第8話 六つ星冒険者から学ぶこと、そしてパーティー結成

 敵とみなしたオーク3体は一気に攻めあがる。



「早い!?」



 オークって鈍いんじゃないのか?いや、違う。俺が遅いのか。


 オークは本来、三つ星冒険者が受ける依頼だ。俺のスピードに合わせて、物事を図るのはお門違い。


 極限まで強化した足で後ろ飛び、距離を取ろうとするも、オークたちは止まらない。



「殺気だってるな。でも、そんな愚直にまっすぐ来られると、逆に狙いやすい!!」



 手持ちの石をすべてを投げつけ、二体のオークを視界を奪った。



「よし!…………んっ!?」



 しかし、最後のオークは倒れたオーク2体を飛び越え、足を止めなかった。



「噓だろ」



 これで、3体のオークが足を止めし、その隙に殺すはずだったのに。予定変更だ。

 俺はすぐに短剣を取り出す。



「ブースト・エンチャント・ハーネス」



 ブースト・エンチャント・ハーネスは触れた物の硬さを高める強化魔法。魔力消費に対して、効果が見合わないからあまり使われないが。


 でも、この状況なら十分に役に立つ。



「かかってこい、オーク!一対一の真剣勝負だ!」



 踵を返し、オークの正面を向く。


 すると、オークは勢い良く右手を振り下ろしたが、すぐにオークの目の高さまで垂直に飛び上がった。


 オークの目って意外ときれいって何考えてんだ。


 俺はすぐに距離をとった。



「ふぅ…………武器との相性がよくないな」



 短剣があれば十分だと思ったけど、こうして一対一になると体格差もあって不利になるな。普通の剣も持ってくるべきだった。


 でも、やるしかない。



「こい!」



 オークはすぐさまこっちに向って迫ってくる。

 そして、大きく飛び上がり、拳をふるうがすぐに後ろに引いた。



「危なっ!?でも、おかげで隙が見えた!」



 すぐに足に力を込め、勢い良く踏み出し、一気にオークとの距離を縮め、短剣を強く握りしめる。


 狙うは一点、頸動脈だ。


 オークもゴブリンと同じで、骨格から脳、心臓の位置もほぼ同じ。ただ短剣じゃあ、心臓を突き刺すには長さが足りない。脳も同じだ。石で貫こうにも、もう手持ちの石はない。


 なら、接近してでも首に沿ってある頸動脈を狙うほかない。



「これで終わりだ!」



 すかさず、俺は短剣で頸動脈を切り裂き、オークは血を流しながら倒れた。



「…………や、やった、俺でもオークを倒せた」



 魔物と正面切って戦ったことがほとんどなかった俺にとって、この勝利は格別だった。下手をすれば、命を落とす可能性もあったし、正直、強がっていたところもあった。


 それでも、俺は一人で格上の魔物を相手に倒したんだ。



「勝利に酔うのは後だ。とりあえず、テラさんのところに…………え」



 ふと後ろを振り向いたら、そこには二体のオークが目の前にいた。



「目が治って…………」



 そういえば、オークは基本、二つのうち一つのスキルを所持していると聞いたことがある。一つはスキル剛力、二つ目はスキル自己再生。



「まじかよ」



 とっさのことで、体がうまく動かない。


 ここで、終わるのか…………。



「滅せよ、グラ・フィスト」



 その声が聞こえた瞬間、二体のオークが炎の渦に飲み込まれ、灰燼かいじんとかした。



「大丈夫?」


「あ、ああ、助かったよ、テラさん」


「うん」



 突然のことに腰を抜かした俺に差し伸べされるテラさん。

 俺は迷うことなく手を握り、灰となったオークを見つめる。


 これが六つ星冒険者の魔法。これが、六つ星冒険者の実力。

 まったく、遠いな、兄さんの背中は。



「どうしたの?」


「いや、やっぱり、テラさんは強いな。その強さが羨ましいよ」


「…………そう」



 依頼を終えた俺とテラさんはそのまま冒険者ギルドに向かい、依頼を終えたことを知らせた。そして、すべての用事を済ませた後、冒険者ギルドを出た。



