第19話 冒険者たるもの、最悪の想定をして動きべきだ
合図を送った俺たちがやることはただ一つ。テラを無事に漆黒の竜の胸あたりに届けることだ。
「ダンク、ナル、なんとしてでもテラを守れ!!」
「だが、あんちゃん。その怪我…………」
「まだ死ぬつもりはないって言っただろ。早くテラを!!」
「わかった。いくぞ、ナルちゃん!!」
「言われなくても」
テラが漆黒の竜のもとへ駆け上がる中、ダンクとナルは攻撃を仕掛け、道を開ける。
「くぅ、出血は完全に止めることはできないか」
左腕を失ったのはでかいがおかげで十分な時間が稼げた。とはいえ、かなり重症だが。
でも、あと一歩で勝利に届く。
「とはいえ、念には念だ」
俺はゆっくりと立ち上がり、走りだったのだった。
□■□
準備が整ったテラはただ走りながら、詠唱を始めた。
「我、テラ・シルフィーが
狙うは竜の心臓、詠唱を終えると同時にこの杖先を竜に向けるだけでいい。でも、この竜、想像以上に大きくて、恐ろしい。
今までの冒険でこれほど強大な魔物と出会ったことがない。
もしかして、私は怖いの?
そう思ったとき、ナルさんが私の隣で。
「テラ、あなたはただ前に進むだけでいい。道は私たちが切り開く!!」
励ますように勇気を与えるようにそう言った。
「ナルさん…………はい!!」
そうだ、なんで私は恐れている。ここまで来るのにレイン、ダンクさん、ナルさんは必死に私を守ってくれた。時間を稼いでくれた。
私はそれに応えないといけない。
「理に背く因果、哀れな民が乖離する、神を称え、神を欺き、その座を奪う…………」
吹き荒れていた魔力が杖の先端へと集まっていく。
「ダンク、ブレスがくる!!」
「わかってるよ!!ナルちゃん!!!」
漆黒の竜がブレスが打つ瞬間、ダンクは異空間収納機を取り出した。
「これでどうだ!!!」
放たれたブレスは異空間収納機内に吸い込まれ、あまりにも強大なエネルギーに異空間収納機は壊れるもブレスを防いだ。
「くぅ、このアーティファクトとすげぇ高かったんだけどな、まあいいか」
「よくやった、ダンク」
ブレスを放ったばっかりの隙だらけの漆黒の竜にナルは双剣を構える。すると、双剣が黒と白のオーラをまとった。
「スキル…………双剣斬撃!!」
無数の斬撃が漆黒の竜の鱗もろともそぎ落とし、同時に肉すらもそぎ落とした。
その剣技に漆黒の竜は悲痛の叫びを上げながら、しっぽでバタバタと暴れだす。
「どう、私の剣は痛いでしょ?…………ダンク、あとは任せた」
「おうよ!任せておきな、ナルちゃん!!」
追い打ちをかけるようにダンクは斧を振り上げ、しっぽを狙う。
「切り落とすぜぇ!スキル、
強化された斧、強化された肉体、そしてスキルによって漆黒の竜のしっぽをいともたやすく切り落とした。
その追い打ちは
「…………果てなき有限の彼方へ、竜の行く末を終わらせよ!!」
見えた、竜の心臓!!
杖先を竜の心臓へと向け、そして解き放った。
「ドラゴ・ディスト!!」
詠唱が完了し、放たれた魔法は漆黒の竜を飲み込み、無数の光に覆われた。
その威力に耐えられなかったテラは後方へ吹き飛ばされるも、ダンクがすぐに受け止め、距離をとった。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
「それにしてもすげぇ魔法だな。初めて見たぜ。さすが六つ星冒険者だ」
強力な魔法でたち煙が散乱し、漆黒の竜の影すら見えない。
そんな中、無事にテラ、ダンク、ナルが合流すると、あることに気づく。
「あれ?レインは?」
レインの姿がどこにもなかった。
「そういや、どこに行ったんだ?あの傷ならそう遠くには」
「…………んっ!?みんな!!」
ナルが何かに気づき、ダンク、テラを押したその瞬間、赤い光がナルを襲った。
「なぁ、ナルちゃん!!」
赤い光に飲み込まれたナル。それと同時に爆発した。
だが。
「大丈夫…………ふぅ、まさか、まだ生きてるなんて」
「い、生きてる」
「ナルちゃん、異空間収納機を使ったのか」
「命には変えられないから。それより、どうする?」
たち煙が晴れるとそこには息を荒くしながら傷だらけの漆黒の竜がこちらを見つめていた。
「魔法は効いてるみたいだけど、とどめを刺すには至らなかったってことだね」
「そうみたいだな」
「ご、ごめん。私の力不足のせいで」
「謝らない。それよりまずレインを探さないと、態勢を整えられない」
「そうだな。あれだけ深手を負ったんだ。勝利は目の前、ここは一度引いて」
冷静に状況を判断し、レインを探すことを優先するダンク、ナルだが。
その時。
「いや、ここで決める!!」
レインの声。それは漆黒の竜の近くから聞こえた。
「最悪の想定をして動くのは当然だよな」
レインがなぜいなかったのか、それは最悪の想定を加味して、動いていたからだ。
テラの魔法で仕留める。これが最も確実な方法だと確信をしていたが、これはあくまでテラの魔法で仕留められるという前提での話だ。
もちろん、疑ったつもりはない。俺はテラが倒してくれると信じていた。だけど、相手は未知だ、竜だ。想定外なことが起きることだってあり得る。
だから俺は、仕留められなかった場合を考え、先回りした。
テラの魔法が打つ時、その邪魔にならないように距離を取り、もしもの時のために待っていた。
そして、漆黒の竜はテラの魔法に耐え、反撃してきた。
「そろそろ終わらせよう。もう十分、抗っただろ」
漆黒の竜はすでにボロボロだ。ほとんどの鱗が剝げ、片目を失い、血を流している。
未だに持続している強化魔法。すでに限界を超え、鉄に触れるだけ溶かせそうなほど、熱を発している。
「もう少し持ってくれよ、俺の体!!」
俺は懐から紅の短剣を取り出した。
これは火魔法がエンチャントとされた赤い魔剣。キーワードを一言、口にすれば込められた魔法を起動できる優れもので、奮発して買った俺の切り札だ。
今の俺には漆黒の竜を倒す力はない。だが瀕死で無防備な竜ならこの魔剣でとどめを刺すことができるはずだ。
狙うは心臓、外すことは許されない。
「これでとどめだっ!!」
今までの経験上、俺が外すことはない。
そう確信していた俺は赤い魔剣を鋭いスピードで投げ飛ばし、漆黒の竜の心臓あたりに突き刺さった。
そして、静かに。
「…………爆ぜろ」
キーワードを口にすると、魔剣に込められた魔法が起動し、短剣から凄まじい勢いで炎があふれ、漆黒の竜の体内を焼いた。
竜の苦痛の叫び、それは今まで聞いてきたどの叫びよりもよく響き渡り、この部屋全体を多き揺らした。
その瞬間は一種の勝利の鐘にさえ俺には聞こえた。
そして、漆黒の竜はバタッ!と倒れたのだった。
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