第62話 花京院レーシング
☆★☆★☆★
「まあ、これが普通だよなぁ」
「エンマちゃんのせいで感覚がおかしくなってるわよね」
妻と一緒に花京院レーシングの馬が出走する新馬戦を見に来た。
しかし結果は3番人気の4着。エンマがすんなり勝ったから、ここでも頼むぞと思ってたんだが、やはりそう上手くはいかない。
むしろこれが普通なんだ。新馬戦ですんなり勝って、その後も連戦連勝なんて一握りの馬だけ。エンマがおかしいだけなのに、初の馬がそうなったもんだがら、感覚がおかしくなってしまっている。
「一応今年デビューの馬は5頭いるけど、オープンまで行けば御の字かなぁ」
「それでも新米馬主からしたら万々歳よ」
「エンマの半弟にはちょっと期待してたんだが…」
「あの仔はむらっ気がねぇ」
エンマと同じ母である馬が今年デビューした。エンマがあれだけ活躍してくれたから、ちょっと期待していたんだが。新馬戦はブービーの9着だった。半弟って事で一番人気に推されてたんだけどね…。
まだまだ素人の俺が見てもポテンシャルはありそうなんだけど、かなり気分屋だ。走る時は目を見張るものがあるんだけど、走らない時はとことん走らない。
新馬戦も終始最後尾で気持ち良く走ってるだけだった。鞭を入れようがお構いなしなんだよなぁ。なんとかならないもんか。
ポテンシャルがあるだけにもったいない。
「今はエンマのお陰で黒字だけど、一頭だけに頼る訳にはいかないよな。次代の柱になる馬が欲しいよ」
「高望みが過ぎるわよ。G1や重賞を簡単に獲れる馬を生産出来るなら、牧場が廃業になったりしないの。地方でも良いから元気に走ってくれればそれで良いわ」
「いや、そうなんだけどね。利益も必要だよ。じゃないと、結局牧場を畳む事になっちゃう。なんとか結果を残して、それなりに経営出来るようにしないと」
エンマが種牡馬になっても支えてくれれば良いけどなぁ。大体の馬に合わせても血を薄めれるメリットはあるけど、元の血統が良くないから、果たしてどれだけ子供が走ってくれるか…。
エンマだけが突然変異みたいでおかしいんだよねぇ。まあ、競馬界には時折りそういう馬が出てきて、その血が主流みたいになったりするんだけど。
「これで今年は残りエンマだけだね」
「まさか有馬記念に出るような馬を生産出来るとは、始めた当初は思っても無かったわよね」
「確かに。10年ぐらいかけて、重賞を勝利してくれれば良かったんだけど」
勝てば勝つ程、次も次もって欲が出てくるんだよね。エンマでこんなに大成功してるのに、新馬戦に負けたぐらいで次代の心配してるのが良い例だ。
一度成功を体験してしまうとこうなるんだなぁ。一発屋牧場で終わるか、その後も堅実に勝利を積み重ねていけるか。
それは運も関係するだろうけど、俺達牧場の人間のサポートの手腕に掛かってる。エンマでの成功体験に慢心せずに、頑張らないと。
今回の新馬戦は自分の慢心に気付かせてくれる良い機会だったと思おう。
でもそれは別としてエンマには有馬記念に勝って欲しい。それとこれは話が別だからね。
舞も応援を楽しみにしてるし、是非とも頑張ってもらおう。
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