フェイクリベンジャー山田

乱痴気ベッドマシン

第1章 闇夜の復讐者①

 夜空には真っ赤な月が浮かんでいる。

 ———奴らが来る夜はいつもそうだ。

 

 あの日から、何も変わっちゃいない———。


 ビルの屋上から見つめる大きなそれは、俺をいつも挑発しているように感じられる。

 『家族の仇を取ってみろ』と———。


 俺の名は龍宮寺暁。

 

 ———復讐者だ。

 

 俺はビルから飛び降りる。

 そして俺は背中から真っ黒な翼を広げて、奴らを探して飛んでいく。

 この力は、奴らのものだ。

 だが決して、奴らの仲間になったわけではない。

 ただ毒を以て毒を制す、それだけだ。


 やがて、奴らはすぐに見つかる。

 今回の個体は熊のような姿をしている。

 真っ赤な身体をした、獰猛で醜悪な怪物。

 かなり大柄で、腕を振り回しているがそれにより道路に穴が空いている。

 相当な怪力の持ち主であると考えていいだろう。

 数人ハンターたちが見られるが、距離をとって拳銃で銀の弾丸を撃つしか手立てが無さそうだ。

 「龍宮寺さん!」

 「龍宮寺さんが来たぞ!」

 「これで大丈夫だ!」

 俺がその場に着地すると、周囲のハンターたちが騒ぎ始める。

 「全員!民間人の避難を優先しろ!こいつらは俺が片付ける!」

 「「「は、はい!」」」

 そのまま彼らは向こう側に走っていった。

 熊どもは俺を何やら怪訝そうに見つめる。

 それもそうだろう。彼らと同じ力を持つはずの俺が、彼らに敵対しているのだから。

 俺は片腕を変形させて、クロスボウのような形にする。

 そしてそこから、『柱』を放つ。

 柱は真っ赤なぶっとい棒だ。それは見事に熊の内の一体の腹にぶっ刺さる。

 だがさすがはタフなようで、大したダメージは入っていないとでも言いたげに、奴は荒ぶり始めた。

 

 ———もうすでに、命は尽きているというのに。


 柱は瞬時に変形し、首を後ろから押さえつけるような形になる。

 そして同時に上に伸びる二つの棒の中心には、真っ赤な刃が現れる。

 

 ———ようやく気づいたのか、熊は怯えるように喚き始めるが———無慈悲にその刃は落下し、熊の首が切断された。


 脅威を勘付いたのか、残りの個体は一斉に逃げ始める———だが、俺はそれを見逃すわけにもいかない。

 今度は自分の血を周囲に漂わせ、それらを先ほど切断した刃に変える。

 そしてそれを、奴らの首に向かって放つ!


 ものの見事に、奴らの首はポンポン飛んでいった。

 

 やがて奴らの体はドロドロに溶けていく。

 これが奴ら———『吸血獣』の習性だからだ。


 

