第3章 お泊まり強襲④
「クッククク、滑稽だな、第一位」
スペードは楽しそうに笑う。
まぁ気持ちはわかる。俺やってることピエロと何も変わんないからね。
「———うるさい———人類を脅かす悪魔め!」
「それと話をして組織に入ったくせに」
「言うな!そんなこと!嘘でも!」
「え?嘘言ってない……」
素で困惑してる。
「黙れ黙れ黙れーーーーーーーーッ!!!」
「龍宮寺⁈」
「焦らないで!暁さん!」
俺は両腕を機関銃に変え、そのまま乱射する!!!
さっさと帰れ!!!
ダダダダダと銃弾が柵に当たり続ける!
しかし、肝心のスペードは———穴が空いても、それがすぐに塞がっていく!!!
「雪合戦するには早すぎるぜ」
「不死身の体———やはり厄介だな」
「お前、さっきからわざとらしい台詞を回しやがって!男なら本音で語れ!」
「言うんじゃねぇ!!!」
さらに乱射乱射乱射!!!
困惑するだろうが、今は帰れ!!!
「あーあ、ちょっと疲れちまったよ……」
穴を空けてはそれを治しつつ、スペードはゆっくりと立ち上がった。
「クールタイムだ」
———すると、何やら歯車が軋むような音があたりに響いたのち。
———世界から、音が消えた。
———なんなら空も、昼でも夜でもない、
———光がないのに闇もない、完全な灰色の状態になっている。なぜだかみんな白黒に見える。
———それに、体が全く動かない。まさかこれは———!!!
———時を、止めた———⁈
「まさか、ここまで俺にさせるとはな———器としては上々だよ」
(な、何を言っている)
「よーくあんたの言ってることは聞こえるぜ」
(なんですと!)
「やっぱお前ふざけた人間じゃねーか」
(悪かったな!なぁこれどうメカニズムなんだ)
(私たちは彼らより上なので、意識を保てるんですよ)
なんかルルシアの声も聞こえてきた。
そんな上なの?あんな痴態で⁈
「そーそー、そんで俺は、お前に覚醒してもらわなきゃあいけない」
スペードがゆっくりと俺に近づいていくる。
(何を、する気だ!)
「簡単なことさ———」
そう笑いながら、俺の目の前から消える!!!
「お願いします!覚醒してください!!!」
———土下座してた。
(何してんだお前……)
「仕方ないだろ!お前の中に何かしら吸血鬼がいることは確かなんだ!それが上位である以上、覚醒してもらわないと計画がいつまでも平行線なんだよ!」
(———吸血鬼)
「あぁそうさ。それが俺たちの名前だ」
(ヒメも、そういうことか)
「ヒメ———あぁ———あのチビちゃんか」
(チビチビチビチビ———彼女のことを馬鹿にしているのか!)
「いや、単純にあいつ一番若いんだよ」
(あ、そうなんだ……すみません)
「いやいいよ」
(なんでちょっと打ち解けてるんですか)
というかさっきから土下座しながら喋ってる。
いいのかな?プライドとか。
「どうやら、まだまだ目覚めないみてーだな———まぁいいさ、もっとちゃんと追い詰めてからやるよ」
(なん———だと)
「まぁ抵抗するなら頑張れよ、俺も手加減しないからさ」
そう言いながら立ち上がって踵を返し、そして柵を飛び越えて去っていった。
———そして再び歯車の軋む音が聞こえ———全て元通りになった。
「———あれ?スペード、は……」
紗奈は困惑している。
「な、何が、起こった……⁈」
そして震え始めた。恐怖も同時にきた。
———本来は、ああいう反応を取るイベントだったような気がしてきた!!!
敵が土下座しながら会話してるの聞いてちゃあダメだろう。
「———厄介な奴だ、時を止めていた」
「り、龍宮寺、なんでわかるの⁈」
「俺も化け物———人間ほどの影響を受けるわけではなさそうだ」
「なんなの———アイツらは」
「『吸血鬼』———吸血獣の親にして、人類の敵!」
「きゅう、けつ、き」
「あぁ、そうだ」
「そんな、あんな伝説上の存在が」
「奴らはいつも歴史の陰に隠れて暗躍していた……そして今!この時代に!人類に混沌をもたらすため現れたんだ!」
(言い過ぎじゃないの)
(ここまでしないと俺が怪しまれる)
(今脅せばいい、お前も吸血鬼にしてやろうか!)
(なんでいちいち過激なの?)
