第57話 ズキズキ


 どうもどうも裸足で駆け抜けたエンマ君です。金髪野郎や、もう一頭前にいた馬をぶっこ抜いて一着でゴールイン。最高に気持ちよかったです。


 ゴール板を駆け抜けたはいいものの、レースが終わった途端にアドレナリンが切れたのか、靴が脱げた脚が痛くなってきた。これはアイアイサーがいたら負けてたかも。本調子じゃなかったし。いなくて良かったとホッとするべきか、負けてたかもしれない事を反省すべきか。


 アクシデントがあったとはいえ、最強には程遠いな。これでは100億稼げる馬になりませんよ。今どれくらい稼いでるか知らないけど。


 滝さんは俺の異変に気付いたのか、俺から降りて脚を確認する。大丈夫ですかね? 俺的には歩けなくはないけど、走るのはちょっときついかなって。痛いというか、ズキズキするというか。ズキズキは痛い表現か。


 競走馬生命絶望とかじゃないよね? 体は元気なのに引退とか冗談じゃないですよ。ようやく最近走る楽しさってのが分かってきたところなんだからさ。


 まあ、それも勝ててるからなんだろうけど。負けてたら楽しくないもんね。他のお馬さんとかも、勝ち負けとか意識してるのかな? とりあえず走れって言われてるから、走ってる馬ばっかりそう。


 中にはアイアイサーとか、俺の横の馬房の後輩みたいに、闘志を剥き出しにしてくるやつもいるけど。


 で、思い出した。距離が長い事を教えてくれなかったよねと。それはもうプンプンですよ。脚が痛い事なんて忘れて滝さんに抗議する。


 ちびっ子の名前を出して誤魔化そうとしたけど、そうはいかない。俺は次からはちゃんと教えてねと頭を滝さんにぶつけておく。


 レジェンドの滝さんならこれで通じるはずだ。牧瀬さん達にもやっておこう。しかし調教師の兄ちゃんは許さん。


 前脚キック3連発をお見舞いしてやる。怪我が治ってからだけどな。治るよね?





 「エーン! 頑張ったねー!!」


 「プヒン!」 (せやろ!)


 今回のレースは序盤から隣の馬が立ち上がってびっくりしたり、靴が脱げて走るのに違和感があったり、レースの距離を勘違いしたり、色んな馬に囲まれて走り難かったり。


 いつもとは違う感じだったけど、そこはエンマ君。しっかり勝ち切ってやりましたよ。


 滝さんの操縦に従ったお陰だけど。いやぁ、途中で変にスピードを上げたりして迷惑をかけました。


 「脚は大丈夫? 痛くない?」


 「プヒヒヒン」 (こんなの唾つけとけば治るぜ)


 心配ご無用。すぐに復活してやるぜ。次のレースがいつか知らんがな! がっはっはっは!



 いつも通りちびっ子を横に呼び寄せての記念撮影。なんか調教師の兄ちゃんが泣いてるけど。何かあったのかな? まだ蹴ってないのにな。貴様が泣くのは俺の怪我が治ってからだぜ。


 菊花賞とやらに勝つのはそんなに嬉しい事だったのかね? かなり長い距離走ったしな。長い方が格式的なサムシングが高いとか? それで嬉し泣きしてるとか。


 そういう事なら来年も走ってやらない事もない。賞金も高いかもしれないしね。


 「プヒヒヒン」 (とりあえず横になりたいかも)


 今日は疲れたよ。ご飯食べてゴロンとしたいぜ。良く頑張ったで賞を自分に贈ってあげたい。


 ご褒美の餌は良質なものを所望します。

 リンゴ5個ぐらい。それぐらいの贅沢は許されると思うんです。

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