 吸血獣。

 いつからか現れた謎の怪物。

 一定周期でやってくる、真っ赤な大きな月が出る夜のみに現れ、人々を襲う。

 人を食べる習性を持ち、総じて獰猛、そして先ほどのように危険を感じるとすぐに逃げるなど、ある程度の知能も備えている。

 先ほどのように死ぬとドロドロに骨ごと溶ける習性を持つため、研究などを行うことができない。

 そのため表立った対策などは行われていない———が、そんな奴らをこの世から一匹残らず殲滅するための集団が、ハンターたちが所属する『聖銀協会』である。

 俺はそこに所属し、奴らを狩っている。

 なぜそうなってしまったのか。

 それは半年前に遡る。



 俺はそのとき、まだ普通の高校生だった。

 俺と両親と妹の四人家族で仲睦まじく暮らしていた。


 だがそれは、ある日一瞬で叩き潰された。


 あれは山に家族全員でキャンプに行った夜のことだった。

 『お兄ちゃん、見て!真っ赤な月!』

 夕食のバーベキューの準備が終わり、いざ火をつけようとしていた時、何やら空に真っ赤な大きな月が浮かんでいた。

 『いやぁあんな大きな月が見れるなんて、ラッキーだぞ、お前ら!』

 『ほんと、いい時期に来れてよかったね』

 『……でもさ、ちょっと不気味じゃない?』

 『何言ってるんだ暁、未知への憧れは、捨てたらダメだぞ?』

 『はいはい、父さんのチャレンジ精神は見習いますよ』

 やがてバーベキューが進んできたが、火が付かなくなってしまった。

 『薪が足りないのかもしれない、暁、とってきてくれないか』

 『えぇ〜』

 『マシュマロ多めにしてやるからさ』

 『わかったよ』

 そう俺は一旦山の方に行き、枝をたくさん抱えて戻ってきた。


 ———そこで目にしたのはバーベキューに勤しむ家族ではなく、ただただ生を略奪された、血まみれの死体だった。

 ———そしてそこにいたのは、山羊の頭を持つ人間のような———だが天使のような翼を生やしている———真っ赤な化け物だった。

 ご丁寧に顔中に返り血が残っており、俺の家族をなぶったであろうことを、まったく隠そうともしていなかった。


 『テメェェェェェェェェェェ!!!』

 俺はもはやそれに対する恐怖よりも、家族を奪ったそれへの怒りが勝っていたのか、考えなしにそれに向かっていった。

 だがそれの持つ力は人間の比ではなく、ただ殴り返されただけで、俺は吹っ飛ばされてしまった。

 さらにそれは吹っ飛ばされたはずの俺の前に瞬時に現れ、足にある硬い蹄で、何度も何度も俺の腹を踏み潰した。

 内臓が潰れる感覚を味わいながら、俺は何度も吐血した。やがて腹が凹んだと確信したのか、それは俺から離れようとした。


 ———だが俺は、その一瞬を見逃さなかった。


 俺は奴のふくらはぎに噛みつき、引きちぎった。


 奴は山羊のような鳴き声を上げながら、俺の闘志に恐れをなしたのか、引きちぎられるとすぐに、その翼でどこかへ飛び去っていった。

 ———いくら一矢報いたとはいえ、俺の身体はすでに限界を迎えていた。

 だが、胸の中にあったのは、死への恐怖でも、家族への懺悔でもなく、奴への変わらぬ怒りであった。

 

 ———お前も俺と同じように、何度も踏みつけられた虫ケラにしてやる!!!


 その怒りが俺の身体に届いたのか、それとも引きちぎってそのまま飲み込んだ肉片が俺の身体に適合したのか———俺の腹はなぜか再生した。

 

 ———すると、目の前が途端に明るくなった。


 まるで昼のように、月も、星々も、俺を照らしていた。


 ———そこで俺は悟った。


 俺はもう、今この瞬間から、人間ではなくなってしまっている。

 あいつらと同じ、化け物だ。


 ———だが、それがどうした。


 あの山羊の化け物を踏み殺すためなら、どんな姿にだってなってやる。どんなに残酷なことだって、やってみせる。

 

 ———俺から全てを奪った、あいつから何もかもを取り戻すためなら。

 

 そこから俺は、独自の研究を進めていった。


 まずは自分の身体の研究だった。

 一体なにができて、そして人間だった頃に比べて何ができなくなっているのか。

 まず、身体が自由に変形するようになっていた。

 奴をイメージしてみると、腕が山羊の前足のようになった。

 そしてそこからイメージを広げていく。奴らを殺す、となると銃が一覧に思い浮かぶ。

 すると俺の両腕は、銃の形に変わっていた。

 ならば撃てるのか、と夜カラスに向かって撃つイメージを固めた。

 すると、両腕から何やら弾が放たれ、カラスは地面に墜落した。

 そのカラスの弾痕を観察してみると、どうやら本当に銃弾に撃たれた時と一致していた。

 ———イメージを、形にできている。


 やがて、二回目の真っ赤な大きな月がやってきた。

 俺は街をくまなく探した。

 ———すると、何やらネズミのような奴の同類を見つけた。

 

 俺は奴に向かって、両腕を銃に変形させ、銃弾を放った。

 うまく腹に命中した———だが、それだけでは上手く効いていないようだった。

 苦しんでこそいるが、決定打にはなっていない。

 ならばどうすればいいのか、と瞬間考えると。

 

 ———俺の右腕はナタになっていた。


 そしてそれで苦しむネズミの首を狙い———切断した。


 すると、奴は切断された瞬間、身体中がドロドロに溶けていき、そしてそこに何も残さず消えた。


  ———銃弾ではダメだ。確実に殺すためには、刃物を用いねばならない。


 同時にその瞬間、俺は溶ける死体に手を置き、吸収するイメージを持った。

 すると、それは俺の中に吸収されていった。


 奴らについての情報が流れ込んできた。

 ・分裂で増殖する。そのため実質的には単細胞生物などに近い。

 ・身体はほとんどが血液でできている。なぜ筋肉を保てているのかは不明。

 ・血から全ての栄養を得ている。しかしあまり得ずともしばらくの期間は活動ができる。

 ・太陽の光を浴びると、瞬時に身体が硬質化し、そのまま粉々に砕け散る。

 ・何かしらの本能に基づいて行動している。危険を察知すると逃げようとする意識まである。

 ・普段は暗い場所に潜んでいる。真っ赤な大きな月の出る夜以外は大人しい。


 ここで奴らについてわかったのは幸運だった。

 ———もう二度と、人を殺させやしない。

 その決意を、固められたから。

 


 

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