TS転生奴隷ちゃんの剣闘生活

蜜柑の皮

序章:杯に手を伸ばすまで

第1話:プロローグ

 砂塵の中、血が飛び、肉が飛び、人の生き死にが飛び交う。

 円形に囲まれてた試合会場コロシアム

 そこでは今日も、人と人が殺し合いを繰り広げていた。


 振り上げた大剣が、鎖に繋がれ飛んできた棺桶を叩き弾く。

 大剣を手にする少女はそのまま視線を、砂塵渦巻く斜め下に。

 するとその砂塵の中から、黒い外套を身に纏う腕が飛びてきた。


 力を込めた少女は振り上げた大剣を、腕が飛びてきた場所に向かって即座に振り下ろす。

 その瞬間は試合を見守る誰の目にも捉えることはできない……否、あまりにも速すぎてできなかったのだ。

 確認してから振り下ろし終わるまで、時間にして約0.6秒。

 常人では捉えることのできない速度だった。


 だがその一撃を理解していたのか、大剣が振り落とされる寸前で足を止め、後ろに飛ぶ。

 そして距離を取ると鎖の音ともに棺桶を手元に手繰り寄せた。



「はァ……」



 大剣を持つ少女が一つ、ため息を吐く。

 その瞬間、砂塵が吹いた風に乗り、辺りから一掃されて二人の姿がコロシアムに現れる。


 綺麗に輝く鮮やかな青色……に加え、血が染み付き先端が黒く濁ったような色髪を持つ、大剣を持った小柄な少女。

 そしてもう一人、二メートル以上はあるだろうかと言うほどの大きな棺桶を鎖に繋ぎ、それを握っている修道服の少女。


 その二人の姿が露わになると同時に、コロシアムは熱狂に包まれる。

 二人の人気は容姿、強さが相まってとてつもないものになっていた。


 故に、その二人が今日、殺し合いを繰り広げる。

 それだけでコロシアムには観客でいっぱいになっている。

 予約もひと月前から売り切れるほどの大盛況だ。



「相変わらず、って感じだな」

「お変わりないようで」



 その二言で二人の間には緊張感が走る。

 ……次に口を開いたのは、シスターの方だった。



「お変わりなさすぎて成長を全く感じられませんが。身長の方はお育ちに?」

「うっせぇ!! 関係ないだろ!!」

「それは失礼。全くお変わりなくて、過去からやってきたのかと」

「テメェ……殺す。今回で絶対に殺してやる!」



 そう言い放った大剣の少女が、大剣を手に地面を蹴って走り出す。

 走り出したのを見たシスターは、棺桶を繋ぐ鎖を握って振り回し始めた。


 ……そしてそれを遠くの鉄柵から。

 コロシアムの観客席、その下にある奴隷たちが準備に勤しむ場所から。

 一つの視線が二人の戦いを見ていた。



「……あれが、剣闘士。奴隷からの……数少ない出口」



 黒く肩より少し上部分に、短めに切り揃えられた黒い髪。

 そしてそこから生える猫の耳と、尻より少し上部分から伸びる尻尾。

 その二つを持つ少女が、その光景を見つめ続けていた。




 これはその彼女の物語である。

 奴隷から解放されるために、剣闘士として名を挙げ、そしていつの日か世界に名を轟かせるようになる。

 かつては転生者の、物語だ。

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