第284話 前向きに検討しますって便利な言葉だよね
えーっと、目の前のおっさんはなにを言っているのだろう?
国? 国ってなに? 国家? コッカー?
『おい、相棒。フリーズすんな。さっさと正気に戻れ』
『おっとサンキュウ。……というか、この状態でも普通に会話できるんだな』
『本体だろうが、憑代だろうが、どれだけ距離が離れていようが、俺達だけは念話は出来る。元々一つの魂だからな』
なるほどね。よく分からんが、そういうことなのだろう。
「……ダンジョンを国として認めるなんて出来るのか?」
「前例はありませんねぇ。ですが、ないのであれば、作ればいいのですよぉ。ぬっふっふぅ」
いや、そんな簡単に出来ると思えないけど……。
というか、すっごい悪い顔してるな、この人。何か裏があるんじゃないのか?
「ん、パパ、この人、これが普通。見た目以外、は凄く良い人」
「そ、そうなんだ……」
と思ってたら、ドスがフォローしてきた。
えぇ、この見た目で凄く良い人なの、この人? 嘘でしょ?
『――提供。シュヴァイン卿の情報を転送します』
と思っていたらギジーから脳に情報が。
……孤児院に、亜人種の人権取得、悪徳貴族の廃嫡、市民への奉仕活動、その他諸々。……本当に良い人だった。
「ぬっふっふぅ。そうなんですよねぇ。ワタクシ、何故か人によく誤解されるのですよぉ。普通に話しているだけなんですがねぇ」
……その普通が駄目なんじゃないですかね?
なんて言えるわけもないので、曖昧な反応しかできない。
「私達のダンジョンが国になるってどういうことなのー? なんかいいことあるの?」
「ぷるー?」
よく分かっていないトレスとぷるるが声を上げる。
「そうですねぇ……。子供にも分かり易く言うなら、国になれば、まず人間達との無駄な争いが減ります。あと交易がはじまりますから、美味しいモノがいっぱい食べられますよぉ」
「おぉー」
「ぷるー」
物凄いざっくりとした説明に、トレスとぷるるは目を輝かせている。……主に美味しいモノが食べれるという点に。
そう言えば、前世では国が出来る仕組みってどういう感じだったっけ?
世界史ではちょくちょく革命が起きて国の名前が変わったり、新しい国家が樹立したりしてるってのは習うけど、実際、それがどういう仕組みで認められたりするのかまでは良く分からない。
勝手にここは俺の土地だー、ここは俺の国だー、独立国家だー、みたいに出来るわけはないだろうけど。
でもなんか海に浮かぶめっちゃ小さい基地だか要塞だかを勝手に独立してやらーってニュースがなかったっけ? あれって結局どうなったのか知らないけど。
すっとオリオンが手を上げる。
「現在、この大陸で国家として認められる最大の条件は大陸会議で承認されることです。ここで認められれば、晴れて国家となり、国際法の保護や貿易が発生します。かつてハルシャルード聖王国も数百年以上前に、大陸会議にて承認され、国家として樹立しました。……というのも、聖王国の設立の為に、大陸会議という仕組みが出来上がったという方が正しいですね」
これ、当時の資料ですとオリオンは羊皮紙の束をコチラへ渡す。
おそらくこちらの反応を予想して、予め準備していたのだろう。
なんか小難しい事が色々書いてあった。
これ、やっぱり俺じゃなくてエリベルが居た方が良かったんじゃないかなぁ?
『安心しなさい、駄龍。ちゃんと研究室からモニター越しに見てるから』
と、思っているとエリベルから思念通話が届いた。
『へぇー、魔物国家の樹立かぁー。面白い事考えるねー。ハルシャと聖龍が治めているとはいえ、聖王国はあくまでも表向きは人間の国って体だったし。アジルの魔王軍とダンジョンは国と言って差し支えないレベルだったけど、それを人が認めることはなかったしね』
レーナロイドもすぐに会話に加わる。
「当時の聖王国の成り立ちを元にして、大陸国際法や貿易法は生まれました。それまでは国が乱立する時代が続きましたから」
乱立する時代……それはひょっとして千年前にギブルが暴れたことに起因しているのではないだろうか?
