第22話 ゲニーとライラの行方、そしてザルド聖騎士
あまりの唐突なことに、俺は黙り込んでしまった。
ど、どういうことだ?どうして、パーティーが解散したんだ?
ゲニーのパーティーは全員、仲がよく、ケンカをしても2日過ぎれば仲直りするほど、ずっと一緒にいた。パーティーを組んだのだってお互いに信頼していたからで、そうそう解散なんてならないはずだ。
「本当に唐突だったんだよ。遺跡から脱出した次の日にゲニーが突然ね」
「ゲニーが?」
「そう、しかもこっちの話を全然聞いてくれなくて、それで流れるまま」
ゲニーが急にパーティーを解散させるなんて、ゲニーらしくない?そもそもあいつは友達思いで、誰よりも俺たちを優先してくれる優しい男だった。
きっと解散させたのも理由があると思うが、それにしたって相談もなしに解散させるなんて、どう見ても変だ。
「それで今お前たちは何してるんだ?」
「今はこのルリカと一緒にパーティー組んで何とかやってる。まあ、もともと私たちは優秀だから、今の所、困ってない」
「…………ライラはどうしたんだよ」
「それがっすね!私たちもライラちゃんを誘うと思ったんすけど、いないんっすよ」
「いない?」
「ええ、ゲニーがパーティーを解散させた次の日にはもうどこにも、しかもゲニーもね」
ゲニーとライラがいなくなった。
…………もしかして、解散原因って俺じゃないよな。ゲニーとライラ、今、相当、仲が良くないし。でも、それにしたって一言もないしいなくなるも変な話か。
いろいろ考えても埒が明かない。
「それで、結局何が言いたいんだよ」
「もし、ゲニーとライラを見つけたら、報告してほしいの」
「お願いっす!!」
なんやかんやで友達思いだな。
「わかった。まあ俺も少し聞きたいこともあるし、それに親友として、力になりたいしな」
「ありがとう」
「さすが、レインくん!そういうところ大好きっすよ!!」
そう言って抱き着いてくるルリカ。
こいつ、もう成人しているのに、どうして、まあこうも昔っから子供っぽいんだ。
ルリカは遊ぶのが大好きで、冒険者もまた彼女にとって遊びの一環。それだけなら迷惑なのだが、実力もまた折り紙付き。
まさしく、才女なのだ。
「離れろ!」
俺は手慣れたように引きはがし、シェルミーの膝へと放り投げた。
「…………もう成人してるんだし、身振りぐらい覚えろよ」
「いてて、ひどいっす!」
「レインの言う通りだ。もう少し身振りを考えて」
「シェルミーまで…………ひどいっす」
こうして、会話をしていると昔のことを思い出す。
冒険者になる前はこの会話が日常で俺の中の一つだった。
ゲニーとライラ、今、お前たちはどこで何をしてるんだ。
「さて、そろそろ私たちは」
「もう行くのか」
「ええ、お邪魔しすぎるのもあれだしね。それじゃあ」
「バイバイっす!レインくん!!」
シェルミーとルリカは宿の食堂を後にした。
そして、入れ替わるようにテラが入ってきた。
「楽しそうだったね」
「見てたのか」
「うん」
なるほど、シェルミーのやつ相変わらず、器用で、察しがいいな。
「まあ、大した話じゃなかったから気にするな。それよりこうして完治したことだし、早速、冒険者ギルドに行くぞ。俺もいろいろ試したいからな」
「わかった」
今日のテラも機嫌がいいらしい。表情が柔らかくて、とても綺麗だ。
「さて、行きますか」
こうして、俺はテラと一緒に冒険者ギルドへと向かったのであった。
□■□
教会内。
「すでに、街に住む住民の半分ほどがティルミナ信徒になったことを確認いたしました、聖女様」
祈りを捧げるルミナ様。
その背後で跪くザル聖騎士は日課の報告をしていた。
「そうですか、それは素晴らしいことですね。それで?」
「はぁ!遺跡崩壊後、魔物が少しずつこちら側に向かいつつあると報告を受けています。現在、騎士を配備し、対処しておりますが…………あと数週間もすれば、我々でも対処できな数の魔物が押し寄せてくるかと」
