第2話 凄惨な現場
☆★☆★☆★
「なんだこりゃあ…」
「うっ……おぇぇぇぇ…」
レイモンド達がビルから去ってから数日。
ビルから異臭がするとの通報があり、警察が現場に駆け付けると、それはもう酷い光景が広がっていた。
無惨に殺された数十人の人間達。
部屋中が血塗れで、あちこちに臓腑が飛び散ったりして、虫が集ったりもしている。
中年の刑事はあまりの光景に唖然として、新人風の若い刑事は、少し離れた場所で嘔吐した。
「大重刑事」
「……おう。どういう塩梅だ」
「もっと詳しく調べてみないと分かりませんが、恐らくこの死体、全てが殴られて死んでます」
「はぁ?」
「蹴られてもいますが」
「いや、そこはどうでも…良くねぇが、これ全部がか? 殴っただけではどうしようねぇ仏もいっぱいあるだろう」
馴染みの警察医が意味の分からない事を言って、また驚く中年刑事の大重。
普通は人間が道具を使わずに殴る蹴るをしただけで、そこら中に臓腑が飛び散ったり、首が千切れてたりはしないのだ。
「刑事! 部屋に取り付けられていたカメラの映像があります!」
「! 見せてみろ!」
そこで事故現場を調べていたものが、部屋に取り付けてあったカメラの映像を発見する。
「………部屋の中のものがほとんど持ち去られてるのに、これだけ無事だったのか?」
「はい」
「ふむ……。まあ良い。映像を見せてくれ」
「はい。事件発生時から流します」
始まりは若いチンピラ風の男が、三人の男女をビルの半グレ事務所に連れ込んだところから。
周りにはいかにもアウトローな面々が十数人。一般人なら、こんな状況に放り込まれたら、間違いなく怖がる。
しかし、連れて来られた男女は周りの男達を見て怖がるどころか、むしろ楽しげな表情を浮かべている。
「は?」
「うわっ…」
その時だった。
余裕そうな表情の男女が癪に触ったのか、アウトローの一人が、男に脅しも兼ねた軽い暴力を振るおうとした。
映像では軽く頭をはたこうとしていたが、次の瞬間にはアウトローの首が飛んでいた。
「マジで顔を殴って首を千切り飛ばしてるのか…」
映像を見る限りでは、アウトローが男をはたく寸前に動いて顔面を殴っていた。信じられないが、それで首が飛んでるのだ。
「……おいおい、なんだこりゃあ…」
「ひ、酷いですね…」
「これは現実か…? ゲームを見てるんじゃないんだよな…?」
そこからは酷い有様だった。
男が首を飛ばしたのを皮切りに、二人の女の動く。好き放題に殴って蹴って、簡単に命を奪っていく。
大重はまるで無双ゲームでも見てる気分だった。殴れば人が飛んでいく、蹴れば人が飛んでいく。十数人のアウトロー達が、全員動かなくなるまで一分も掛からなかった。
「人間…だよな…?」
「……恐らくは…」
「政府が極秘に開発した高性能のロボットって言われた方が、まだ納得出来るぞ…」
蹂躙が終わった後、和気藹々と話し始める男女三人。残念ながら音声はないので、何を喋ってるのかは分からないが、人を殺した後に見せる表情ではない。
「人を殺し慣れてるな…。やばいクスリでもやってる殺し屋か? 人間ならそれぐらいしか想像出来んぞ。ちっ、公安にも話を通す案件か…。何か知ってれば良いんだが…」
「お、お、大重さん!」
「あん? ………おいおい…。マジで勘弁してくれって…」
映像では男女三人が部屋を物色しているところだった。
そしてそこで女の一人がまたもや信じられない事をする。なんと、部屋にあった金庫を腕力だけでこじ開けたのだ。
「……ちょっと待ってろ。現物を確認する」
大重は映像を止めてもらって、こじ開けられた金庫を確認しに行く。
「マジかぁ…。マジなんだなぁ…」
そこには金属の扉にべっこりと凹んだ手形の痕があり、指を扉にめり込ませて、引っ剥がしたような痕跡が残されていた。
当然金庫の中はカラである。
「おい、この金庫の中身はなんだ?」
「ええっと…映像で見れる範囲では…。白い粉…恐らくクスリですね…。後は札束がいくつかと、あー…拳銃もあります…」
「はぁ? こいつらはどこにでもいる半グレ集団だろうが! なんでチャカなんて持ってやがる! どこかの紐付きか!?」
「すみません。そこはまだ何も…」
「ちっ。すまん。つい取り乱しちまった」
大重はため息を一つ吐いてタバコを咥え、やっぱり懐にタバコを戻す。この前、事件現場でタバコを吸って、減俸されたのを思い出したのだ。
「他に何か得られた情報はあるか?」
「いえ…。室内を物色して、ほとんどを鞄に入れて持ち去っています。しかも最後には…」
「なんだ?」
「いえ、これを…」
大重は映像を見て、もう一度深い深いため息を吐く。
去り際に男がカメラを指差して手を振り、女二人もそれに続くように手を振って、事務所から出て行ったのだ。
「捕まらねぇと思ってるのか、捕まってもなんとかなるバックの力でもあるのか、ただの馬鹿か…」
「お、大重さん…」
「まだ何かあるのか? 俺はもうお腹いっぱいだぞ?」
「ビルの入り口に取り付けられてあるカメラの映像も届いたんで、犯人の足取りを追おうと確認してたんですが…。三人がビルから出た痕跡がありません」
「………裏口は?」
「設計図を確認したところ、入り口はカメラが取り付けてある場所だけです」
「……もう俺には分かんねぇよ…。一体どうなってんだ…。一応ビルの中を探すぞ」
「はい…」
当然ビルの中に三人の姿はなく。
大重は頭を抱える事になるのであった。
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