キスをすれば君の心が読めるから

華川とうふ

キスと秘密

 キスをすれば人の心が読める。

 そんな自分の特別な力に俺が気づいたのはつい最近のことだった。

 幼馴染と初めてのキスをしたときのことだ。


『本当は、キスってあまり好きじゃないんだよね……』


 そんな言葉が頭の中に響いてくるのだ。

 頭の中に響く言葉は確かに春香のものだった。


「えっ? キス嫌なの?」


 思わず唇を話して、春香に聞くと。


「ううん。そんなことないよ。初めてのキスが貴方で嬉しいよ」


 彼女はそういって再び唇を重ねた。


『本当は初めてのキスじゃないけどね』


 再びそんな幼馴染の声が俺の頭の中に直接流れ込んできた。

 俺はそれ以来、人間不信になった。

 幼馴染でずっと可愛いと思っていた幼馴染がそんな風に思っていたなんて俺はショックでどうしても立ち直ることができなかったのだ。


 それから、俺は色んな女子とキスをするようになった。

 相手の心を読むことができるんだから、少々強引にキスをしても問題はないのだ。

 キスをしている間に相手の秘密や悩みを読んでしまえばいい。

 悩みに寄り添うふりをすれば、女は心を開くし。

 それでもだめなら、相手の秘密をダシに脅せばいいのだ。

 あと、新卒の英語の女教師とキスしたおかげで俺は英語のテストは百点間違いなしだ。


 俺はきっとこのあとも、爛れて薔薇色の人生を歩んでいくのだろう。

 そんな風に思っていた。


 だけれど、そんな俺の日常が変わったのはある美少女との出会いだった。

 物静かで図書室にいるタイプ女の子。

 一度も染めたことのない黒髪。

 そんな美少女が図書室でのんきなことに昼寝をしているのだ。

 真面目な生徒しか出入りしない学校のはずれの方にあるこの場所は誰にもみられていない。

 俺はそんな無防備な彼女の唇を奪おうと考えるまで時間はかからなかった。

 苺のシロップが滴りそうなくらい、甘く赤い唇。

 ミルクのような白い肌。

 他の女の子よりも圧倒的に長く豊かなまつ毛。

 目を閉じていても、彼女が美少女であることは一目瞭然だった。


 彼女の唇にそっと触れる。

 しっとりとして、甘く震えるような気分。

 そして、俺は集中する。

 彼女の秘密を探り出すために。


 だけれど、彼女とキスをしてもなんの声も聞こえなかった。

 ただ、やわらかくて心地のよい感触が唇に伝わってくるだけ。


 俺は夢中になって彼女の唇に触れた。

 俺が人生で二度目に恋をした瞬間だった。



 だから、そんな俺が、後日、そんな美少女から秘密を打ち明けられるようになるなんて想像もしていなかった。



※※※

ちょっと不思議な物語を書いているこちらも読んでいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330669461898243

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