第45話 買い取り遠征

 独立したボク、商売は田舎の村を回り貧乏でブサイクな娘を買い叩く、見目の良い子だと金貨一枚は平気でするけど、顔がアレだと銀貨30枚も出せば親が喜んで娘を差し出す、女の子って顔が命なんだね。


 鼻があぐらをかいた子達に術を使い見られる顔にしたら、その後はメイド達がお客の前での立ち振る舞いを教えて、時期が来たら娼館に売り出す、もっとも売り込みは面倒で行きたくないからミヒャエル達に任せているよ、

 売り込みをしない事をオスヴァルトは良い顔をしない。


 そうそう買い取るのは性奴隷だけだよ、12歳の誕生日で女なんか見たくもないと思ったボクだけど、男の一般奴隷や戦闘奴隷が平気かと言えば、ハッキリ言ってもっと嫌だ、

 特に戦闘奴隷なんて力コブの大きさで人間の価値が決まると信じている連中なんだ。



 独立してから何回目の遠征になるのだろうか、今回はずいぶん足を伸ばしダールマイアー領にまでやって来た、幾つもの河や尾根を越えると言葉のアクセントや、顔つきまで違って見えて違う国に来たみたいよ。


「……それではドーラの買い取りですが、銀貨25枚と言う事でよろしいですね」

「それはもう、引き取ってくれるのなら、有り難い限りです」

 親が子供の前で言う言葉ではないのだが、田舎は慢性的な人余り状態、昔は“間引き”と言っていらない子を処分する様な事があったらしいけど、教会が田舎に進出して“悪い習慣を改めましょう”なんて事を言いだして人が増えるばかりだって。


「それではドーラさん、あなたはわたしの下で奴隷になる事を望みますか」

「へぇ、よろしくおねげぇします」

「わかりました、それでは隷属の首輪を嵌めますが、これは本人が奴隷になる事を望んでいる必要があります」

 ボクは銀色のアクセサリーみたいな首輪を取り出す、この首輪をすれば主人の命令に逆らえない、そんな事をすると酷い頭痛に苦しむ、

 その代わり買い取った主人には奴隷の衣食住の面倒を見なければならない、と言う義務が発生する。


 奴隷を変な客に売って虐待していたりしたら、売った奴隷商人まで罰せられる事があるから契約は慎重にだね。



「わざわざダ・デーロからいらして、大勢の娘を買い取ってくれてありがとうございます」

「こちらも良い取引が出来ました」

「奴隷商人の方達もっと頻繁に来て欲しいのですが、なにぶん辺鄙な場所ですので、よからぬ連中に泣く泣く娘を差し出す事も多いのです。

 村長がボクに頭を下げる、実は農村で奴隷になると言う事は成功の第一歩、食うや食わずの貧農生活から脱出出来る、


 そんな貧乏な農民たちを騙して人を連れ去る連中が“人買い”奴隷商人みたいに隷属の首輪を持っていない奴らは本当の鎖で人を縛って無理やり連れて行く。



 ▽▽



「……ずいぶん大勢買い取られましたね、レオポルド様」

「ここら辺は相場が安いみたいだから、つい買い過ぎたよ」

「見目はともかく、教育が大変そうですなぁ」

 ボクとオスヴァルトがどうでも良い会話をしていたら馬車が突然止まった、

「ご主人様、この先で魔物が荷馬車を襲っております!」

 奴隷のサン・ホセが扉を開けて言う、


「助けてあげなさい」

「かしこまりました」

 熊とか狼みたいな野生動物とは違う生き物“魔物”どうして奴隷商人は田舎の買い取りを嫌がるかと言うと、こいつらが出て来るからだよ。


 もっともサン・ホセ達戦闘奴隷に言わせると地上の魔物は迷宮の魔物に比べたら紙で出来ているみたいだ、って言っていたけどね、

 魔物の本場は迷宮、国の中に何箇所かあって、ボクの住んでいるダ・デーロの街も迷宮を中心に発展した街。


 魔物の身体の中には魔核と言って魔力の塊みたいな物が入っている、これを魔道具にセットすれば魔力が全然ない平民でも便利な生活が出来るのさ、

 迷宮に潜り危険な魔物を討伐するのが冒険者、田舎の若者が街で生きて行く唯一の方法でもある、

 女は娼婦、男は命がけの冒険者の仕事しかないとは、田舎に産まれただけで人生が詰んでいるよね……



「レオポルド様、よろしいですか?」

 執事のオスヴァルトが扉を開ける、

「魔物は倒したの?」

「それはもう、サン・ホセ達にかかれば鎧袖一触です、

 襲われていた馬車が問題でして、人買いの馬車だったようです」

「それはいけないね、衛兵隊に通報しないと」

「いえ、人買い共はさっさと逃げ出してしまって、車内には騙された娘達が残されていたようです、いかがでしょう、我々が保護いたしますか」

 実は人買いは魔物に食い散らかされてミンチみたいな状態だったのだが、主人に不快な思いをさせないのは従者の務め。


「もちろんです、保護してあげなさい」

「レオポルド様、実は娘達の中に貴族の出の者がいるようですが?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る