第9話 Side MA - 16(-6) - 9 - きんかでなぐる -

Side MA - 16(-6) - 9 - きんかでなぐる -



インフィニ王女殿下が怖い話をするから思わず抱きついちゃったけど、この人王女様でしたぁ!・・・雲の上の人!、もしかして私不敬罪で捕まっちゃう?、早く謝らないと・・・。


「あぅ・・・も・・・申し訳ありません、お姉様にいつもしてるみたいに殿下に抱きついちゃった・・・」


がしっ!


慌てて身体を離そうとする私を抱き抱え、頭を撫でながら王女殿下が言いました・・・うぅ・・・力が強くて逃げられない・・・。


「気にしないでマリアンヌちゃん、あなた抱き心地いいわぁ、アリシアちゃんがよく撫で回してる理由分かっちゃった、ほんとに可愛いわぁ!」


「ふふふ・・・、殿下もマリアンヌさんの魅力に気付いてしまったのね・・・外見と中身の落差がもう本当に可愛いの!」


「わかる!」


「おいおい、その辺にしておけよインフィー・・・じゃなくてインフィニ殿下・・・調子狂うな、アリシア嬢とマリアンヌ嬢を前にしてたら思わず平民に偽装してた時の口調で話しちまう・・・」


「あら、もういいでしょ、無礼講って事で、この2人はもう私達のお友達!、ここに居るのはお友達の家族、だからみんなお友達よ!、堅苦しい言葉使いは疲れちゃうわ、それに私、女の子のお友達も欲しかったの!」


「出た!、インフィーの人類皆お友達理論!・・・という訳で話し辛いのでいつもの口調で喋らせてもらう、それでいいだろうか?」


「もちろんいいですよ、殿下たちさえ良ければ」


お姉様のお父様が答えました・・・いいのかなぁ・・・。


「あらあらみなさん仲良しね」


お姉様のお母様、ラスティータおばさまが生暖かい目でじゃれ合う私たちを見ています・・・おばさまはお姉様にとてもよく似た美人さんなのです。


「では改めて・・・今日のパーティであの馬鹿が婚約破棄を宣言してくれたからボッチ家で抱えている問題は解決したと思う」


王太子殿下・・・エルさんの言葉に皆が頷きました。


「捕まったネッコォ家当主は処刑される予定だから二度と外には出て来ない、それから・・・これは我々も想定外だったが不幸にも妻と娘は亡くなってしまった、動きを警戒すべき人間はイッヌ・ネッコォ一人になるかな、一応有能と言われている執事もか・・・」


「そうねぇ、向こうからの一方的な婚約破棄だから支払った準備金に加えて慰謝料を請求できるかも・・・まだ払える資産があれば・・・だけどね」


エルさんに続いてケーキを貪っていた王女殿下・・・インフィーちゃんの言葉に再び皆が頷きました、そういえばうちの家、結構な額のお金払ったよね・・・。


「えぇ、それを狙って相手から婚約を破棄させるように仕向けたの、証人は殿下達と今日パーティに参加したお客全員よ、我ながらいい作戦だったと思っているわ、徹夜して考えた甲斐があったわね」


お姉様、そこまで考えてくれてたんだぁ・・・。


「ボッチ家としてはもう戻って来ないだろうと諦めたお金ではありますが・・・払った結婚準備金はかなりの額になるので・・・惜しくないかと言われれば・・・」


うちのお父様が遠慮がちに口を開きました、そうだよね、惜しいよね、お父様お金が大好きだから・・・。


「いくら払ったか聞いても?」


王太子殿下がお父様に尋ねました。


「大金貨に換算して・・・およそ五千枚といったところでしょうか、支払い証明は保管してありますのでもう少し細かく算出できるかと」


「ご・・・五千枚だとぉ!、中規模領地の年間運営予算じゃねぇかよ!」


王太子殿下が叫びます、驚きのあまり素のエルさん口調になってるの・・・、お隣ではお姉様の両親が頭を抱えています。


「それで破産する気配が無いボッチ家の資産にも驚きですが・・・流石にその額はおかしいですぞ!」


エヴィセンおじ様がツッコミを入れました。


「娘の為だと思えば安いものです、金貨袋で殴る作戦が効いたようで、おかげでこちらの要求・・・17歳まで結婚させない、手も出さないという条件を相手に飲ませました・・・ふふふ」


いやお父様・・・金貨で殴るって・・・。


「あの家は代々官僚だったから持っている領地は無い、売れるのは王都の屋敷と土地、別荘・・・片手間でやっていた貿易関連の商会がいくつかあるくらいか・・・親父には売れるものは全部売って被害者に補填するよう言っておく」