遺跡崩壊に伴い、街の住民は一時期、混乱を招いた。そんな中、ティルミナ聖教が介入し、鎮めることができた。
これもすべて聖女様が住民たちに慕われていたがため。
だが、問題はさらに続いた。混乱を鎮めることができたものの、徐々に魔物が街に向かってきているという報告が知らされる。
今の所、ティルミナ聖教の騎士で対処できているものの、魔物数や規模は拡大し続け、いずれは街を囲むほどの魔物が押し寄せてくるだろう。
「困ったものですね」
「はい…………」
聖女様はこの現状に心を痛めておられる。しかし、我々とて人だ。やれることがあるにしろ、限度がある。
しかし、ルミナ様はこの現状をどう考え、どう対処するのだろうか。
「それでは引き続き、お願いします」
「んっ!?引き続きですか?」
「ええ、引き続きです」
対処しない?このままではこの街は魔物に攻められ、滅びるかもしれないというのに。
「お言葉ですが、現状を維持するのはもってあと3日です。それ以上となれば、魔物が街に侵入する可能性が」
「だったら、なんだというのですか?」
「…………」
ルミナ様の言葉に、私は思わず驚きの表情を浮かべた。
「ザルド聖騎士、そもそもなぜ私がここにいるのか、ご存知ですか?」
「それはティルミナ聖教の布教のため、各地を歩き、教えを」
「違います。たしかに、それも聖女としての務めですが、それは表向き。本当の目的は私に害をなす全ての駆除。ほら、いたでしょ?最初に護衛に出したティルミナ聖教の騎士。あの人たちはたしかに実力もあり、紳士で忠義がありましたけど、一目でわかりました。この人たちは聖女シュピネの部下だと」
「なぁ!?そ、そんなはずは!!」
「いえ、本当ですよ。だから最初に始末したんです。だって、そうでしょ?裏切る可能性のある騎士を傍にはおいておけない」
薄々とわかっていたが、ルミナ様の観察眼は本物だ。
「ザルド聖騎士、あなたはまだどの聖女派閥に属していないから、
「肝に銘じておきます」
すでに、聖女同士で派閥ができているとは、これは教皇様の予想よりはるかに早いな。
「しかし、それで街の住民を見殺しにするのは、いかがなものかと」
たしかに、現状を4人の聖女様は対立しており、信用できない者を殺すのは致し方ないのことだ。
しかし、ルミナ様の言う”害をなす全ての駆除”という理由でこの街の住民を見殺す理由にはならない。
なにせ、今、この街の住民の半分が信徒なのだから。
「…………肝が据わっていますね、ザルド聖騎士は」
顔を上げられない。今、ルミナ様はどんな表情でこちらを見ているだろう。
「これは試練なんです。ティルミナ様が課してくれた」
「試練ですか…………」
「すでにその準備は整っています。あとは時を待つのみ」
わからない、ルミナ様は一体、何をお考え…………。
ふと、ザルド聖騎士は顔を上げ、ルミナ様を見た。
その時、呆然としながら顔が青ざめた。
「どうしたの?そんな悪魔を見たような顔をして」
「い、いえ、なん……でもございません」
「そう、それじゃあ、引き続きお願いしますね」
ザルド聖騎士は見てしまった。
ルミナ様の中に潜む、聖女とかけ離れた悪魔の姿を。
「ザルド聖騎士、安心してください。あなた想像したようなことは決して起こりません。神に誓いましょう」
ザルド聖騎士は教会を出ると、近くの木々にもたれかかった。
「私が今、生きているのは、全てティルミナ様のご加護のおかげか…………しかし」
あれが本当に聖女様だというのか、だとしたらシュピネ様や他の聖女様も、いや、考えすぎだ。
私は、ティルミナ聖教に剣を捧げた身、突き進むのが騎士道だ。
それにルミナ様の最後の言葉、噓だと思えぬし、今の私はただルミナ様の指示に従う他ない。
ザルド聖騎士は引き続き、街を守るための防衛に尽力したのだった。
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