第20話 勝利へ、そして奇跡には代償が必要だ
「ふぅ…………疲れた」
俺は倒れた竜に体を預け、ゆっくりと座った。
「本当に…………」
体の熱が徐々に下がっていき、ミシミシと体から異音が聞こえる。
強化魔法がそろそろ解ける。そうなれば、この体は…………。
強化魔法ブースト・リミットリリースが1分という制限を超えて持続した奇跡は間違いなく勝利へと貢献した。だが、その結果、代償は相応のものとなるだろう。
なぜなら、奇跡は代償なくして得られない。
「俺はここまで…………か」
意識がおぼろげになりながら、こちら側に駆け寄ってくる3人の姿が目に映る。
「ああ、もっと冒険がしたかったな」
瞼が下がっていく。
「レイン!しっかりして!レイン!」
「これはやべぇな、あんちゃん!目を覚めせ!!」
「こんなところで死ぬのはこの私が許さない」
みんなの声が聞こえてくる。
でも、ちょっとうるさいかな。せっかくの勝利なんだし、ゆっくり眠らせろよ。この勝利への余韻を少しでも味合わせてくれ。
「レイン!!」
「あんちゃん…………」
「バカが」
眠りについたレインを3人は眺める。
その時、ガンっ!と音が聞こえ、振り返ると閉まっていた扉が開いていた。
「どうやら、扉が開いたみたいだな」
「ええ…………」
テラはレインのそばでうずくまった。
「テラ、うずくまっている場合じゃない。早く外に…………」
「だって、レインが」
「あなたは彼の死を無駄にするの?それでも六つ星冒険者なの?生き残ったのなら、彼の分まで生きなければいけない、それがわからないわけないよね?」
返答はなかった。
「もういい、いくよ、ダンク」
「いいのかよ、テラちゃんを置いて」
「ここで野垂れ死にたいのなら、好きにさせればいい」
ナルはテラをおいて出口へと歩き出す。
「ちょっ…………くぅ、また外でな、テラちゃん」
そう言ってダンクはナルの背中を追いかけた。
残ったのは漆黒の竜とレイン、そして彼のそばで眺めているテラだけだった。
「わかってた。こうなんじゃないかって、だってレインは冒険者だから、きっと自分の命よりも勝利を優先するって…………」
レインの肌、頬に触れると、たった数日の思い出が蘇る。
初めての冒険、オークの討伐。ただあなたの隣にいるだけで楽しくて、嬉しくて、これが運命なんだって思った。
師匠は言った。いずれ、冒険したい、共にいたいと思える人と出会えるって。
「運命って残酷だ。こうなるのなら、出会わなければよかった。本当に…………」
一粒の涙が流れる。
「涙を流したのなんて何百年ぶりだろ」
涙をぬぐい、レインを見つめる。
心が強く締め付けら、ズキズキする。
「私、そろそろ前を向くね。レインもきっとこんな私を見て失望すると思うから」
この思いを言葉にしてはいけないと思った。
もし言葉にしたら、きっと私はずっと後悔し続ける。
テラはゆっくりと立ち上がり、出口へと足を向けた。
その時だった。
倒されたはずの漆黒の竜が突然、黒い光に包まれた。
「な、なに?」
その黒い光は粒子となり、レインの体へと入っていく。そして、そのまま血肉一つ残さず漆黒の竜は消滅した。
「一体何が起こって、そうだ、レイン!!」
何が起こったのかわからなかったが、今すぐレインのもとへと駆け寄った。
すると、信じられない光景が映る。
「ど、どういうこと」
レインの左腕元通りになり、浅いが呼吸をしていた。
「い、生きてる、レインが生きてる」
心臓の音が確認するとしっかりと脈打っており、それを知るだけで涙があふれそうになった。だが、その涙をぐっと堪え、レインの腕を首に回し、持ち上げる。
「よかった。本当に良かった」
今はただ生きてることが嬉しくて、頭がいっぱいだった。
だが、さらに続くように遺跡全体が大きく揺れ始めた。
「…………早く、外に出ないと」
そう思ったテラはレインを連れて出口へと歩き出すのだった。
□■□
夢を見た。
一匹の竜と武装した6人が激しく戦う光景、それは凄まじく、周囲を一瞬のうちに平らにした。
竜はひたすらに戦う。だが、それは身を守るためじゃない、楽しむためだった。
強者と戦うことを喜びとし、その末に死ぬことを望んだ。
だが、相手は我を殺すに至るほどの強者ではなかった。
所詮は人間、我には勝てなかった。
だが、その時、また武装した人が現れた。
その者は唯一、我と張り合うほどの強さを持ち合わせ、激戦は2日間にも及んだ。その末に我は唯一の好敵手によって、封じられた。
これは屈辱だ。お互いに切羽詰まり、いつ殺されてもおかしくない状況の中、好敵手は我を封じることを選んだのだ。
『許せるものか、断じて許せるものか。これほどの戦いを繰り広げながら、我を殺さず、封じるだと?なんたる屈辱だ!!』
これは怒りの叫びだ。
『死ねぬ。こんなところで死ぬわけにはいかんぬ!好敵手を殺すまで!!!!』
願望を抱き、叫び続ける。
そんな夢を何度見て、感じて、思ったことはただ一つ。
この竜はただ戦いたいんだ。戦うことに喜び、好敵手という存在を欲しているんだ。命をかけた戦い、その酒の味を覚えた竜はその渇きを簡単には癒せない。
俺はなぜか、そんな竜が美しいと思ってしまった。
「はっ!!」
目が覚めると、見知らぬ天井が目に映る。
「こ、ここは?」
ゆっくりと体を起こそうとするも、うまく力が入られない。
「うぅ…………れ、レイン?」
隣には目をこすりながら座っているテラの姿。
「レイン!目覚めたんだね」
「あ、ああ…………」
「よかった、本当に良かった」
テラは嬉しそうに俺の両手を握る。
俺はどうして、ここに?…………落ち着け、思い出せ。
混乱していた俺は記憶をたどり、そしてすべてを思い出した。
「そうか、俺は漆黒の竜と戦ってそれで…………そうか、みんな無事に出られたんだな」
「そうだよ。ダンクさんもナルさんもみんな無事に」
「よかった…………んっ?」
ふと違和感に気づき、左腕を上げた。
「ど、どうして」
俺の左腕は漆黒の竜に食いちぎられたはずだ。なのに、どうして俺の左腕がくっついてるんだ?
それに俺の体も、すでに体はオーバーフローしていて、かなりの傷だったはずだ。なのに、動かした感じ、そこまで大けがはしていない。
「どうしたの?」
「うん?いや、なんでもない」
「おおっ!やっと目が覚めたのか、あんちゃん!!」
「ダンク!?」
扉が開き、出てきたのはダンクと。
「どうやら、生きてるみたいだね、レイン」
「ナルも!?」
四つ星冒険者のナルだった。
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