第5話 エルフの美人さん、そして冒険者カード

 運悪くもゲニーたちのパーティーを目撃してしまった俺は時間をつぶすため、ブラブラと歩いていた。



「お金はあるし、たまには外食でもするか」



 基本的に、泊まった宿内の食事のほうが安くてお金がかからないのだが、今の俺はゲニーからもらったお金と今回の報酬金があり、余裕がある。


 俺は良さそうなお店に入った。



「いらっしゃい!お一人かい?」


「一人です」


「それじゃあ、こっちに座って。あ、これがメニュー表ね。決まったら呼んでおくれ」


「わかりました」



 しっかりとしたお店で、意外と賑わっているようだ。

 冒険者た街で働く人たちまで人それぞれ、対応から見るに馴染みのある客が多く、店主らしき女将さんと楽しく会話している。



「こんなお店がこの街あったなんて、知らなかった」



 今にして思えば、ゲニーたちと一緒に冒険していたころは食事は基本的にゲニーが決めてた場所ばっかで、自分で決めることがなかった。


 

「今度、ゲニーたちにあったら、教えてあげるか。さてと、なに頼もうかな」



 値段はそこまで高くなったので、メインと副菜、そしてこのお店オススメを一品頼んだ。



「若そうだね。いくつだい?」


「え~と、16です」


「若いねぇ。若いんだから、たくさん食べなきゃだめだよ」


「あ、はい」



 女将さんはいろんな人に話しかけ、その場を和ませている。満遍な笑顔、話しやすい雰囲気。


 だから、みんなこんなに楽しそうなんだ。



「はいよ。たくさんお食べ」


「え」



 頼んだ品が到着すると、それは山のように盛られていた。


 どうして、一品一品が俺の頭上よりも高いんだ?



「あ、あの量間違ってませんか?」


「い~や!これが普通さ」


「こ、これが普通…………」


「言っておくけど、お残し厳禁だからね」



 ニコニコとした笑顔でそう言った。



「まあ、若いんだから。これぐらい食べられるでしょ。おっと、次々…………」



 女将さんはそのまま次のお客さんのほうへと行ってしまい、残された前代未聞な量の料理。若いからと言って、俺は大食いというわけではない。



「た、食べるのか、これ全部…………」



 俺は人生で一番の根性を出し、料理を口にする。それはもう、すごくおいしくて、味は本物だった。だが、その分、量ということもあり、同時に絶望した。


 そして、1時間後、なんとか食べきった。



「うぅ…………人生で一番食ったな。間違いない」



 すでに腹がはち切れそうで、苦しい。

 しばらく、横になっていると、自分から見て前の席に一人の女性が座る。



「失礼します」


「あ、どうぞ」



 顔を見る余裕のない俺はあいさつのため、一瞬を顔を上げた後、すぐに伏せて楽な態勢をとった。


 うん?今の子、もしかして…………。


 もう一度ちらっと見ると、普通の人とは違う特徴があった。それは長耳だった。


 エルフか、珍しい。


 ここは王都から遠く、言うなれば田舎だ。そんなところに人族以外の種族がいるのはとても珍しい。



「体調が悪いのですか?」


「え、あ、ちょっと食べ過ぎてしまって…………君も頼む時は注意したほうがいい。想像の5倍の量が出てくるから」


「そ、そうですか」



 エルフ族は寿命が長く、長寿で、魔法にたけている聞く。


 そういえば、兄さんが昔、すごく魔法使いに会った話を聞いたっけ。その人も確かエルフで、とにかくすごかったらしい。なにせ、兄さんが興奮して2時間も語った程だ。


 しばらく、横になっているエルフの美人さんが注文をしており、聞き覚えのある会話を女将さんとしていた。



「若そうだね。いくつだい?」


「198です」


「エルフで198は、若いねぇ」



 なんか、聞いたことのある会話だ。というか、エルフで198は若いのか。



「個性的なお店だ。これだけ賑やかなお店はなかなかない」


「君もそう思うのか?」


「ええ、どこのお店も暗かったり、品格のあるお店が多かったですから」


「だよな…………」



 時間が経ち、だいぶ楽になった俺は立ち上がった。



「だいぶ楽になった。それじゃあ、俺は先に」


「ええ、話し相手になってくれてありがとう」


「あ、うん。じゃあ」



 俺はそのままお金を払い、お店を出た。

 


「変なエルフの美人さんだったな」



 そんなことを言いながら、泊まる宿に向かった。

 宿の近くに到着すると、周りを見渡し、ゲニーたちがいないことを確認、そのまま宿に入り、無事にベットにダイブした。



「ふぅ…………まだお腹にご飯があるな」



 楽になったとはいえ、まだお腹が苦しいレインは、仰向けになり、天井を見上げながら、お腹をさすった。



「でもあの金額にあの量なら、コスパはいいな。一品だけ頼めばの話だけど…………」



 心の中であの店では一品だけを頼むと決心した。



「さてと、今日はあれを確認するか」



 そう言って、ポケットから一枚のカードを取り出した。

 これこそ、冒険者の証で、現在の実力を可視化したもの、冒険者カード。

 このカードには自分のレベルや持っているスキル、魔法、そしてステータスが文字、数字として可視化されており、これが冒険者にとって身分証明書になっている。



「さてさて、どうなっているのやら」



 冒険者カードは秘密保持のため、基本的には名前と星がいくつの冒険者としか書かれておらず、登録された血液を垂らすことで文字が現れる。


 俺は自ら親指を嚙んで、血を垂らした。


 すると、冒険者カードが光り輝き、文字が浮かび上がる。



「まあ、ですよね」



 冒険者カードを見て、ため息を漏らした。



名前;レイン・クラフト

二つ星冒険者

レベル:7

スキル:なし

魔法:強化魔法9

・ステータス

 力:50

 魔力:145

 素早さ:50

 器用さ:32

 賢さ:55



 特に変わった内容はなく、いつも通りだった。



「まあ、そう簡単にレベルが上がらないことはわかってたけど、それでもいつ見てもこたえるな」



 レベルは基本的に魔物を倒し続けるか、あるいは圧倒的実力、レベル差のある魔物を倒すことで上がる。一番簡単な方法はレベル差のある魔物を倒すことだが、そんなことをしたら、大抵早死にする。



「二つ星冒険者ですら、みんなレベル10は超えてるんだけどな。ほんと、自分が情けないな」



 レベル7は正直、一つ星冒険者レベルで、冒険者がこれを見れば、みんな笑うだろう。でも、唯一、誇れるのは魔力だ。


 魔力はレベルが上がっても上がりにくく、生まれつき、どれだけ保有しているかが大きい。そして、俺は145。これはまあ、高いほうだ。



「強化魔法の熟練度も9から上がらないし、やっぱり魔物討伐を増やすしかないよな。でも二つ星冒険者に魔物討伐依頼なんてそうそう舞い込んでくるわけないし、これぞ負のスパイラル…………」



 現状を再認識され、一粒の涙が流れる。

 しかし、これで心が折れていたら兄さんには絶対に追い付けない。


 俺はなるんだ。兄さんのような立派な冒険者に。



「俺はあきらめない。絶対にあきらめない!…………というわけで寝るか」



 ベットに体を預けるレインはそのまま眠りについたのだった。

 

 



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