村の掟

柳 一葉

第1話 村の言い伝え

ある芒種の季節 毎年同じように稲の種を播く

 この村に尋ね人がやってきた

 村の噂の早さには慣れた

 いつもの噂好きの村人が駆け寄って

「町からやってきたそうだとても麗しい女性だ」

 その男の一声で今までの作業を中断して皆で挨拶しに行く事になった

 この村に何の様なんだと不思議に思い集会所に出向けば女性は一人静かにお茶を飲んでた

「初めまして、私は南田尚美と言います急に尋ねて来てしまい稲の種を播く作業も止めて頂く事になりすみません」

 尚美は百合の単衣を纏ってました

「いえいえ、その事については大丈夫ですよ皆も貴方の様な綺麗な方に会えて嬉しいでしょうし気にしなくていいですよ」

「ありがとうございます。あのお名前は何と仰るんですか」

「あ、失敬藤間長富と申します」

「藤間様、貴方が藤間吉郎様の子息なのですね私は貴方に用事があって今日この村に尋ねて来ました」

 藤間は驚いた、何故俺に用があるのか初めて会った相手だぞと疑心を抱きました

 町でも俺の存在を知ってるのか

 長富は藤間家の跡取りの長男として生まれ今は女房と子供が二人いる

 決して苦しくは無い家庭だが愛は冷めきっていた

 この時期になると特に生活の忙しさからなのか喧嘩が多くなり子供は喚き泣くそれを女房が抱き抱え泣き止まさせる

 今日も働いて明日も働くそれが生きる事に繋がるからせっせっと働きに出る

 

 そんな中今日この出来事だ

 

「俺に何の用だい、手短に頼む」

 

「私は藤間様とこの村を出ていき暮らしていきたいと思い今日尋ねて来ました、以前来た時は夜でしたし直接会ってはいないので驚かせてしまいすみません」

 彼女いや尚美さんはまたお茶を含んでこう言いました

「この意見を飲めましたら明日の夕刻頃村の神社の祠前まで来てくれませんか」

「では、今日の所はお帰りになさって下さい

 話を聞いてくださってありがとうございました」

 と言ってた言葉に藤間は飲まれそうでした

 この村ともおさらば出来ると思ったが俺には家族が居るし跡取りとしても居なければならない、急に来てああ言う事に流されたくはないと考えた

 話していた時間はそうは長くはなかったがもうすぐで黄昏時に入るなと思い今日はもう帰路へと急ぐのであった

 

 帰宅したが女房が真っ先に俺に向かって

「あんた、あんたが今日村に来た女に鼻の下伸ばしてたって聞いたけど何何だい私と子供が居るにしたって向こうさんも狡い人だね」

 ああ、また喧嘩かと思い立ったけど尚美さんの言った言葉が脳内で回ってる

 そうだこんな家出てって二人で暮らすのも良いかなと思えてきた

 昔教えられた言い伝えも結局出鱈目だろう

 そう頭で考えながら

 明日作業が終わったら祠に行こう

 そうだそうしよう

 

 次の日、種を播き終わり着替えて約束していた祠へと向かう

 

 先に尚美さんが待っていた

 

「藤間様来てくださったんですね」

 彼女は微笑んで優しい声色で包み込んでくれた

「俺も尚美さんと共に暮らして生きたいです」

 やっとこの生活ともおさらばだ

 

 二人は抱き合い接吻を交わす

 

 次の瞬間抱きとめてた温もりが消え目を開けてみると、息苦しくなり視野も徐々に暗くなっていく

「そんな馬鹿な、言い伝えは本当だったのかそんな嘘だ」

 

「こやつの生肝を喰らえたお陰でまた命が伸びたわい、かわいいかわいいお前の子供もまた立派に育ったら喰らうぞ」

 尚美と名乗ってた女は実はこの村の祟り神

 

 藤間の家系は先祖代々男に生まれればこの祟り神に気に入られ成人し子供が出来すくすくと育てば喰われる

 その後跡形もなく食べられ村の噂ではまた藤間家の男が神隠し[#「神隠し」に傍点]にあったと広まる

 

 

 そう、この古びてた祠の戸は数日前から開いてた

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