第126話 ゴロゴロ


 日本ただいま。

 イギリス旅行からちょっぴり傷心中のエンマダイオウ君が帰って来ましたよ。そこから、いつも通り検疫やらなんやらを終わらせて、実家に戻ってきた。


 今は放牧場のど真ん中で寝っ転がって、物思いに耽っている。


 「プヒヒヒン」 (成長期は終わりかぁ)


 前回のレースを走って、アンジュを思った以上に千切れない事に驚いた。俺は無限に成長出来ると思ってたから、またもや半馬身しか前に出れなくてびっくり。アンジュが俺と同じように成長してたのか? 


 それとも俺の成長が止まったのか…。

 まあ、引退って言われるぐらいだから、成長が止まったんだろうが…。


 あ、この人をダメにするソファと同じ感触のクッション良いなぁ。ヨギなんたらとか言うやつ。飼い主兄さんが言ってたけど、名前忘れた。間抜けな感じだった気がする。


 「プヒヒヒン」 (現実逃避にも飽きてきたな)


 こんな事をずっとさっきから考えてる訳だ。


 少なくとも去年は成長してる感じはしたんだ。フランスの重い馬場に鍛えられて、パワーとスタミナが付いたような気はしたし、その成果が、有馬記念とかドバイでのレースで発揮されたと思ってる。


 そこから調教も自主練もサボらずにやって来たけど、そこからの上澄みがないように思う。


 「プヒヒヒヒン」 (今年で引退は寂しいけど、潮時だったって事だな)


 イギリスでちびっ子からその話を聞いて、割り切ったはずだけど、落ち着いて改めて考えてみるとやっぱり悲しい。


 馬に転生した時はやってられるかーって一瞬思ってたけど、なんだかんだ走るのは楽しかったし、レースで勝つ快感は最高だった。


 それを味わえなくなって、これから残りの馬生をどう楽しんで生きていけばいいのか。


 「プヒヒヒン」 (引退後の競走馬ってマジで何をするんだ)


 毎日こんな感じでダラダラと過ごすんだろうか? いっぱい食べる俺ならすぐにデブっちゃうぞ。レースに出ないなら、身体を絞る必要もないんだし。



 ………あー、そういえば競走馬って子作りも仕事の一環なんだっけ…。いつだったか、牧瀬さんと調教師の兄ちゃんが話してるのを聞いたような気がする。


 種付けがどうとか、受胎がどうとか。


 その時は俺に関係ないと思って聞き流してたけど、俺も引退したら誰かをお嫁さんにもらって、そういうハッスルをしたりするんだろうか?


 馬の結婚ってどうするんだろ?

 柵越しにオスメス向かい合ってお見合いとか? 気に入ったらそのままゴールイン的な。


 「プヒヒヒン」 (アイリッシュが良い)


 俺はそれならアイリッシュが良いなぁ。

 これまで結構一緒にメスとも走ってきたけど、未だにアイリッシュ以上に美しい尻の持ち主に出会った事がない。


 あれは良いものだった。


 「プヒヒヒン」 (流石にもう結婚してるよなぁ)


 だいぶ前に引退してたし、あれだけの美人さんなんだ。引く手数多だろう。くそう、もう少し早く生まれてれば、俺にもチャンスがあったかもしれないのに…。


 自分の容姿はいまいち分からないけど、この真っ黒の毛並みには自信があります。



 そこからしばらく、俺は未来の結婚相手は誰になるのかと、ゴロゴロしながら妄想して過ごした。


 出来れば美人さんで引き締まったお尻の持ち主が良い。


 そんな事を思いながら。

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