強化魔法しか使えない冒険者が親友たちが率いるパーティーに追放された後

柊オレオン

第1話 追放?、そして聖女様との出会い

「すまない、レイン。いくら親友といえど、仲間を危険にさらすわけにはいかない。今日限りで、このパーティーから抜けてもらう」



 その言葉、実質的な追放宣言だった。

 そんな親友であるゲニーからの一言に俺は酒場の酒を机に置いた。



「パーティーを結成して1年、レインは僕たちについてくるためにたくさん努力した。でも、ここ最近、危ない依頼が増え続け、レインが足手まといになってるのわかるだろ?このままじゃ、いずれ、レインのせいで仲間が死ぬ。どうか、理解してほしい」



 ゲニーはパーティーを結成する時と同じぐらい真剣な表情を向けていた。



「わかった」


「本当にすまない」



 苦虫を食い潰したよう表情で視線を逸らすゲニー。親友としてこの言葉をかけることがどれだけ苦痛か、俺にはわからない。


 だが、間違いなく、ゲニーはみんなのためだと思って、覚悟して、正直に言ってくれたんだ。


 そして、分かっていた。ここ最近、俺は足手まといにしかなっていないと、仲間を危険にされしてしまっていることを。



「これを受け取ってくれ、レイン」



 そう言って机に置いたのはパンパンにお金が入った袋だった。



「2か月分ある」


「ありがとう、ゲニー。俺、お前と親友でよかったよ」



 俺は袋を持って、酒場から出た。



「俺に、強化魔法以外の何かがあれば…………」



 この世界では、生まれ持って、使える魔法、スキルが決まっている。一度、決められた魔法、スキルはその後、増えることはなく、熟練度を上げるしかない。


 そして、俺はそんな世界で、スキルなし、強化魔法のみ。

 そんな不遇の中、優しく手を差し伸べてくれたのが、ゲニーやパーティーメンバーたちだった。彼らは同じ村出身で幼馴染。小さい頃から一緒だった。



「今にして思えば、よく1年もパーティーを組んでくれたよな」



 冒険者にとってパーティーを組むことは生存率を上げるのと同じ、ソロで活動している冒険者なんてほとんどいない。


 だから、パーティーを抜けた時点で、俺の冒険者としての道は断たれたも当然だ。だが、そんなことであきらめるつもりはない。


 俺は追いかけなきゃいけないんだ。あの背中に、俺が憧れた、尊敬する、立派で、大きなその兄さんの背中を…………。



「こんなところであきらめてたまるか…………」



 レインの瞳は憧れの兄さんの背中がハッキリと映し出す。



「でも今日はヤケ酒にするか、お金あるし」



 パンパンにお金が入った袋を手に、路地裏を通り、酒場へと入っていった。



□■□



 目が覚めると、ベットの上で横になっていた。

 ゆっくりと、立ち上がると頭痛が広がり、足元がもたつく。

 二日酔いだ。



「さ、さすがに昨日は飲みすぎたか。平気だと思ったんだけど、意外とショックだったらしいな」



 頭で理解していても、親友ゲニーから言われたあの一言は、俺の心を強く傷つけた。それぐらい、俺にとってゲニーは大切な親友だったということ。


 結果として、その現実を忘れたくて、酒を飲み、こうして二日酔い。



「さてと、とりあえず、日課をこなすか」



 俺はすぐに顔を洗い、ランニングの用の服に着替え、外に出た。



「くぅ、まだ頭が痛い」



 強化魔法しか使えない俺はすぐに体力の増強、そして体を鍛えることにした。

 そのため、日課として、朝のランニングと筋トレ、そして、強化魔法の特訓をしている。



「ふぅ…………大体終わったな」



 ランニングと筋トレを終えれば、適当に借りていた宿の食堂で朝食を取り終えた時、ガッチャっと扉が開く。



「聖女様、どうぞ」


「ありがとう」


「る、ルミナ様!?」



 宿の店主は驚いた表情を浮かべながら、すぐにその場でひれ伏し、周りの客たちも頭を下げた。



「唐突で申し訳ないのですが、宿を5人分、お願いできないでしょうか?」


「5人分ですね。わかりました、今すぐ、ご用意いたします」



 すぐに店主は確認しにいった。



「では、その間少し待ちましょうか…………そうですねえ」



 食堂の席を見渡すルミナ。ふと、目が合った。


 い、今、目が合わなかった?


 すると、ルミナ様、率いる騎士たちはゆっくりとこちらへと足を向けて歩き出し、向かい合うようにルミナ様が席に座った。



「少し、私とお話しませんか?」


「え、あ…………」



 ま、マジかよっと顔を引きつった。



「もしかして、身分を気にしておられるのですか?たしかに、聖女という身分上、下手に口を動かせば、殺される。そう思うのは無理はないかもしれません。実際に、私を護衛する騎士は、やけに殺気が際立きわだっていますから」



 その言葉に、背後に立っている4人の騎士がビクッと体を震わせた。



「しかし、安心してください。この時は何があろうと、どんな不敬を働こうと私が許します。神に誓って」



 ルミナ様は曇りなき瞳でこちらに向ける。

 たしかに、ルミナ様の後ろにいる騎士の殺気に怯えていたのは確かだ。だが、別に話したくないわけではない。なにせ、聖女とお話しできる機会なんて、冒険者という身分上、人生で一度あるかどうかだ。


 だが、今はそれよりも早く俺は、トイレに行きたい!



「そうでした。お名前をお聞かせいただいても?」


「え、あ…………レイン、レイン・クラフト」



 くそ、早くトイレが行きたい。でも、ここで”トイレに行きたいので失礼します”なんて、言えないし、だからといって漏らしたら、首が飛ぶ。


 ここは死ぬ気で我慢するしかない。


 呼吸を整えながら、両足を内またにして尿意を抑えるレイン。それはもう必死だった。



「レイン・クラフト…………アルニー・クラフト様と同じ」


「あ、アルニーは俺の兄さんなんです」


「え、そうなんですか?」


「え、ええ…………」



 さすがの、聖女様でもアルニー・クラフトのことは知っているようだ。

 まあ、それもそのはず、なにせ兄さんは最強の冒険者の一人なのだから。



「まさか、こうして、アルニー様のご兄弟にお会いできるとは。私も一度だけ、アルニー様にお会いしたことがありまして、その時にも確か弟様のことを話されてたいました」


「そ、そうですか」



 兄さんは冒険者として世界各地を歩いており、その名声はすでに世界にとどろいていた。


 兄さんの背中はまだまだ遠いな。


 そんなことを思っていると店主がやって来た。



「聖女様、宿の準備が整いました」


「そうですか。お話はここまでということで、もしまた出会う機会がありましたら、お話しましょう」



 そう言って、聖女様率いる騎士たちは、店主を先頭に階段を昇って行った。


 そして、俺は我慢に限界を迎え、バタン!っと思いっきり立ち上がり、叫んだ。



「トイレ!!」



 俺はすぐにトイレに入り、無事に漏らすことを阻止したのだった。


 トイレを無事に済ませると、すぐに冒険者ギルドへと向かう。



「今日はおひとりなんですね、レインさん」


「あ、ああ」



 受付に行くと、見慣れた受付嬢がニコニコと笑顔を浮かべていた。




 

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