第125話 複雑な心境
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ゴール板を1着で駆け抜けたエンマダイオウ。鞍上の滝宇鷹騎手は小さくガッツポーズをして、エンマダイオウの鬣を撫でる。
正直、滝は負ける事は一切考えてなかった。エンマダイオウがいつも通りのレースをしてくれたら、間違いなく勝てると思ってたし、事実その通り勝利した。
しかし滝の内心は複雑だった。
(今年で引退宣言してて良かったかもな。俺もエンマも)
今年で引退宣言をしたエンマダイオウと滝宇鷹。世間からまだまだやれると言われているが、実際のところ、滝自身は色々限界だった。
たった1レース乗っただけで上がる息。日に日に衰える筋力と握力。毎日のトレーニングは欠かさず行っているが、それでも年齢の波には勝てない。
そしてそれはエンマダイオウも。
(エンマは今がピークなんだろうな。ようやく完成したんだろう)
滝は今日のレースに騎乗して理解した。
エンマダイオウという競走馬がようやく完成したと。
これまでエンマダイオウの全てのレースに騎乗してきた滝だが、走るたびに成長する姿に毎回驚かされてきた。
4歳になってもその成長は止まらず、永遠に成長していくのではと錯覚してしまうほどに。
それは5歳のラストイヤー初レースのドバイで騎乗した時も変わらなかった。まさかあんな大舞台で鞭すら入れずに勝つ事になるとは思ってなかったのだ。
しかし、ドバイから帰国して日々の調教にも付き合い、イギリスに来てからというもの。その成長が止まった。
ようやくエンマダイオウの成長がピークに達したのだ。滝は今回のレースでそれを確信した。
そうなればここからは衰えていくばかり。
今のエンマダイオウからは想像も出来ないが、生物は年齢を重ねれば必ず衰えがくる。
欲を出して来年もという事になれば、エンマダイオウの輝かしい経歴に傷を付けてしまうかもしれない。
(エンマなら本当にずっと走ってられるって思っちゃうけどね)
引き際を間違ってはいけない。
滝はそう自分に言い聞かせるが、やっぱり少し悲しくなってしまう。
自分の生涯を懸けて歩んできた騎手生活。
その最後のご褒美のように現れたエンマダイオウという世界最強馬。
(はぁ。引退が近付くにつれてまだまだ続けたいって気持ちになってくるなぁ…)
滝はレースに勝った喜びと、もうすぐ終わってしまうという悲しい気持ちで、内心がぐちゃぐちゃになっていた。
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レースに勝ったでござる。
最後にアンジュと競り合えて滅茶苦茶楽しかった。やっぱりレースはこうじゃないとね。
俺が気にしてたゴリアテは普通に強かったけど、アイアイサーやアンジュ程ではないな。もう少し成長したら楽しめる相手になるんだろうけど、俺ちゃんは今年で引退らしいので…。はぁ…。
まあ、でも引退で良かったのかも。
今日のレースで分かったけど、なんか自分の伸び代的なサムシングが無くなったような気がする。
俺の予定ではアンジュともう少し差を離せるはずだった。結果は半馬身差。勝ったは勝ったけど、納得がいかない。
凱旋門賞、有馬記念でアンジュと戦ったけど、両方半馬身差。アンジュも成長してるんだろうけど、どうも俺の方が伸びてないように思う。
今日だって、引退の話は聞いてたから記憶に残るぐらいどえらい勝ち方をしてやろうと思ってたんだ。それなのに、半馬身差。勝ちは勝ちでも、いつも通りって感じじゃんね。
しかもなんかいつもよりバテてる気がする。ずっと坂道だったからかなと思ったけど、これも俺がへなちょこになったからじゃなかろうか。
気合いを入れて調教とかしてるつもりなんだけどな。気持ちとは裏腹に身体の方が限界なんじゃなかろうか。
分からん。分からんけど、なんか悲しい。
全く。レースに勝ったのに、なんでこんな気持ちにならないといけないのか。
はぁ…。
負けるのは嫌だから、勝ち逃げ引退するのは良いけど、なんだかなぁ…。
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戸崎くぅん…。
3歳牝馬が勝つなんて聞いてないよ…。
ジェンティルの時はお世話になったけども…。
戸崎くぅん…。
レガレイラおめでとう。
作者は結局分からなくなって、ハヤヤッコに単勝ぶっ込んでお祈り。4コーナーまでは夢が見れたぜ。
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