「・・・ありがとうございます」


「それから今回の告発でウンディーネ家とボッチ家に対して王家から褒賞が出る、今から何がいいか考えておいて欲しい、相当良いものが貰えるだろうな」


「ありがとうございます」


お父様嬉しそう・・・欲しい物・・・お金だろうなぁ・・・。


「ウンディーネ家としては殆ど何もしていませんので、褒賞を頂く訳には・・・」


エヴィセンおじ様がエルさんに辞退を申し出ようとしています。


「王家としてはとても感謝しているし、くれると言うのだから遠慮しないで貰っておけばいい、それにもうすぐ親父は王位を退くからこの事件の後始末が今の国王陛下最後の仕事になるだろう」


「え?」


あ、いけない、つい声が出ちゃった・・・。


「この件が片付いた後に公表する予定なのだが・・・表向きの理由として今回の不祥事の責任をとって親父は王位を退くと言ってる、本音は早く王様なんて辞めてお袋と一緒に旅行に行きたいらしい・・・俺としては迷惑な話なんだが・・・」


「あらぁ・・・もうみんなで遊べなくなっちゃうね・・・残念だわぁ」


インフィーちゃんが悲しそうにしています・・・。


「いやまだ遊ぶつもりだぞ、即位はするが親父からの引き継ぎを1年くらい使ってやるし、まだ執務は手伝ってくれるようだからそれ程忙しくはならない」


「あはは、王様が平民の格好して歓楽街遊び歩いてちゃダメでしょ」


「いいんだよ、まだ独身のうちは好きな事して楽しく過ごしたい」


「・・・」


ガタッ!


「わっ・・・」


私の顔をずっと無言で睨んでいたノルドさんがいきなり立ち上がりました・・・そして私の両親のところに行って跪き・・・。


「こ・・・この場を借りて・・・お願いがあります!・・・お・・・お嬢さんを・・・俺・・・いや私にください!」


なっ・・・何言い出すのこの人!。












カラカラ・・・キィ・・・


「坊ちゃん、お屋敷に到着しました・・・」


「おぅ」


ガチャ・・・


「帰ったぞ・・・、屋敷の中が真っ暗だし誰も居ねぇな、どうしたんだ?」


シン・・・


「おーい、帰ったって言ってるだろ!」


コツッ・・・コツッ・・・


暗い屋敷の奥から蝋燭を持った奴がこっちに来てる、誰だ!。


「おかえりなさいませイッヌ様・・・」


声の主は執事のジョーイフールだった・・・驚かせやがって。


「なんだジョーイフールか、出迎えもしねぇで何やってんだよ!、それに屋敷の灯りはどうした?」


「・・・」


返事がない・・・それに蝋燭の炎に照らされてるジョーイフールの顔は酷く憔悴してるように見えた、これは只事じゃねぇな。


「・・・何があった?」


「大切なお話がございます・・・こちらへ・・・」





・・・ガチャ


「どうぞお入り下さい」


「おい、シーマの部屋じゃねぇか、ノックくらいしろよな、今日のお前はおかしいぞ・・・」


部屋に入ると・・・微かな血の匂い・・・それからどこかで嗅いだ事のある嫌な香りが漂って来た・・・。


バタン・・・


ジョーイフールの持っている蝋燭の灯りに照らされたベッドには今朝俺を送り出してくれたシーマが目を閉じて眠っている。


「兄さん、パーティ楽しんできて下さいね・・・」


そう弱々しく言った俺の妹・・・。


「・・・シーマお嬢様は本日の午後、容態が急変してお亡くなりになりました」


「は?・・・」


「医者の診断によりますと・・・消化器系の内臓・・・胃と呼ばれる箇所の損傷による大量出血と、食事が喉を通らなかった事による衰弱が原因かと・・・」


ジョーイフールの言葉が理解出来ずに呆然としていると更に説明を続けた。


「胃というのは心労からも損傷を生じる臓器のようでして、長年の激務と心労、蓄積した疲労でお嬢様の身体は酷く衰弱しておりました、それに加え本日お昼前に王家から届いた通達を読まれた後、再び吐血され意識を失われました、・・・そしてそのまま息を・・・うぅ・・・」


