第69話 最高潮


 エンマ君勝利〜。うぇいうぇい。

 エンマ君勝利〜。うぇいうぇい。


 レース後。俺のテンションは最高潮。

 滅茶苦茶楽しいレースだったぜ。やっぱりアイアイサーと一緒に走るレースは一味違うね。それに今日は尻美人のアイリッシュもいた。


 今日でお別れなのが悲しいくらいだ。


 走り終わって、アイアイサーの近くでドヤ顔してやったら、ふすっと鼻息をかけられて逃げられた。負けたのは理解してるだろうに、その目はまだまだ闘志いっぱいだ。これは次のレースも楽しめるかもしれませんな。


 アイアイサーに嫌われちゃったよーと、アイリッシュに泣きつきに行ったら、一瞥して走り去られた。なんてクールな女性なんだ。結婚してくれ。………嫌われたとかじゃないよね? それはちょっとショックですよ?


 その後はいつも通りだ。なんか変なのを背中に被せられての記念撮影。


 「エン! 今日はとってもカッコ良かった!! 良く頑張ったね!」


 「プヒヒヒン!」 (せやろせやろ!)


 俺も今日は我が事ながら、カッコ良いレースが出来たんじゃないかと思ってたんですよ。いつもみたいに最後の直線でごぼう抜きじゃなくて、直線前に良い位置にスポッと収まってからのスパート。


 いつもとは違う気持ち良さがあったね。なんか賢い競馬をしてるって感じがしました。いつもは脳筋戦法で、今回はインテリ戦法的な? よく分からんけど。


 まあ、それも滝さんのお陰なんだけどね。滝さんの指示に従ってたら良い感じになってたし。ほんと不思議だぜ。


 でも新たにレースの楽しみは見出せた。それは良かったね。


 「エンマ、お疲れ様。本当に良く頑張ったな」


 「プヒン!」 (前脚キック!)


 「うわっ! ……全く。お前は相変わらずだな」


 調教師の兄ちゃんが俺を褒めてくれたけど、とりあえず蹴っておく。もうこれは一種の愛情表現だと思ってほしい。なんかもう兄ちゃんを見ると、蹴りたくなってしまう体になってるんや。


 パブロフの犬的な? 俺は馬だけど。


 ほら、俺の行動に観客も大盛り上がりだ。良かったね。喜んでもらえるなら、こっちもやり甲斐があるってもんよ。


 「エン! 写真撮るよー!」


 「プヒン」 (はーい)


 ちびっ子に声を掛けられると、兄ちゃんとのじゃれ合いをスパッとやめて、褒めろ褒めろとちびっ子に擦り寄る。


 そんな行動がまた観客を沸かせてるみたいだ。こいつらはなんでも盛り上がりやがるな。


 俺の飼い主のお兄さんや、そのお嫁さんにも良く頑張ったと褒めてもらって、ようやく写真撮影。


 ちびっ子とバイバイして厩舎に戻ってくると、一気に疲れがドッと押し寄せてきた。


 「プヒン」 (疲れたー)


 うーむ。これは明日は筋肉痛かな? あれだけ坂道で特訓したのに、まだ鍛え方が足りないか。やっぱりもう少し坂路の本数を増やしてもらおう。


 前回のレースより距離が短いはずなのに、疲れてる気がする。対戦相手によって疲労度も違うんだろうなぁ。


 でも楽しかったから良いや。またしっかりと鍛え直して、もっともっと対戦を楽しもう。


 次にアイアイサーと一緒に走れるのはいつかなー。ダービーとか? そういう有名レースでまた一緒に走れたら燃えるよね。


 

 

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