お嬢様は今日も働く 〜お嬢様JKがコンビニでバイトしてたんだが〜
かるら
第1話 突然の邂逅
お嬢様は今日も働く
「秋山、進路希望早く出せよ?別にどんな進路だって先生たちは怒んないんだからよ。」
「はい。すみません。来週中には提出するので…。」
「一応期日は過ぎてるんだから、月曜には出してほしいところだが、まぁセンシティブな問題だからこっちが譲歩しよう。だがその代わり、きちんと真面目に考えろよ。」
「もちろんです。ありがとうございます。」
俺、
もともと今日が期日だった進路希望調査のための用紙を提出できなかったので、こうして放課後呼び出しを喰らっていたのだ。とりあえず、土日でしっかり考えよう。
消し跡が残る進路希望調査用紙を片手で持って、2年A組の教室に戻っていった。
教室に戻ると、俺以外にも生徒が残っていた。
「でさー、今日うちらカラオケ行って朝まではしゃごうかなって思うんだけど、九条っちもいかない?」
「あら、お誘いは嬉しいですけれど、遠慮しておきますわ。」
「うわーウチら振られちゃったー。やっぱ金持ちってそういう庶民的なとこ行かない感じ?」
「え、ええまぁ。そんなに行ったことはないですわね。」
「やっぱそうなんだー!すげー!」
教卓の方で、女子達が駄弁っている。俺はそいつらを横目に見ながら自分の席につき、帰宅の準備をする。
「おっす涼太。もう帰んの?」
「おう健。これから予備校だからな。」
「お真面目なこって。」
「うっせ。」
こいつは
俺たちは放課後の日差しに照らされながら、雑談をする。
「さっき、九条さんの方見てたろ?やっとお前も九条さんの良さがわかるようになってきたのか…!俺は嬉しいよ…!」
「ちげーよ。声が大きくて注目が一瞬そっちに映っただけだ。」
「言い訳しなくても、いいんだぜ?」
「違うって言ってんのに。あとその言い方きもい。」
「いや急に辛辣!」
バカなこいつは置いておいて。
それもそのはずで、彼女は有名レストランを多く子会社にもつ九条グループの御息女であり、まさに本物の「お嬢様」なのだ。
「そもそも俺はああいうキャピキャピしたやつはそんな月じゃないんだ。どちらかというと清楚な方がいい。」
「変な奴だなぁお前は。」
「お前もだろ」
「え?」
「え?自覚ないの?」
まじかこいつ。
こうして、他愛もない会話を繰り広げる俺たち。
「そろそろ予備校に間に合わなくなるから、じゃあな。」
「おう、また月曜な。」
俺は足早に教室を去った。直前にもう一度教卓の方をチラッと見る。まだ駄弁っている女子達が見えた。黒い感情が湧き出てくる。カラオケなんてしてる暇ないだろ?学生の本分を全うしろよ。
いや、だめだダメ。また俺の悪い癖だ。
実は俺はカラオケなどの遊びをそんなにやったことがない。心の中に憧れはあったが、最近は歪んですぐに他人に嫉妬してしまう。嫉妬してもいいことなんてない。そう自分に言い聞かせて下駄箱に上履きをしまうのだった。
予備校の授業が終わり、俺は予備校の外に出て携帯を確認する。時刻はすでに午後8時。
「早く帰って飯作ってやんねぇとな…。」
俺には2人のきょうだいがいる。シングルマザーで、帰りがよく遅くなる母の代わりに、俺は妹達に飯を作ってやっている。きっとあいつらもお腹を空かせていることだろう。少し早歩きで帰ろうとした。
しかし、歩いている途中で、卵が切れていることに気がついた。卵がないと明日の朝ごはんに支障が出る。仕方なく俺は、近くのコンビニで軽く買い物してから帰ることにした。
「いらっしゃいませ〜!」
女性店員の心地よいトーンが響く。どこかで聞いたことがあるような気がしたが、多分気のせいだろう。
卵1パックと、カップラーメン、アイスクリームやお菓子などをカゴに詰め、レジに持っていった。
「袋はどうなさいますか〜?」
「つけて欲しいです。」
「かしこまりました〜。カップラーメンやアイスをご購入されてますけど、箸やスプーンもおつけしましょうか?」
「いや、どっちもいらないです。お気遣いありがとうございます。」
「かしこまりました〜。それではお会計865円でーす!」
俺はポケットから財布を取り出して小銭入れを見る。分かってはいたがちょうど100円足りないので、仕方なく千円札を出した。
そういえばこの店員さんの声、さっきから聞いてたけど、妙に聞き覚えがあるな…?
俺は顔をあげてみる。店員さんの名札が見えたので、読んでみると、そこには若葉マークと「九条 麗華」の文字が。
まさかと思い、バッと顔を上げる。そこには店の制服に身を包み、髪を後ろで束ねて営業スマイルを見せる、クラスのお嬢様がいた。
「九条さん…?何やってんの…?」
「へ…?」
思わず尋ねてしまった。
うちの学校は原則バイト禁止。まぁどの生徒も基本的にはこっそりバイトしてるんだろうが。そこは別になんとも思わない。
俺が疑問に思ったのは、なぜ『彼女が』バイトをしているのかということ。
九条さんは名実共にお嬢様だったはず。バイトなんてする必要はないのでは…?
「もしかして、同級生です…?」
「覚えてない?クラスメイトの秋山だけど…!」
「秋山くん…あ、秋山くん!?嘘全然気づかなかった!」
学校ではコンタクトをしているが、疲れるので今は眼鏡をかけている。勉強のし過ぎによる弊害だ。
家族からも、メガネのあるなしでだいぶ印象が変わると良く言われていた。だから気づかなかったのだろう。
「それで、なんでバイトしてんの…?」
「ギクッ。」
「うちの高校ってバイトダメだったはずだけど。」
「いやー。人違いじゃないですか〜…?」
「さっき思いっきり俺のことクラスメイトって認めてたじゃん。」
「うっ。」
なんか、思ってた印象と違った。もっと話しにくいと思ってたんだけど、スラスラと言葉が出てくる。
そういえば、言葉にお嬢様のような語尾や雰囲気がない。完全にオフモードだったのだろうか。
すると突然、九条さんが胸元を掴んできた。やだ怖い。
「もうすぐシフト終わるから、ちょっと待っててくれる?」
「え、でも妹達が…。」
「く、れ、る、よ、ね?」
「…はい。」
押し切られてしまった。こうして、俺は九条さんのシフト終了まで外で待機させられたのだった。
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