第7話 触手武器

 今まさに魔物のせいで存亡の危機にあるウルフォ村だけど、一番厳しいのは食糧事情らしい。


 何せ、魔物のせいで外を出歩く危険性が増してしまったために、戦う力を持った獣人の戦士しか狩りにも採集にも行けない。


 それでいて、農耕をしようにも村の面積を広げればそれだけ魔物から目を付けられやすくなっちゃうし、戦士達は狩りをやればやるほど怪我で離脱する人が増えて、余計に苦しい状況になる。


 苦しい状況を何とかするために残った人達が無理すれば、当然無理した分だけ余計に怪我をしやすくなって……まさに悪循環だ。


 私がパパーッと魔物を狩って来るのも一つの手なんだけど、あまり一気に狩り過ぎたら他の魔物が血の匂いに誘われて集まって来やすくなって……まあとにかく、全ては戦える人の数が足りないのが問題みたい。


 というか、聞けば聞くほどたった二人で私を育ててくれたパパとママの評価が上がっていくんだけど。すごすぎない? うちのパパとママ。


 そういう意味だと、パパが町から帰ってきて、ママが風邪から復帰すれば、一気に改善はされる気がする。


 でも、それじゃあパパとママの負担が前よりも増えるだけだ。

 私は、二人に幸せになって欲しくて神様になることにしたんだから、二人に頼る前提なのはダメ。


 というわけで……。


「ミリアは、じゅーじんのみんなの“ぶき”をつくろーとおもいます」


「武器、ですかな?」


「うん!」


 現在地はママが寝ている部屋のお隣、村長であるガムートさんの部屋。

 そこで思い返すのは、私が熊の魔物と戦った時のことだった。


 剣をイメージしながら私の触手に魔力を込めたら、鉄みたいに硬くなってたんだよね。


 それでいて、私の触手って要するに、伸びた髪の毛なの。


 だから……。


「こーして……こう!」


 私は二本の触手を小さめな剣……というか、槍? みたいな形にして、それをもう片方の触手剣で切り落とす。


 ……やってから気付いたけど、ちゃんと触手にも触覚はあるのに不思議と痛くはなかった。なんだか不思議。


 そして、私から切り離された触手はというと……ちゃんと、槍っぽい形のまま維持されてそこに落ちていた。


「これで、ちょっとは“まもの”とたたかえるかな?」


 確か、ガストンさん達が使っていた武器は、木と石を組み合わせて作られた石槍だったんだよね。


 それに比べたら、こっちの方がずっと強いと思う。


「こ、これは……生体金属アダマンタイト……!? まさか、そんなはずは……だが……」


「あだ……ほえ?」


 何それ? と首を傾げる私に、ガムートさんは「いえ、なんでもありません」と冷や汗と共に否定した。


 全然なんでもなさそうに見えないけど、大丈夫かな?


「ちなみにですが……こちら、まだ出せるのですかな……?」


「うん、いっぱいだせるよ!」


 意識すればいくらでも髪が伸びるし、それを変化させるのもドンドン出来る。


 というわけで、請われるがままにスパスパとカチコチ触手金属槍を出しては切り落としていくと……十本くらい出したところで、ぐぅ〜、とお腹が鳴った。


「うみゅう、おなかすいた……」


 お昼前だからかな? なんだかものすごくお腹が減ってきた。


 でも、ついさっきまで特になんともなかったのに……もしかして、触手の出しすぎ?


「だ、大丈夫ですか、ミリア様」


「だいじょーぶ……でも、ごはんたべないと、もうだせないかも」


「なるほど……すみません、無理をさせてしまいましたな。ひとまず、こちらの槍をガストン達に見せて、使用感を確かめて貰います」


「あ、ミリアもいく!」


 そうだ、つい調子に乗って限界まで出しちゃったけど、使うのはガストンさん達なんだから、それぞれの要望くらい聞いたからやるべきだったよ。


 そこはガムートさんも同じことを思ったのか、少し反省するように腰が低くなっていた。


 そんなガムートさんの肩によじ登って、槍を一本だけ持って向かう先は、家の外。ちょうど、ガストンさん達が私の倒した熊の魔物を解体してるんだって。


「ガストン、おるか?」


「村長、俺ならここにいるが……っと、モケモケ様、先ほどぶりです」


 私を見るなり、即座に地面に膝を突くガストンさん。

 周りの獣人さん達も続々とそれに続いていくものだから、私はガムートさんの肩をバシバシ叩いて耳元で要望を伝える。


 毎回毎回、こんな風にかしこまられたら迂闊に外を歩けないよ。


「ガストン、皆もやめなさい。この方は確かにモケモケ様だが、それはあくまで神界での名であり、この地ではミリア様と呼ぶようにとのことだ」


「ミリア様……承知しました!」


「ああ、それから……ミリア様はそうして頭を下げられるのは好まないらしい。顔を上げるのだ」


「そ、そうですか……でしたら、祈りはどのような形で行えば?」


 祈り自体がいらないって言いたいところだけど、神様には祈らないと気が済まないみたい。


 なんでもいいから考えて、とガムートさんに視線で訴えられた私は、少し悩んだ末……名案を思い付いた。


「じゃあ、ミリアのこと、なでなでして」


「は? ……なで、なで……ミリア様を撫でよと!?」


「うん」


 それなら、普通に子供を可愛がるみたいなものだし、頭を下げられるよりは受け入れやすい気がする。


 戸惑う獣人さん達に、撫でないの? みたいな感じで頭を見せびらかすと、まずはガストンさんが一同を代表するように手を伸ばしてきた。


「……失礼します」


 鍛えられ、石みたいにゴツゴツとした手だ。

 パパの手も硬いんだけど、それとはまた違うマメと傷だらけのザラリとした感触は、獣人さん達がこれまでこの村で経験してきた苦労のほどを物語ってる。


 そんな立派な手が、遠慮がちにさわさわと髪を撫でるそのギャップに、思わず笑ってしまう。


「あはは! ガストン、おもしろい」


「そ、そうですか?」


 戸惑うガストンさんに、うん、と頷きながら……ちょうどいいかと、ガムートさんへここに来た本来の目的を促す。


「祈りを終えたところで、ガストンに新たな武器を授けよう」


「村長、この槍は一体……?」


「ミリア様の手で造られ、ミリア様の加護が宿った特別な武器だ。まだあるが、ミリア様はまずガストンに託し、ちゃんと扱えるか見極めたいと言っておられる」


「ミリア様の……! ありがとうございます! 早速試し振りをしてもよろしいでしょうか?」


「うん、やってみて」


 では、と槍を持ったガストンさんが、みんなから少し離れた位置で構えを取る。


 緊張しているのか、大きく深呼吸して精神を集中させたガストンさんは、カッと目を見開き──勢いよく、槍を突き出す。


「はあぁぁ!!」


 その瞬間、槍が光り輝き、ガストンさんから何かを吸い上げる。


 多分、魔力かな? 思わぬ槍の能力にガストンさんが目を見開くも、一度放たれた一撃は止まることなく……ゴウッ!! と。


 突き出された槍の穂先から凝縮された魔力がビームのごとく発射され、少し離れた位置にあった大岩を貫き、その更に先の森の木々を薙ぎ倒しながら虚空へと消えていった。


 予想外とかいう次元を軽く越える槍の力に、ガストンさんもガムートさんも、他の獣人さん達も……何なら私でさえ、あんぐりと口を開けたまま固まってしまう。


「えーっと……やりすぎちゃった?」


 何とか絞り出した私のその一言に、獣人さん達はみんな一斉に大きく頷く。


 うん、だよねー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る