第18話 地上のヒューマン

 ツヅゴウ・hope・ランドルはアルビノだと告げた。ヒューマンでも、アルビノは元々少ない。宇宙でも、地底世界でも稀有な存在で、かつていた「レティリアン」と同じ祖先だが、光と闇に別れたとされる。


特徴は雪のように白く抜けるような肌と、冷たいイメージの氷の波動。それに、金の眼だ。片方は赤く、片方は金。オッドアイには古代の秘密が隠されているという。


「アルビノ……保護区にいないんですか?」

「よく知っている。流石はrubyの反逆者の博士の子息ですね」


 ――かちん。また蒼桐の脳裏が鉱石のような警鐘を鳴らしたところで、ツヅゴウは肩を竦めて笑って見せた。途端に屈託のない笑顔になる。


「これでフェアになりましたね。元々は貴方が私を怒らせたので。同じだけの波動を交換させて戴きました。保護区……の言葉はなかったと訂正を」

「訂正?」

「phantomが見ています」

 

 ツヅゴウ・hope・ランドルはちらりと空中を仰ぐ仕草をした。「クオンタム・phantom」と呟くと、また蒼桐に向いた。後で、一歩下がった飛鳥に視線を向けた。


「……」

 眉をしかめたツヅゴウは、片手を軽く振った。


「あ」


「悪いが、そこで大人しくしていて。キミには聞かれたくない」


 飛鳥の周りには薄いシールドが張られ、飛鳥の声はもちろん、波動までもが届かなくなった。飛鳥が何かを言っているが、ツヅゴウは気にする素振りもなく、蒼桐に向いた。


「ヒューマン二名とは聞いていない……伯井のいたずらか」


 ヒューマン二名。ずっと、飛鳥の素性を知りたかった。飛鳥はヒューマンではないのか?


 AIハーフとは思えない言動や、感情の吐露....

 聞くなら今だろう。


「ヒューマン二名……俺と、飛鳥ですか」

「飛鳥というのか。不吉な名前です。……彼女を連れて来るとは聞いていない。消えた諜報員1010の親族が来る、とだけ聞いています。ボッドの異常とも思えないから、伯井が本官になにも言わなかった。……減給だな」


 じろりと壁を睨むと、透けた壁の向こうから伯井ハヤトが手を振るが見えた。


「誤解はしないで下さい。ここは地下深くですから、密室にすれば何があったか見えないので、記録をしているだけだ。ヒューマン二名とは、貴方と、伯井です。伯井はヒューマンですので」

「嘘ですね」

「……直感か」

 蒼桐は頷いた。考える前に言葉が出るのだ。ここは、思考というものがないらしい。


「……rubyが大嫌いな能力だ。貴方、淘汰されたいんですか」


 今度は嫌悪感の波動がやってきた。意識体でいることに慣れているのか、アルビノは自由自在に存在の波動を変えることが出来るとは聞いている。ツヅゴウ・hope・ランドルはふっと手を伸ばし、くいっと上に持ち上げた。

 途端に蒼桐は吹っ飛ばされ、結界の中の飛鳥の眼の前を過ぎ、壁に打ち付けられた。


「このように、能力に変換できない直感など、お笑いです。その他、直感を取り出し、様々な形に戻す。感情も、奇跡も全ては同じところからきている。rubyに住むものにはそう言った能力が生まれつきあった。地底であろうと、その能力は今後の世界を変えるはずだった」


 ツヅゴウ・hope・ランドルの言葉には、抗えない何かがあった。飛鳥はと見ると、諦めてシールドの向こうから涙目でこちらに視線を向けている。


「サイコキネス・ヴァーチュアス・クレボヤンス……それをrubyでは霊能力と言ったそうです。我々はその力を研究している」


 ちら、と飛鳥を見ると、ツヅゴウ・hope・ランドルは続けた。


「あなたのその未知数の力を研究させてもらうことを条件に、彼女の自由を保障しよう。メスのヒューマンは保護区に送られる手筈だが、AIハーフの偽装を続けても良い」

「メスのヒューマン……では、やはり」


 ――飛鳥はヒューマンなのかもしれない。AIハーフとしたのはなぜだ?rubyだろうか?それとも……。


「アナタはオスです。良いものをお見せしましょう」


 告げると、ツヅゴウ・hope・ランドルは大きなモニターを指した。ここは五次元空間だ。第五密度では、意識を形に出来るのは、自室と同じだった。やがて大きなソファが出て来て、珈琲が現れた。「どうぞ」とツヅゴウ・hope・ランドルは蒼桐をソファに誘い、自分も座った。


「ヒューマンのオスとメスが出逢うとどうなるか、これは古代の研究の名残です。かつて貴方達は地上で生きていたんです。笑いさざめき、たくさんの自然のなかで」

 


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