「王家から・・・」


「はい、旦那様の罪状、及び処刑が確定したと・・・」


処刑?・・・何だよそれ、今までの悪事が露呈したっていうのか?・・・だがシーマは問題ない大丈夫だと・・・言ってたのに・・・。


「・・・お袋は今どうしてるんだ?、その通達は知ってるのか?」


「はい、イッヌ様、奥様はシーマ様が亡くなられた後、自室のベランダから飛び降りてお亡くなりになりました、首に縄を結び、御自身の体重による窒息死で・・・」


「何だって!」


シーマに・・・お袋まで死んだ・・・だと・・・この部屋に・・・いや屋敷に漂ってる嫌な香りは・・・死臭だったのか・・・。


「うぉぉぉぉ!」


「イッヌ様お気を確かに!」


「黙れ!、黙れ!、何でこんな事に!」


「生前のシーマ様から必ずお渡しするようにと・・・お手紙を預かっております、それに奥様からも遺書と思われる手紙が・・・」


バン!・・・ダッ・・・


「イッヌ様お待ちを!、せめてお手紙だけでも!・・・」


俺は訳が分からなくなりパーティ用の正装のまま屋敷を飛び出した、2人の死臭漂うこの屋敷から一刻も早く出たかった、・・・何故こんな事に!・・・。


バン!・・・


「おい!、馬車を出せ!」


「え・・・坊ちゃん?・・・もう車から馬を外してしまったのですが・・・それに修繕の為に車軸を外したところなので」


「うるせぇ!、言う通りにしろ!、どの馬車でもいいからすぐに用意しろ、街に出る!」


「今すぐ・・・ですと、保守作業用の粗末なやつしかありませんぜ、それに御者も帰宅して・・・」


「お前!、御者はできるか?」


「えぇ、一応」


「ならお前でいい、早くしろ!」


ガラガラ・・・キィ・・・


「ここでいい、馬車は・・・裏に停めておけ」


歓楽街にある行きつけの酒場に到着した俺は馬車を降りて馬小屋番の男に言った。


「坊ちゃん、私はいつまで待っていればいいので?、明日も早いので帰りたいのですが・・・」


「ならもういいからお前は帰れ!、俺は朝まで飲んでるから御者が出勤したらここに迎えに来させろ」


「ですが・・・乗用の馬車は修理中で・・・」


「これと同じのでいい」


「・・・そうですかい、それでしたら・・・かしこまりました坊ちゃん・・」





バタン・・・カラン・・・


「よう、イッヌ様いらっしゃい、そんないい服着てどうしたんだい?」


「うるせぇ、今日は黙って飲みたい、何か食い物といつもの酒出せ!」


「はいよ、何があったのか知らねぇがひでぇ顔だぜ、ほれ濡れタオルだ」


「悪いな・・・」


酒を飲みながら俺は考えた、シーマとお袋が死んだのは間違いないらしい、それに親父も処刑されるようだ・・・なら俺はどうなる?、我が家の悪事がバレたなら爵位返上で貴族じゃなくなるかもしれねぇな・・・。


「・・・」





「おーい、イッヌ様よ、起きてくれ・・・もう朝だぜ、この酒場は昼間は食堂になるんだ、酔っ払いにカウンターで寝てられっと困るんだよ」


「あ?・・・朝かよ、寝ちまってた・・・」


バン!


「マスター!、今朝の新聞見ろよ、そこで買って来たんだがよ、あの大貴族ネッコォ家の汚職が発覚して当主が処刑されるらしい、匿名で告発があって王様が動いたって書いてあるな」


「貸せ!」


ばさっ・・・


「おい何だよ、俺の新聞・・・ってあんたネッコォ家の子息様じゃねぇか!、家が大変なのにこんなとこで酒飲んでていいのかよ」


「ちょっと記事読ませてくれ・・・」


「あぁいいぜ、実家が心配だろうからな」


「・・・匿名の告発?・・・誰だ・・・誰が告発しやがった!」


「俺も少し記事を読んだが、今までは権力で不祥事を握り潰してたみたいだな、だから上級貴族のどこかじゃねぇかって書いてあった、それからでかい商会も協力してるようだって・・・」


「・・・ウンディーネと・・・ボッチか・・・ふざけやがって」


「お、心当たりがあるのかい、イッヌ様よ、これから金に困るんじゃねぇか、没落するのは勝手だがうちのツケ払ってからにしてくれよ・・・昨日の酒代、8700ギルだが払ってくれるのか?」


「・・・ツケにしといてくれ」


俺は店を出て裏の停車場に行ったが馬車は来てなかった、まだ朝早いからか・・・。


それにしても・・・あいつらのせいだ、ウンディーネとボッチ、全部あいつらが・・・可愛いシーマや優しいお袋が死んだのも、親父が処刑されるのも・・・。


「このままじゃ済ませねぇ・・・畜生!・・・復讐してやる・・・」





*小金貨=約20万円  大金貨=小金貨10枚  白金貨=大金貨10枚  

*1ギル=約1円

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