「こ、これからどうしたら」
「ひとまずは家に泊まれ。今のお前の精神状態で、まともに戦えるとは思えない」
「そんな!私だって———」
「手が、震えているぞ」
「えっ———」
そりゃ震えるだろ。
何がなんだかわからないんだぞ。
「お前は、俺が守ってみせる」
「龍宮寺———」
すると、俺に飛び込んで、抱きついてきた。
(ええんか)
(ええねん)
「こわかった……こわかったよぉ……」
胸に顔をうずめて、泣き始めた。
そりゃ精神のジェットコースター状態なんだから仕方ない。
「……」
俺は、何やらわかってますよ感のある顔で彼女の頭を撫でた。
(よいこだよいこねんねしな)
(子供扱いしてるじゃないですか)
「カレー、できたよ」
そう彼女はまた笑う。
忙しいね。
牛すじがごろっとして、野菜もたくさん入ってる!
ルーもちゃんと自作した!まさしく自家製カレー!
「「いただきます」」
ライスにルーと牛すじをしっかり合わせて、口に運ぶ。
———これは!!!
味が……薄い!
複雑な味わいはするが……なんかそれも薄くて味の輪郭がぼやっとしている!
何食べてるか忘れる!
(ケチャップが欲しくなる)
(褒め言葉みたいに言うな)
(あれですよ、お菓子づくりの時こんなに砂糖入れていいの?ってなるけど少なめにしたらダメダメっていう、アレ)
(名前をつけたい)
「どう?美味しい?」
なんか白い歯を見せて、すごく眩しい笑顔で語りかけてくる!
「まぁまぁ、だな」
でもパクパク食べてみせる。
「素直じゃないんだから」
(素直に言ってみ)
(カルピスウォーター薄めたような、味がする)
(それもうただの水じゃないですか?)
(いくらでも食えるな!あは、あはは)
(また壊れちゃった)
「風呂が沸いた」
女の子が二人もいるのに風呂。
なんか嫌だな。なんか起こりそうで。
「先にいいよ、私あとでいい」
「私もいいですよ」
「そうか、すまない」
ということで僕が一番に入ることになりました。
脱衣所のドアを閉める。
とりあえず上を脱ぐ———しかし、なんだ?何やら視線を強く感じる!
こんなことある?
試しにドアの方を見てみると、すごく薄く開いている。
数ミリ単位だろうか。
しかし問題は、それをしているのは彼女ということである。
異様な観察力で、はっきりと、俺の体を、全て、把握しようとしている!
「おいッ!」
俺はドアを開ける!
だがもう既に向こうで洗い物をしていた。
そんなことできる?
ということで上がって、今度は彼女を少しだけ覗いてやろうと思いました。
正当防衛に入るはずだ。入らなくても入れる。
ということで、脱衣所に向かってみる。
半分くらい開いてた。
俺泊まると言ってしまったよなぁ。
一体、俺は純潔を守り切れるだろうか……?
「ぐがーっ」
紗奈はさっさと寝た。
『今夜は、お楽しみだもんね』
とか耳元で囁いた割に、なんかベッドに寝転んだら一分後にはもう熟睡していた。
「ぐが、ぐごご、ごがーっ!」
やたらイビキがうるさい。
ベッドを貸して、他の二人は床で寝袋で寝る、ということにしたのだが、どうにもこうにも、うるさい。
「んあー!」
ドン、ドンとなんか蹴ってるみたいな音がする。
見てみると、なんか足をバタバタ動かしている。
うっせぇな……。
ベランダに放り出してやろうかな……。
———すると、ルルシアが転がって、背中にぴったりと密着してきた。
「———なにさ?」
「ねぇ、やっぱり、溜まりますよね?」
「———なにが⁈」
「私も、溜まってるんです」
「え」
「ね?二人だけで、内緒で……」
「え、ええええ、ええ———!!!」
「くぅ〜たまんねぇ〜」
ルルシアは麺をすすって唸る。
「やっぱ深夜に食うのは、こうガツンとくるな」
「でしょ」
近くの豚骨ラーメン屋までやってきていた。
十二時までやっているという。
「ほんと塩分が足りなくてイライラして……こんなフラストレーション溜めていいのかって思って」
「まぁ水みたいなカレーだったからね」
ルルシアを見ると、一度にすする麺の量が多すぎるせいか、カーテンみたいになっていた。
「辛子高菜入れないの」
「私嫌いなんですよアレ、スープの優しさが失せる」
「そんなもんかな」
僕はドバドバ入れますよ、ええ。
しかし。
なんかこんな風にしてるが、こいつよく考えるとほぼ一日の付き合いなんだよな。
びっくりだ。
「……ルルシア」
「なんでしょう」
「なんか、お前となら暮らせそうな気がしてきたよ」
「それはそれは」
ルルシアは手を挙げる。
「替え玉一丁、バリカタで」
「うぃー」
「私も、あなたでよかったです」
一日が長い。
ずっと隣にいるせいか?
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