がノックで打って飛んだ球が命中してしまったの。

 目玉と頬骨のところに直撃した打球は予想以上の怪我となり、救急車がくる騒ぎになったんだって。……痛い、なんてもんじゃないんだろうね。

 その子の悲鳴が校庭中に響いたみたいだよ。


 でも、戸村さんは満足しなかったわ。

 次の相手、次の呪い……。自分が初めて高所に立って、西浦さん達を見下ろしている感覚に酔いしれていたの。

 自分は呪いをかけられるんだ。お前達に、次々と不幸を呼び込めるんだ、って。


 毎晩……彼女は、ツヅミさんに夢の中であったわ。

 

「のろうの、だあれ?」


 そして毎晩、西浦さん本人や、その取り巻きの名前を言っていったの。もはや彼女に、恐怖心や猜疑心は存在しなかった。まして、罪の意識なんて……復讐を実行していく快感に、かき消えてしまっていたんだろうね。


 不幸は、毎日西浦さん達に訪れたわ。

 家庭科の時間に包丁で指を深く切ってしまったり、トラックのタイヤが跳ね飛ばした石が飛んできたり……体育の時間に骨折をした生徒まで現れたそうよ。


 戸村さんは、心の中で笑い続けた。

 どうだ、西浦達。私の呪いの凄さは。今までに受けてきたイジメの復讐を、きっちり果たしてやるぞ。……こんな風にね。

 毎晩、毎晩……ツヅミさんに、呪う相手の名前を伝え続けたわ。


 そして、事故が起きた。



 ……西浦さんが、死んでしまったの。



「……え?」


 戸村さんは困惑したわ。

 ツヅミさんの呪いの効果は、日に日に強くなっている気がしていた。

 最初は捻挫、次は強い打撲……それが深い切り傷になり、更には骨折にまでなっていった。

 

 そして、ある時……西浦さんは、交通事故に巻き込まれて……死んでしまった。

 ハンドル操作を誤った車が下校中だった西浦さん目掛けて猛スピードで突っ込んできて……即死だったそうよ。

 明らかな、ツヅミさんの呪いの効果。だって……偶然にしてはあまりにも出来過ぎているから。


 その時やっと、戸村さんに恐怖と強い罪悪感が生まれたわ。

 自分を虐めていた相手が死んで気持ちが晴れるかと思いきや、自分の呪いが一人の人間の生命を奪ったという、恐ろしい事実が彼女を絶望のどん底にたたき込んだのよ。


 担任の先生からその事実をクラスに告げられた時の、生徒達の反応はそれは悲惨だった。

 泣き出し、その場に崩れ落ちる子。ショックで震え上がる子。机に突っ伏したまま動かなくなる子。……クラスの人気者の突然の死は、深い悲しみをクラスに呼んだわ。


 戸村さんは、自分のした事の罪の重さが一気にのしかかってきた。

 自分のかけた呪いなのはわかっている。けれど、まさか、死ぬなんて……。

 絶望が、戸村さんの全身を震え上がらせた。

 

 その日一日、なにをしたかも記憶にないままにふらふらした足取りで自宅に戻ったわ。


 ……そして、枕元にあったツヅミさんのおまじないの紙を、破いてゴミ箱に捨てた。


 もう、こんなことはやめよう。

 なにも殺すことはなかった。復讐ができれば、それでよかったのに……。そんな後悔を抱きながら、彼女は眠ったわ。




「のろうの、だあれ?」



「え?」


 夢の中には、いつも通りツヅミさんが……戸村さんの顔を覗き込む笑顔があった。

 

 おかしい。


 おまじないの紙は捨てたし、呪う相手のことなんて考えずに眠ったはずだった。

 それなのに、今自分がいるのは真っ白な空間で……目の前には、真っ白な肌、真っ赤なワンピースのツヅミさんがいるのだ。


「のろうの、だあれ?」


「そんな、どうして……」


「のろうの、だあれ?」


 困惑する戸村さんに、ツヅミさんは機械のように何度も問いかけてくる。

 

 その時……彼女は、気付いたの。

 最近私は、呪う相手のことなんて考えながら眠っていたのだろうか。ツヅミさんに会える時間や、寝方を行って眠っていたのだろうか。

 ……そんなことを毎晩しっかり守れていたのだろうか。


 けれど彼女は、ツヅミさんにあえていた。


「のろうの、だあれ?」


「も……もう、十分よ。呪うのは、もうおしまいにするから……」


「のろうの、だあれ?」


「だから……もう、終わり!誰も私は、呪いたくなんて……」


「のろうの、だあれ?」


 それでもツヅミさんはしつこく、何度も……終わりなく同じ質問を繰り返してくる。


 だから戸村さんは、夢の中で声を振り絞って叫んだ。


「呪うのは終わり!!もうあなたには会いたくないの!!」


「つまんない」


 ツヅミさんは、そう言ったわ。そして、「つまらない」と言う割には……その顔は、いつにも増して、口角を引き上げた笑顔になっていた。

 

 彼女は真っ赤な唇を開いて、真っ赤な口内を見せながら…… 最後にはっきりと、戸村さんに告げた。



 「のろうの、あなた」



―――


 ……翌日発見された、戸村さんの死体は悲惨なことになっていたんだって。

 全身の骨はぐちゃぐちゃに折れ曲がり、内臓は損傷。口からは吐血をして、あちこちにまるで高所から落下したような打撲痕……。

 しかも彼女は、自分のベッドの上で発見されたの。


 検死をした警察はこう言ったそうよ。

 「自室でこんな状態で発見されることは、あり得ない」って……。


 

 ふう。


 これで、アタシの話はおしまい。どうだった?


 ツヅミさんの話ね。知っている生徒は何人かいるんだけれど、誰もツヅミさんに会う詳しい方法やおまじないの事を知らないの。

 思うんだけれど……正確に伝わっていないのは、ツヅミさんには絶対に『会ってはいけない』からなんじゃないかな。

 一度会ってしまえば、何人も、何人も呪う相手を選ばされて……選べなくなってしまったら、今度は自分が殺されてしまう。今までにかけた呪いを全て受けるような、悲惨な死に方を……。

 だからその存在は恐れられていて、誰も会ってはいけないから……おまじないや方法を知っている人は、いなくなってしまったんじゃないかな、って。


 ……だからキミも、詳しく調べようなんて、考えないでね。

 もしその方法が分かっても……試したりしちゃ、ダメだよ。


 ツヅミさんは、願いを叶えてくれる天使なんかじゃない。

 ただひたすらに呪いをかけ続ける……怪異そのものなんだから。


 

 それじゃ、またね。


 今度……怪談あつめをしている理由も聞かせてくれると、嬉しいかな。なんだかアタシ、キミに興味が出てきちゃったよ、あはは。


 ばいばーい。


―――

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