第53話 誰だって全盛期に戻りたい

   ◆カタリーナ◆

 氷竜狩り、普通なら絶対に狩れない竜族だが、わたし達にはミヤビ様がついている、ミヤビ様の強力な魔法で竜を削っていく、

 二回目の魔法攻撃もしっかり竜の腹に向かい、青色のウロコが飛び散った、

“これなら勝てる!”

 だが氷竜は倒れる事無く暴れまわり、ミヤビ様を担いで逃げるナーディアを狙って氷風を噴きまくっている、


 なんとか迷宮通路に逃げ込んだナーディア達だが、アイスドラゴンはあきらめていなかった、前足を高く上げ体重で迷宮通路を潰していく、

“ああ、やっぱり竜種は人間の手におえる相手じゃなかった”

 そんな無力感を感じさせる、ドラゴンの破壊力。



 ◆



「ミヤビ様に早くお薬を」

「待って、エステル、トカゲがこっちに来るっす」

「どうしてあんな大きな物が、狭い通路に入ってこられるのよ!」

「いいから逃げるっす」

 わたしは娘達の間抜けな話を担がれたまま聞いている、


 後から聞いたのだがアイスドラゴンは前足を持ち上げて迷宮を破壊しながらわたし達を追って来たらしい。


 恵まれた体躯のナーディアだが、人を担いでいつまでも走っていられるものではない、遂に膝が抜けたのかつまずいて、わたしは迷宮の廊下に投げ出される、

“ドンッ ドンッ”と言う重機の様な破壊音は近づいて来ている、

「薬を!」

 エステルがわたしの口にガラス瓶を差し込む、このサイズ感そっくりね、

“アレ”の味みたいな生臭さい苦みが口に広がる、

「ゴックンしてください!」


 涙目になりながら“ゴックン”したおかげで、激しい頭痛は消え去ったが口の中は気持ちが悪いままよ、


 わたし達がどんなに叩いてもビクともしないレンガの壁が段ボールで出来たセットの様にあっさり倒されアイスドラゴンが現れる、

 キレイだった青いウロコは、火矢と魔槍の攻撃で黒く焦げ跡が付いて満身創痍な氷竜、無傷な部分は殆ど残っていない、

 怒りに満ちたドラゴンは前足を大きく上げてわたし達を踏みつぶす気満々、“これってお腹がまる見えよトカゲさん”

 大きな声でハワイの王様みたいな技を叫ぶ、知らない日本人はいないんじゃない?

“あっ、アニメの名前も竜球だ”


 白い腹に向けて魔法の光が伸びて行く、今度は今までとは違う“倒した”と言う手ごたえを感じる一撃、


「やったー!」

「ざまーみろっす」

 2人が叫ぶが、巨体はゆっくりとわたし達に向けて倒れ込んで来る、三人は抱き合って悲鳴をあげる。



 ▼▽▼▽



「……すごいよね、街のみんなはミヤビの噂でもち切りだよ、辻楽士の新しいネタだね」

「レオポルド様、まさか辻楽士の小芝居を信じているんじゃないでしょうね」

「そこまで純真じゃないよ、どこら辺までが本当なの」

「わたしの名前は本当だったわよ、それくらいじゃないかしら」

 アイスドラゴンを倒した事を勇敢な冒険譚として語る辻楽士、わたしも少し見たけど、最初は誰のことなのかサッパリ分からなかったわよ。


「……それでミヤビ、今回はどこを治すの?」

「お胸を小さくして、歳は15歳くらいまで戻せる?」

「そりゃ、出来るけど、どうして子供に戻るのさぁ」

「体力の全盛期が15歳くらいだったからよ」

「わかったよ、けどミヤビは不思議だね、ボクの術を使うとみんな記憶が無くて“わたしは昔からこの姿だったの”って言うのに、しっかり覚えているなんて」


「魔力の量が関係しているんじゃない?」

「う~ん、確かにミヤビの魔力は貴族級だけど、それだけじゃないと思うよ」

「それならヒルベルタ様に試してみれば? あっ、ゴメン今は奥様って呼ばないといけないんだね」

 ロリコンで将来が心配だったレオポルド様だけど、巨乳のヒルベルタ様と良い関係になり、今では仲睦まじい夫婦、二児のパパで今は三人目。


「ヒルデに試したけど、記憶は残らなかったよ」

「ねぇ、どこを治したの?」

「……まぁ、胸を少し……」

 なーんだ、しっかり男になったのか、女の子の裸に顔を赤らめた純真少年だった頃は可愛かったのに。


「あー、そうそう、髪は夕焼けみたいな色にして肩口で緩くカールした感じに仕上げてね、目はパッチリだけどたれ目は嫌よ、それからお尻は……」

「もう、ミヤビは注文が多すぎ“びよーせーけー”始めるよ」


 青白い光がわたしを包む、物凄く眩しいはずなのに目を開けていても平気なのは変よね、


「終わったよ、ミヤビ」

 十代後半だったわたしの身体、タユタユ揺れるDカップは辛うじてA程度にまで小さく、心なしか視線が下がった気がするのは小さくなったからかしら?

 軽くジャンプすると自分の予想よりも遥かに軽く中に浮ける、

「いいんじゃない、ありがとねレオポルド坊ちゃま」


「そんな小娘みたいな姿じゃ、全然皮肉に聞こえないよ、ミヤビ」

「いーのよ、迷宮に潜るのは体力と運動神経、これに尽きるわ」

「魔力が多過ぎるのも考え物だね」

「貴族様のお妾になりたくなかったら迷宮で活躍しておかないとね、それとも坊ちゃま、わたしをお妾さんにしてくれますか?」



 神殿に行ってお金を払えば魔力の有無を教えてもらえるの、わたしの手元の女の子達全員の魔力を測定してもらって、ついでにわたしも見てもらったら魔力溜まりの大きさが上級貴族並みだった、

 貴族並みの魔力があれば貴族になれるわけじゃないのよ、出自が大切なのよ、貴族達は平民で魔力の多い人を“野良”って呼ぶけど、

 野良の女性は貴族のめかけになって、子供を産む機械にされる運命なの、

“どうして、わたしがそんな妊娠マシーンならなきゃいけないの?”


 そんな運命から逃れるには冒険者として名を残す、本来迷宮討伐は貴族の義務だったそうよ、今はそんな殊勝な貴族はいなくて平民任せ、

 そんな引け目があるから貴族達は冒険者達に口出しできないそうよ。

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