それまでは人族は一人の王様が統治していたと、アンは言っていた。
それをギブルと星脈の眷属は始末し、その後のギブルの暴走によって人々は動乱の時代を迎えた。
ひょっとしたらハルシャが外に出たのはその辺も関係していたんじゃないだろうか? 超が付くほどの親馬鹿龍ではあるが、本来は規律や規則に厳しいクソまじめタイプだし。
「先の帝都神災事変、フォード砂漠での百鬼夜行と立て続けに大陸を揺るがす事態が続いております。魔物への恐怖は人々の心に深く刻まれているでしょう」
「……そんな中で、俺達のダンジョンを国として認めていいのか? かえって混乱するんじゃ?」
「混乱は間違いなく起こるでしょう。ですが、それ以上に人々が受ける恩恵の方が大きいのですよ。アナタ方が創った転移ダンジョン。もはやアレはこの大陸に無くてはならないものになりましたから」
「あれのおかげで神災事変の後も、物資の援助がかなりスムーズに行えましたからね」
オリオンも感謝するように追従する。
「それに混乱と言ってもさほど大きくはならないでしょう。既にハザン帝国と魔術都市エンデュミオンとは既に話が付いておりますから」
「え、そうなの?」
シュヴァインの言葉に俺は驚く。
「大陸会議の発言力は、各国の人口や規模に比例します。この大陸の主要な国は五つ。我々の属するハルシャルード聖王国、ハザン帝国、ボルヘリック王国、リキュア連邦、魔術都市エンデュミオン。この五つです。小規模な国は様々ありますがね」
なんとまあ手回しの良い事だ。
「えんでゅみおん?」
「ぷるー?」
横で首を傾げるトレスとぷるるが可愛い。
「大陸の東に位置する魔術大国ですよ。規模としては大国と言って差し支えないのですが、君主がおらず、あくまでもそれぞれの区をおさめる区長たちによって運営されている為、魔術都市と謳っているのです」
「中央区の代表を務めるヘルミスは私達とも個人的に交流があります。話の分かる方ですから今回の件も快く受け入れてくれましたよ」
へぇー、エンデュミオンってそういう都市なんだ。今更だけど名前だけしか知らなかった。
『うぇー……。あの小娘、まだ区長やってるんだ。知りたくなかったなぁ……』
レーナロイドがなにやら苦々しい感じの声を上げる。
『知り合いなのか?』
『知り合いってほどじゃないよ。私よりもアジル――魔王軍との関係がある人物だからね。それで私も知ってるだけ。直接会った事はないし』
『魔王軍と?』
『ヘルミスは勇者の仲間の子孫なんだよ。銀の魔術師って呼ばれてたエルフ。彼女が魔術都市の原型を作って、その子孫が発展させていったのが今の魔術都市だ』
『へぇー、そうなんだ。ん? エルフ?』
『魔術都市エンデュミオンはエルフの国だよ。なにをいまさら。エルフなんていくらでも見てるだろうに』
『そうだったっけ……?』
意外と見てなかったような……。あ、でも大陸会議の時には居たような……。
『アンタ、興味ない事にはとことん興味ないもんねぇ……。エルフなんてこの大陸、どこにでも居るわよ。数で言えば、人に次いで多い種族なんだから』
『……耳が痛い』
ちなみにこれは後で調べて分かったのだが、エルフの他にもドワーフや獣人等、亜人と呼ばれる種族は意外に多いらしい。
今度、ゴーレムホムンクルス作る時に参考にしてみよう。
閑話休題。
「ハザン帝国も今回の件を承認しています。本当はボルヘリック王国にも根回しがしたかったのですが、あの国は今や内乱状態でそれどころではありませんからねぇ」
あー、そういやレーナロイドがこのダンジョンに来たときに家燃やされてたっけ。
『……ワタシ、ナニモ、知ラナイ』
なんかレーナロイドがめっちゃ気まずそうにしてる。
うん。王国の内乱ってほぼコイツの所為だったよな。内政めちゃくちゃやってたらしいし。
「そう言う訳で、五大国の内の三国が既に承認済みなのですよぉ。ぬっふっふ」
「うーん……」
「ちなみに属国といっても表向きは同盟国という形になります。ハルシャ様が裏で聖王国を纏めていたのと同じやり方ですね。形式上はそうしておかないと、やはり納得しない者も多いので」
いや、べつに属国とかそういうのに悩んでいた訳じゃないんだけど。
「そもそもなんでそんな流れになったわけ?」
別に俺達は今のままでも不自由はしていない。そりゃあ、人間達の脅威がなくなるならそれに越したことはないけど。それにしたって、俺達魔物を国として認めるなんてあまりに異例だ。
「……先ほども申しあげたとおり我々は神災事変や百鬼夜行で思い知らされました。我々はあまりに弱い。今後もこのような事態が続けば、間違いなく人は滅びます。生き延びる為に、我らも必死なのですよ」
それは先ほどまでの悪辣な笑みとは違う、どうしようもない程に弱弱しい本音だった。
シュヴァインは頭を下げる。
「どうかお願い申し上げます地龍アース様。どうか、我らに貴方の庇護を。人々をお守りください。我らは貴方に従属し、貴方の望むモノを差し出しましょう」
彼らの必死な思いが伝わってきた。
なので俺もこくりと頷き、その想いに応えた。
「………………ま、前向きに検討させてください」
その瞬間、その場にいた全員がずっこけた。
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