第18話 穴から出てきました

 わたし達は5階層まで降り、ボス部屋と呼ばれる部屋の前に立つと、

“ズゥズゥズゥ”

重低音をたてて石の扉がゆっくりと開く、

“これはゲームの世界ね”

 わたしはリアルでゲームを体感でき感動し、みんな恐怖に躊躇しているけどサン・ホセに促され中に入る、

 全員が入りきったら、音を立てて扉が閉まった、逃げ場がないと言うのはそれだけでも圧迫感があって嫌よね、


 いつの間にか数メートル前にラバンが鎮座していた、外見こそ今までのウサギの魔物と同じだが、大型犬どころか子牛くらいよ、

 プリスカとオザンナは一瞬で左右に分かれ、そのまま戦闘開始、カタリーナはレオポルト様の前に立ち、レイピアを抜いて腰を落とした体勢で構えている、こう言う時はロリ娘も凛々しい剣士の顔よ、




 さすがはボスだけあって苦戦はしたけど、プリスカ達は優秀だった、

「倒しました!」

 オザンナの声が上がり、魔石を取り出そうと腹を開いている、

「ご主人様、お手数ですが階層主の魔石はご主人様が取り出してください」

「わかった」

 戦闘奴隷達に感化されたのだろうか、レオポルト様は躊躇なく魔物の腹に手を入れると魔石を取り出した。


 サン・ホセが言う、

「レオポルト様、おめでとうございます、これで階層主を倒したのはレオポルト様と認定されました、お手数ですかその魔石はご主人様がお持ちください、帰りの切符になります」

「切符?」

 そんな事を言っていると、入り口と反対側の石の扉が“ズゥズゥズゥ”と音を立てて開いていく、


 薄明かりの中にステージの様な場所がある、数段の階段を当然の様に登って行くサン・ホセに続くと、ステージの床には緑色の複雑な魔法陣、ベッドを二つ並べたくらいの大きさがありそうね、

「こちらが転移陣でございます、全員乗ったのを確認したら先程の魔石を転移陣の中心に置いてください」

 ご主人様は握りこぶしくらいの魔石を取り出し、転移陣の中心に置く

 突然真っ白な光に包まれると、


 気が付いたら、明らかにさっきまでと景色が違う、一瞬で移動するとは、これぞ王道ゲームの世界ね




「階層主討伐おめでとうございます」

 ギルドの職員の制服を着た男性がレオポルト様に声をかける、

「それはどうも」

「優秀な奴隷達で羨ましいです、次からは階層主の魔石をこの転移陣にセットすれば、5階層のボス部屋の出口に飛べます、今後の健闘をお祈りいたします」

 プリスカ達戦闘奴隷は褒められたからか、少し得意げな顔、


「ねぇ、サン・ホセさっきの話は本当なの?」

「はい、その通りでございます、今日通った初心者階層はもう、通る必要はございませんよ」

 これはセーブポイントと言った方が分かり易いかもね、迷宮内は簡単に遠くまでジャンプ出来るけど、荷物は背負って歩かないといけないなんて、理不尽よね。


 ◇


 初の迷宮、時間にすれば半日より少し長い程度だけど市井の人達の10日分くらいのお金を稼ぐ事が出来たわ、

“なるほど、これならば命の危険を無視してでも迷宮に潜る訳ね”


「あれ、ミヤビじゃない!」

 明るくフレンドリーな声でわたしの名前を呼ぶ女性、冒険者のフリッカさんだ、後ろに控えているのはパオリーナね、わたし達に軽く頭を下げる、

「これはフリッカさん、今迷宮からのお帰りですか」

 めざとくプリスカとオザンナを見つけた彼女、

「この子達は新しい荷物運びの子達なの?」

「いえ、戦闘奴隷ですよ、近いうちにレンタルを開始しますので良かったら使ってみてくださいね」


「買うわ!」

「戦闘奴隷ですから相性も大切ですよ、まずはレンタルしてお試ししてください」

「平気よ、この子達かなりの手馴れね、見ればわかるわ」

「評価してくださって嬉しいのですが、パオリーナは手放すのですね」

「そんな事する訳ないじゃない、わたし達はもう家族よ」

 元娼婦の荷物運びをグイッと引き寄せる、パオリーナも主人の言葉に嬉しさが隠せない様だ。



「ミヤビ殿、荷物持ち奴隷の次は戦闘奴隷ですか」

 いつの間にかギルド長ヘンドリックがやって来てわたしに話しかけて来る、

「これはギルド長、戦闘奴隷は荷物持ちよりは高め料金設定を考えているので、借り手は少ないでしょう」

 わたしはざっくりとした料金プランを説明する、

 今までの荷物持ち奴隷とは金額が一桁多いし、取り分の比率も増やしたので、冒険者にとっては必ずしも美味しい奴隷とは限らないのよ。

「少しくらい取り分が減ったとしても冒険者達が無事に帰って来てくれればこんなに嬉しい事はないですよ」


 フリッカやギルド長と話し込んですっかり遅くなったわたしはかけ足で馬車に戻ると、レオポルト様が不機嫌な顔をしていた、

「ミヤビ、遅いぞ」

「申し訳ございませんでした」

 これは主人の自分を無視してみんながわたしにばかり話しかけて来る事に嫉妬しているのね、分かり易過ぎですよご主人様。

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