第128話 ファンサ


 「プヒヒヒヒン」 (今日は人が多いな)


 イギリスから帰って来てからは、のほほんと過ごしてた。ナイーブな気持ちになってたけど、今更俺がどうこう言ったところで引退は変わらないしな。


 それなら残りのレースを全力で楽しんで、世界の競馬ファンにエンマダイオウという存在を刻み込んでやろうと思う。一生忘れられないような馬になってやるぜ。


 なんて事を思いながら、日々牧場で鈍らない程度に走り回って、クッションを引っ張り出してきて、牧場のど真ん中で寝るのを繰り返してた。


 で、今日も今日とて気持ちの良いお日様の下で爆睡をかましてやろうと思ってたら、柵のところにたくさんの人が。


 「プヒヒヒヒン」 (なんやなんや)


 「わっ! 実際見るとマジででけぇ!」


 「皆さん、大きい声を出さないようにお願いしますね。後、当然の事ですがフラッシュもNGです。馬は繊細な生き物ですから。ご協力お願いします」


 気になって近付いてみると、カメラを持った男女がいっぱい。年齢層もバラバラ。年寄りから若者まで一貫性がない。


 見知らぬ警備員風の人が、ごっちゃになった人を頑張って誘導して整理している。


 「プヒヒヒヒン」 (いつもの写真会か)


 近付いてようやく理解した。

 これまでも年に2.3回、結構な人数がまとめて俺を観に来るってのがあったんだ。


 そういえば今年は無かったから、すっかり忘れてたぜ。


 「プヒヒヒヒン」 (ほな、カッコよく撮ってくれや)


 俺は柵の所にズラリと並んだカメラマン達の所に行ってポーズを取る。一通り撮り終わったら、少し歩いて同じようにポーズを取る。


 こんなポーズを撮りたいなーって声も聞き逃さない。しっかりとリクエストに応えるぞ。


 む? 良く見ればあれはテレビの撮影か? 俺を撮ってる人達を撮ってるっぽい。


 あれか。大人気エンマダイオウがお茶の間のテレビに流れたりするんだろうか? なんなら、芸も出来ますよ。リクエストをくれたら、なんでもやります。


 花京院レーシングをどうぞよろしくーつって。


 「プヒヒヒヒン」 (いつもの写真の人が居ないな)


 こういう撮影会では毎回参加してくれてた、目がキマっちゃってる人。今日は予定がつかなくて不参加って事かね。


 あの人、なんだかんだ結構好きなんだけどなぁ。




 「プヒン?」 (むっ?)


 なんて事を思ってた次の日。

 昨日ファンサービス頑張ったし、今日は牧場のど真ん中でぐっすり寝てやるぜと思ってたら、今日も人ごみがみえる。


 飼い主兄ちゃんめ。

 今年は海外ばっかりでタイミングが無かったからって、ここぞとばかりに入れて来やがったな? せめて明日もやるぞーって言ってくれれば、事前の心構えも出来たってのに。


 「エンマー!」


 「プヒン」 (およよ?)


 しゃーないから今日もファンサをぶち撒けてやるかと、とことこと歩いて行くと、昨日とは少し違った。


 なんか全員ちっちゃい。

 小学生低学年ぐらいの子供かな?

 ちびっ子がみんなを引率してるみたいになってる。


 「今日は学校の友達を連れて来たよー!」


 「プヒン」 (ほう)


 ちびっ子が嬉しそうに、この子が誰々でって説明してくれる。申し訳ないけど、覚えられる気がしない。滅茶苦茶多いし。


 中には俺にビビって近付いて来ようとしない子もいる。そういう時は俺がしゃがんで目線を合わせてやると、恐る恐る鼻先を柵越しに触ってくるんだ。うむ。よきかな。


 子供の笑顔はやはり良い。


 「プヒヒヒヒン」 (しゃーない。ここの牧草をやろう)


 特別だぞ? ここら辺の草は滅茶苦茶美味いんだ。兄弟達にも教えずに俺だけで独占してるんだけど、子供達の為なら仕方ない。


 俺は草をむしっては、子供達の前に並べてあげる。誰一人として受け取ってくれなかったけど。


 そういえば人間は草を食べなかったな。

 すっかり馬に染まって忘れてたぜ。


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 決して某白い悪魔を真似た訳ではない。

 決してだ。こんな馬実際にいる訳ないよね…?

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