「終わったな…………さて、テラさんはこの後、どうするんだ?」


「そのテラさんってのやめてほしい。普通にテラでいい」


「で、でも、俺は二つ星でテラさんは六つ星だし」


「関係ない、星がいくつあろうと、私たちは冒険者だよ」



 まっすぐな瞳が俺を見つめる。



「わかった。テラって呼ぶよ」


「あと、その改まった口調も好きじゃない」


「ちゅ、注文の多いやつだな」


「うん、それがいい」



 薄々感じていたことだが、テラって変な人だ。聖女様に似ているといえばいいだろうか。


 まあ、エルフだし、人とは違う感性を持っていておかしくないが、なんというか調子が狂う。



「さて、それじゃあ、宿をとろう」



 そう言って、俺の手をつかんだ。



「え、ちょっと、なんで一緒に?」


「だって、私たちはパーティーを組んだ。なら一緒にいるのは当然のことでしょう?」


「はぁ?いやいや、おかしいだろ。パーティーを組んだのは今日限りじゃないのか?」


「今日限り?なぜ?」



 まるで俺がおかしいかのような表情で首をかしげるテラを見て俺は頭を抱えた。


 もしかして、俺がおかしいのか?いや、違う。どう考えたっておかしいのはテラのほうだ。



「俺とテラじゃ、冒険者として実力が違いすぎる。一緒にいたって何も得るものはない。だから、俺とパーティーを組むべきじゃない」



 自分で口にするのもなんだが、俺に得るものがあってもテラに得るものはないのは確かだ。


 それにまだ、三つ星冒険者ならまだしも、相手は六つ星冒険者、一緒にいることすらおこがましい。


 だから、この関係は今日限りが一番いいんだ。それがお互いのためなんだ。

 

 正直に言うと、テラは不満そうな表情を浮かべながら、口を開く。



「…………どうして、そう思うの?そもそも、パーティーを組む上で得るとか、そんなことを考える必要があるの?私の知っている冒険者は違うよ。私にとって冒険者っていうのは、”目の先、はるか先にある未知の大陸を、見たことのない財宝を、数多の可能性を求めて、仲間とともに進み続ける”それが私にとっての冒険者。君は違うの?」


「その言葉、邪竜ファブニールが出てくる冒険神話の主人公の言葉…………」



 そういえば、兄さんもこの物語が好きだった。

 兄さんは”冒険者になる!”とか言って、成人したその日に、冒険者になった。それからどんどん大きくなって、いつの間にか、憧れてしまった。


 勇敢に立ち向かい、魔物を薙ぎ倒し、決して挫けず、前を向いて戦う兄さんの姿。それはまるで、物語に出てくる冒険者のようだっだんだ。



「私は、君と冒険がしたい。そこに実力だとか、星の数とか関係ない。そうでしょ?」


「…………そうだな」



 俺はどうやら、冒険者とは何なのかを忘れていたようだ。

 兄さんの背中ばかり見すぎて、何も見えていなかった。

 もしかしたら、ゲニーもこんな俺の姿を見て、見限ったのかもしれない。



「さぁ、まずは宿にいこうってそういえば、まだ君の名前を聞いてなかった」


「レイン、レイン・クラフトだ、テラ」


「レイン…………うん、いい名前」



 俺がなぜ、二つ星冒険者なのか、分かった気がする。俺たぶん、そもそも冒険者にすらなれていなかったんだ。


 まったく、六つ星冒険者から学ぶことはありすぎるな。そして、俺はその六つ星冒険者の近くで学ぶ絶好のチャンスが目の前にある。


 ”チャンスはつかまなければ、意味がない”ってこれも、たしか邪竜ファブニールが出てくる冒険神話の主人公の言葉だったな。


 俺はテラに手を伸ばした。



「それじゃあよろしく、テラ。俺は未熟だから、いろいろ迷惑かけるだろうけど」


「うん、よろしく、レイン」



 こうして、俺とテラはパーティーを組むことになった。


 


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