第1話 転生


 死んだ。

 普通に車とぶつかってそう思った。

 で、現在。真っ白な空間にいる。


 「これはあれか。異世界転生するのか」


 俺だって紳士の嗜みとしてWEB小説とかはしっかりと読んでいる。

 これはこの後に神様が出て来て俺が死んだのは手違いなんですーとか、お詫びにチート能力を貰って俺つえーチーレムパターンじゃなかろうか。

 そんな事を思いながらウキウキしてたんだけど。


 「そんな訳なかろう」


 急に目の前に神様でございみたいな人? 人って言っていいのか分からないけど出て来た訳だ。

 で、俺の妄想はあっさり否定された。


 「まぁ、手違いがあったのは事実だが。死んだ後は輪廻の輪に入るのが普通なのに、何故か神域に紛れ込みよって」


 気付いたらここに居たし? 俺には訳が分かりませんよ。


 「まぁ良い。せっかくだから希望を聞いてやろう。異世界に送る事は出来んし、確実に希望を聞いてやれるかも分からんが。ある程度の願いなら聞いて輪廻の輪に戻してやる」


 そんな事言われましても。

 俺のテンションは既に異世界転生だったのだ。

 なんか今更希望って言われてもですね…。


 「100億稼げる男にしてくれ」


 投げやり気味に適当に。

 馬鹿っぽく、100億ぐらい稼げたら凄いよねとぶっこいた訳なんだが。


 「承った」


 「え?」


 そして俺は光に包まれた。


 ☆★☆★☆★


 とある北海道の牧場。

 そこでは今か今かと出産を待っていた。


 「おっ! 生まれた!!」


 知り合いが牧場を畳むという事で、安く買い取った牧場。広さだけはあったので、金持ちの道楽とばかりに色々改造。

 馬主資格も取って、晴れてオーナーブリーダーになった夫婦。


 「まぁ、可愛らしいわねぇ」


 「頑張れー! 頑張って立つんだぞー!」


 馬房に設置されたカメラ越しに応援する。

 生まれた牡馬はキョロキョロとしながらも、プルプルと足を震わせて立ち上がる。

 そして母馬の母乳を飲み始めた。


 「よしよし。これで一安心だな! 我が牧場初の馬だ!」


 「立派に走ってくれるといいわね」


 勢いで馬産を始めたものの、良血統は流石に捕まえられなかった。主流血統からはかけ離れてるが、地方でも良いから立派に走ってくれれば。

 この時はそう願っていた。


 ☆★☆★☆★


 「プヒヒン」 (訳が分からん)


 一体どういう事だってばよ。

 俺は100億稼げる男にしてくれと言ったんだ。

 何故馬になってる。男と牡は同じだってか? 神様アバウトすぎるだろうよ。


 「プヒヒヒヒン」 (馬は無しだろうよ)


 100億稼げる馬になったって事か?

 これ、競走馬だよね? 100億も稼げる訳?

 競馬は詳しくないんだけど、あれって1着の賞金1億とかでしょ? 100回走れって事? 馬はそんなに走れるの? てか、俺は短距離とか持久走とか嫌いなんだけど。


 分からない事ばっかりだ。

 普通に人間の男にしてくれよ。なんで捻って馬にしたかね。

 しかも結果を出せない馬の未来は悲惨だって聞くよ? 肉にされるんでしょ? 流石に自分が食べられるのは嫌なんだけど。


 「プヒヒヒヒン」 (馬の鍛え方…)


 人と一緒でいいのかな?

 とりあえず食べられたくはないから、走ってみればいいのか? 良く走って良く食べて良く寝て。

 それで強くなりませんかね。なんたって100億稼げる馬になるポテンシャルはあるはずだし。


 「プヒヒン」 (とりあえず乳だ)


 考えてたらお腹が空いてきた。

 ヘイ、ママン。あなたの息子がお腹を空かせてますよ。お乳を下さいな。


 


 「ほらどうだ、エンマ。広いだろう」


 ママンと一緒に厩舎から出される。

 そして連れられたのは馬鹿でかい原っぱだった。

 なに? これ全部敷地内なの? 金持ちすげー。


 「プヒヒン」 (お兄さんはお金持ち?)


 そこ、重要よ? お金持ちならもし結果を出せなくても面倒を見てくれるかも。

 なんか牧場っておっちゃんとか老人がやってるイメージだったんだけどな。なんか若いし。嫁さんっぽい人は美人だし。


 「ん? どうしたエンマ?」


 ジーっとお兄さんを見てたら不思議そうな顔をされた。因みにエンマは俺の名前らしい。なんでかは知らん。真っ黒の馬体が云々言ってたのは聞いたけど。


 それにしても広い。

 そしてその中にポツンと俺とママン。

 こういうのって他にも馬が居るもんじゃないの?

 もしかして俺達だけなのかね?

 なんかすっごい無駄してる感じ。


 「プヒヒン」 (とりあえず走るか)


 走り方は本能で分かる。

 タッタカタッタカと軽く走ってみる。

 ……意外と気持ち良いな。これぐらいのペースなら良いね。


 「プヒヒン」


 後ろからママンが慌てたように追いかけてきた。

 そして馬語が分からん。同じ馬なのに。走り方は分かるのに。


 「プヒュン?」 (なんかこの辺坂になってるな?)


 設計ミスか? なんかちょっと走るのがしんどいぞ? でもなんか鍛えてるって感じがする。



 その後も軽く走ってお兄さんの元に戻ってきた。

 普通に疲れたからだ。少し休憩してからもう一回走ろう。


 「うんうん。ちゃんと走れてるな」


 お兄さんは満足気だ。

 幼いうちに走り回って大丈夫なんだろうか?

 成長に影響出たりしない? ほら、人間は子供のうちは筋トレはあまり良くないって聞くし。

 まぁ、馬だし大丈夫か。


 「あなたー! お客様よー!」


 美人なお嫁さんがお兄さんを柵の外で呼んでいる。腕には3歳ぐらいの可愛い娘さんが俺をジッと見てる。

 なんだろう。幼い者同士仲良くしてね?

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