第20話 濡れたビニールの匂い

 エルミラはわたしの指示で身体を綺麗に清めて髪をアップにさせてある、そんな彼女は部屋を占領するグレーのマットに興味津々。

「エルミラ、これの中身は空気なの、フワフワするわよ」

 そう言って軽く足で踏んで弾力がある事を示すけど、

 娘はキョトンしてわたしを見ている、

「はぁ、はい」




「じゃあ、エルミラはうつ伏せに寝てみてね、あっそっちが頭よ」

「準備できました」

「それじゃあ、マッサージを教えてあげるわね……」




 繰り返して言うけど、ソープランドは売春をする場所ではない、個室の浴場でお姉さんが背中を流してくれる場所よ、

 身体を洗うだけではなく、マッサージもサービスの中に入っているわよ、フカフカのエアーマットの上で殿方の身体を揉みほぐすのもサービスのうちよ。

 マッサージは相手の全身を刺激するの、足の裏も含めてよ、足の裏の感覚なんてたいして無いと思うじゃない、そうでもないのよ、刺激に敏感な場所は結構あるからね。




 お任せ風俗と呼ばれるこのマッサージ、される側はエアーマットの枕の部分を常に持っている必要があるのだけど、

 これが問題なの、両手を使えない殿方はされるがまま、究極のお任せと言う人もいれば、男が主導権を握らないと嫌だと言うお客さんもいるわ、

 こちらの世界では受け入れてもらえるか、少し心配でもあるわね。



 お店の時間は様々よ、45分程度の格安店もあれば3時間の高級店も、時間に追われる安いお店なら流れ作業みたいに進んで行くけど、ゆったりとした時間を過ごす高級店では気の効いた会話で相手をもてなして間を持たせなければならないの。


 体力は当然使うし、トークの力や細かい気配り、恋人になり切っても冷静に時間の管理もしなければいけない、究極の風俗嬢と呼ばれている理由はそんな所から来ているのよ。


 ◇


 ここ数日間エルミラを特訓してかなりのレベルにまで上がったわ、黄色の球が大きいだけあるわね。

 最初はわたしが異世界初のソープ嬢になって頑張ろうと思っていたけど、わたし一人では出来る事はしれているわ、それよりも大勢の娘におもてなしを仕込んでこちらの売春事情を改善させたい、

 けど、真似する人達も出て来るわよね。


 よし!決めた。


 ◇


「ミヤビどうした、何かあったのか?」

「いえ、エステファニア様の紅茶が飲みたくなったので、お訪ねしたのですけどね」

「お前みたいな抜け目の無い女がそんな事をする訳ないだろう、良いから言ってみろ、たいていの我儘なら聞いてやるぞ」

「エステファニアさんには全てお見通しでしたか、バレーナの皮ってしていますか?」

「大きな魚だな、どうした?漁港に店でも出したいのか」

「いえね、そのバレーナの皮をうちの商会でも取り扱ってみたくて、相談にあがったのですよ」


「ふ~ん、何を考えているかは分からんが、難しいのではないか、レオポルト商会は奴隷ギルド所属だ、

 物を売るなら商業ギルドに登録しないとな」

「チィース、ちょっと良いすっか?」

「なんだショーティー?」


 突然現れたショーティー、相変わらず軽く中身の無い口調だけど騙されてはいけない、彼は有能な秘書よ、

「それならミヤビさんが商会作ったら良いじゃないですかぁ~」

「わたしは奴隷ですよ、商会なんて持ったらおかしいでしょ」

「普通はな、だけど裏道はいくらでもあるし、任せておけばなんとかしてやるぞ、今日はオスヴァルトも連れて来ていないし、秘密にしておいてやるから安心しろ」

 エステファニア様は娼館主、ギルドや街の代表にも顔が効くのだろう、ここは任せてみるか、


「それではお任せしてよろしいでしょうか? わたしの商会だけでバレーナの皮を取り扱えるようにしたいのですけど、出来ますか?」

 さっきまで余裕の有る表情だった娼館主の顔つきが変わった、そりゃそうだ、バレーナの皮を独占販売出来るようにしたいと言う意味だからね。


「ミヤビ、お主何を考えているのだ?」

「いやね、バレーナの皮は多い時はすごく多くて、無い時はまったく無い状態なので、一つの商会で管理していつでも買えるように出来ればいいかな?

 なんて思ったのですよ、あっ、もちろん値段は据え置きですよ」

 ウソは言っていないから大丈夫だろう、


「ふむ、ショーティー出来るか?」

「あっ、多分出来るんじゃないですかねぇ~、一応商会の名前だけ決めてくださいっす」

「それじゃ、スリーローズ商会でお願いします」

 勤めていたお店の名前よ、店長名前借りるね。

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