第38話 次戦はダービー
「プヒヒン」 (ちょっと頑張り過ぎた)
厩舎に戻ってきたけど、また軽く筋肉痛になった。あんなに鍛えたつもりだったのに、まだ鍛え足りんか。
もっともっとトレーニングしなければなりませんな。
「プヒヒン」 (その為にはご飯ですよ)
カランコロンと餌桶を鳴らす。
いつもはレース終わりに贅沢させてくれるのに、今回はないんだよね。いや、レース前よりは多いけど、それでも物足りない。
餌が足りてませんよとアピールしても、通りがかる厩務員さんは、俺と目を合わさないようにしていく。
「プヒヒヒン」 (流石に寝藁はちょっとな)
自分の敷布団まで食べようとは思わない。衛生的に。なんとか首を伸ばして隣の馬の餌を掻っ攫ってやろうとしても届かない。
俺が何回もチャレンジしてるから、万が一を考えてなのか、絶対に届かない場所に移動させられたし。
「プヒヒヒン」 (ボイコットするぞ)
餌をくれないなら走ってあげないぞ?
馬になってからご飯ぐらいしか楽しみがないってのに。
「あら? エンマはご機嫌斜めね」
「プヒヒヒン」 (ご飯が少ない)
やって来た牧瀬さんに餌桶を鼻で押してご飯を要求する。それを見て苦笑いした牧瀬さんは、手に持ってた切り分けたリンゴを俺の口元に持ってきた。
「プヒン!」 (リンゴ!)
飛び付くようにもしゃもしゃ。
しっかり切り分けられてるのがポイントが高い。別に切ってなくても食べれるけど、人間の記憶があるから、切ってくれた方がなんか嬉しいんだよね。
「ごめんね。もっとあげたいんだけど、レースが近いから」
「プヒン?」 (また?)
この前走ったばっかりですけど?
そんな短い間隔で走るのか。まあ、筋肉痛さえ治れば全然ばっちこいなんだけど、ご飯が減らされるのは辛いねぇ。
「次はいよいよダービーよ。頑張ってね」
「プヒヒン」 (ダービーですと!)
とうとう俺でも知ってるレース!!
俺もようやく有名どころに出られるくらいには人気になったか!
「プヒン! プヒン!」 (これはテンションが上がって来ましたぞ!)
「あら? 急に元気になったわね」
ダービーですよダービー。
競馬素人の俺でも知ってるぐらいなんだ。さぞかし賞金もウハウハなんだろう。
実家のちびっ子も喜ぶ事間違いなしだぜ。
「プヒヒン!」 (こうしちゃいられねぇ!)
早速調教せねば! 絶対に負けたくないぞ!
「エンマ、落ち着いて。本格的な調教は明日から。今日はまだお散歩だけだよ」
なんだって?
俺のこのいきりたった気持ちはどうしてくれるんだ。もうやる気満々なんですぞ!
調教メニューを決めてるのは、あの兄ちゃんだな? 今までは手加減してたけど、やっぱりそろそろガツンとやっておくべきかもしれん。
ご飯の量についても一言物申したいし、これは調教師の兄ちゃんと全面戦争せねばならんな。この厩舎のガキ大将として、そして馬を代表してバシッと言ってやる。
みんなだってご飯をいっぱい食べたいはずだ。そのみんなのご飯をなんとか掻っ攫おうとしてたのは無かった事にして下さい。
良く食べて良く運動して良く寝る。
これを実践して俺は強くなったと思ってる。運動するのにもしっかり食べて栄養に変えないといけないと思うんですよ。
その辺をしっかり理解してもらおう。
前脚キックとか生温い事はしない。見かけたら突進して、小突いてやる。
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