私のそれはきっと、風船みたく、シルエットのように、Tシャツぐらいの

dede


「うわ、溶けてんじゃん」

「じゃ、貰わなくていいよ」

「いやいや貰う貰う。あーでも手がベトベト」

「文句ばっか。やっぱ返せ」

「残念、もう食べた。やー、疲れた体に沁みわたるー」

そうフユキはしたり顔で言うと、指先についたチョコも舐めていた。

日差しが眩しい。風通しをよくするため、体育館は正面入口も窓も搬入用の扉も全開にしている。

バスケ部の先輩たちはもう帰った。

今日は午後使用する部活もない。アリーナのモップ掛けは終わってる。後は戸締りをして帰るだけなのだが、何となく小休憩する雰囲気になったのでグランド側の扉に二人して腰かけて私のチョコを食べている。

二人して、サッカー部も野球部もいなくなった陽炎揺らめくグランドを眺めてチョコを食べている。うるさくセミが鳴いている。

Tシャツが汗を吸って重たい。顎から垂れた汗がコンクリートに吸われていった。ふと汗のにおいが気になって気持ち半歩分距離を取る。

フユキがぼやく。

「なんでうちの高校、バスケ部男子も女子も人気ないかなー?」

「ねー」

「来年は新入部員たくさん入るかな?」

「入ってくれないと、そっちはともかく女子は試合出れなくなっちゃうわー」

「だよなー。あ、そういえば廃部にならなければ3年の時は俺たちって自動的にキャプテンになる?もしかして?」

「うわっ!お互いガラじゃない!想像つかん!」

二人してケラケラ笑う。

「ま、先の事はいいや。今は先輩たちとバスケしてるの楽しいし」

「だねー」


春先に知り合ってからまだ数か月しか経ってないにも関わらず、私とフユキは馬が合った。

クラスは違えど、放課後毎日顔を合わせていると、さすがに距離も縮まった。

お互い学年で一人しかいないバスケ部員だ、戦友みたいなものだった。

「チヨさんよ?今日は何かお持ちかな?」

「フユキさんよ、今日はクッキーじゃよ?」

偶然廊下ですれ違った時に、声を掛けられた。

「くれ」

「あいよ」

受け取ったクッキーを、フユキはバリバリ頬張る。

その横顔を見て、小学校で飼育当番でウサギに野菜をあげてた時の事を思い出した。

「そんだけ食べて、よく太らないよね?」

「運動してるから腹減るんだよ。そっちも同じだろ?あーうまい」

「私はこれでも食べ過ぎないように気を付けてるって」

「あ。チヨのお菓子。私も貰っていい?」

「いいよー」

たまたまクラスの女子バレー部のコもやってきたので、そのコにもクッキーを渡す。

「ありがとうチヨ。フユキくん、いっつもチヨのお菓子食べてるよね?」

「ん?そっかな?でも美味いんだもん。あーあ、チヨの家に生まれたかった」

「こんな弟いらないよ?それに毎日お菓子とか太らないにしてもニキビすごいことなるよ?」

私の親はお菓子屋さんだ。それで賞味期限が切れてお店に出せないお菓子を、勿体ないからといつも私に持たせてくれる。

……商売っ気がないなぁ。

「気に入ってるんなら、たまにはお店にも買いに来てよね?」

「ケーキとか生菓子は何度も買ってるぞ?」「私も。結構他のコたちも買ってるみたいよ?」

「え、ほんと!?どうも、今後も御贔屓に~♪」




「チョコくれー」

「あいよー、いっぱいあるよ」

「おお」

フユキはたくさんのチョコレートが手に入ってホクホク顔だった。

昨日の売れ残りがたくさんあるからね、ここ数日はチョコ三昧だよ。

2月14日?書き入れ時にタダで配る訳、ないじゃん。


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