第6話 六つ星冒険者、テラ・シルフィー
冒険者ギルドに訪れると、なにやら騒がしい様子だった。
何かあったのか?
「聞いてください、レインさん!」
「あ、うん」
メルトさんにどんな依頼をあるか聞こうとするが、あたふたと落ち着かない様子だった。
「実は、昨日の夜に騎士4人の死体が見つかったらしいんですよ。しかも、ティルミナ聖教の騎士!これは大事件ですよ」
「ティルミナ聖教の?」
「はい!今、ティルミナ聖教側に連絡を取っている最中で、それはもう冒険者ギルド内は大忙し!私はまだ受付なので、影響はそこまでないんですけど…………」
だから、こんなに冒険者ギルド内が騒がしいのか。
しかし、ティルミナ聖教の騎士4人の死体。おそらく、聖女様が連れていた騎士だろう。
「とにかく、レインさんも気をつけてください。今、5つ星冒険者を集めて、調査に出向いているので、すぐに解決すると思いますが、ティルミナ聖教の騎士を倒してしまうほどの魔物ですから、安全は保障できません」
「わ、わかりました」
たしかに、ティルミナ聖教の騎士は最低でも5つ星冒険者ほどの実力があるとされている。そんな魔物が森中にいるとするなら、冒険者にとって最悪だ。
「それで、今日はどんな依頼が?」
「え、あ…………薬草採取が」
「ですよね」
前みたいにゴブリン3匹の討伐なんて都合のいい依頼、毎日のようにあるわけないし、期待はしていなかった。
やっぱり、依頼に関係なく魔物と戦ったほうがいいか?でも、それで命を落としたら、どうしようもない。
「ちょっと考えさせてください」
「わかりました」
俺は受付から少し離れた場所で、今後、どう動いていく考えることにした。
「このままじゃあ、薬草採取する冒険者として人生を終えてしまう。だからといって依頼に関係なく魔物を倒しに行くのは命知らずだ。…………やっぱり、パーティーを組んだほうがいいのか?」
魔物を安全に倒すなら、まずソロという選択肢はない。ゴブリンならまだしもワイルドウルフやオークなど想定レベル5以上ともなれば、俺の場合、せめて一人ぐらい仲間が欲しいところだ。
でも、二つ星冒険者の俺と一緒に行動してくれる冒険者なんてまずいないだろう。
「もしかして、俺の人生、薬草採取ルート確定してないか?」
考え見直し、改めて、詰んだことを再認識した俺は絶望し、頭を抱えた。
そんな時。
「おいおい、誰だ、あいつ?」
「美人だね」
「エルフだ」
騒いでいた冒険者ギルド内が静かになり、ほとんどの冒険者が彼女を見つめた。
腰まで伸びる銀色に輝く髪に、きれいに整った長耳、身長は高くもなく低くもなく、品があり、少しだけ大人びている。
その姿に冒険者たちが見惚れてしまうが、彼女はそんなことを気にせず、受付の前に立った。
「何の御用でしょうか?」
その受付の人はメルトさんだった。
あの人、昨日の…………改めてみると美人だ。
「…………」
「あ、あの…………」
「…………」
無言だった。何も言わず、ただずっとメルトさんを見つめる。
その空気感にメルトさんは気まずさを感じた。
どうして、何もしゃべらないんだろう、うん?
ふと、メルトさんと目が合った。まるで助けを求めるかのように涙目になりながら、ずっとこちらを見つめてくる。
仕方がない。メルトさんにはたくさんお世話になってるし。
俺は席を立ちあがり、美人エルフさんに声を掛けた。
「どうかしましたか?」
「…………君は昨日の」
美人エルフさんが口を開くと周りの冒険者もおお~!と声を上げた。
「昨日はどうも。それで、何か困ったことでも?」
「…………どう、話しかければいいかわからなくて」
「え」
「依頼を受けに来たんだけど、ここ最近、受けてなくて、どう伝えてたかなって…………」
どういうことだ?
俺は首をかしげたが、やりたいことは分かった。
「メルトさん」
「あ、はい!すぐに依頼を選びますね!」
「ごめん。迷惑かけた」
「そんな、困ったことがあったら、いつでも声をかけてください」
「君は優しい」
静かに笑ったその笑顔に周りの冒険者はズキューン!と心を射抜かれる。そして、俺もその破壊力に言葉を失った。
エルフってこんなにかわいいのか。知らなかった。
今度、エルフ里にでも旅行しに行こうかな、なんちゃって。
「すいません。冒険者カードはお持ちですか?」
「…………これのこと?」
「そう、それです。ちょっと確認しますね。えぇ!?」
聞いたことのないメルトさんに叫び声、あたふたとしながら、冒険者カードを何度も確認し、そっとこちらを見つめた。
「六つ星冒険者の…………テラ・シルフィーさんですね」
その言葉にその場の冒険者、全員が固まった。
「む、六つ星冒険者?」
六つ星冒険者ってあれだよな。冒険者の最高峰、七つ星冒険者のひとつ前の、うん?
俺は横にいる美人エルフさんを見つめる。すると、美人エルフは見つめ返してくる。
「そ、そのテラさん、ここの冒険者ギルドだとその、見合う依頼がないので、王都のほうに向かわれたほうがよろしいかと」
「それは困る。しばらく、ここに滞在する予定なんだ」
「ですと、ここら辺がよろしいかと」
俺もちらっとその内容を見てみると、驚愕せざる終えなかった。
森最奥にいるベヒーモスの討伐、キングウルフとその群れの討伐など、四つ星冒険者が受ける依頼ばかり。
れ、レベルが違いすぎる。
「…………君はどれがいいと思う?」
「え、俺に聞く?う~ん、俺なら全部却下」
「じゃあ、全部却下」
「え!?それでいいの?」
冗談半分だったんだけど。
「だって、君が却下って言うから」
これはいったいどういう状況なんだ?
この状況が理解できない俺。そして、何かを待っている様子で見つめ、周りから熱い視線を向けられた。
「君は今日、どんな依頼を受けるの?」
「え、俺?俺は…………や、薬草採取かな」
「それじゃあ、君と同じ依頼でいい」
「うん?え…………」
「本当にそれでよろしいのですか?」
メルトさんは確認すると、テラはこくりと頷いた。
「え~と、つまり一緒の依頼ということで、パーティーを組むことになりますが」
「パーティー…………うん、それでいい」
ちょっぴり、嬉しそうな表情を浮かべるテラさん。
「わ、わかりました」
「ちょっと、なに勝手に話を進めてるんだよ」
メルトさんとテラさんで勝手に話が進んでいく。
「いいじゃないですか、六つ星冒険者と一緒に依頼なんて、またとない機会です。それにこれを機にレインさんも少しは変わるかもしれませんよ」
「そ、それは…………」
たしかに、六つ星冒険者は世界でも数えるほどしかない。そんな人と一緒に依頼をこなせるなんて、またとない機会だ。
でも。
「君は私と一緒に依頼を受けたくないの?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど…………わ、わかったよ。ただし、テラさん、もう一つ依頼を頼んでいいか?」
「別に構わない」
「どんな依頼ですか?」
俺は依頼を指定すると。
「わかりました。テラさんもそれでよろしいですか?」
「問題ない」
こうして、俺とテラさん二人で二つの依頼を受けることになった。
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