死神の采配
マツダセイウチ
第1話
とある昼下がり。一人の青年がアパートの一室で絶望していた。彼は先日、恋人に別れを告げられた。彼女に彼の普段の行動について不満をまくしたてられ、売り言葉に買い言葉で大喧嘩に発展し、そして別れ話へと繋がって行ったのだった。
その時はあんなひどい女別れられてせいせいしたと思っていたのだが、今頃になってひどい孤独感と後悔が彼を襲った。それは彼を打ちのめし、彼を二度と立ち上がれないほどにまで追い詰めた。それは彼自身にも信じ難いくらいだった。
彼女がいない人生なんて何の意味があるだろう?もう死ぬか。死んだら彼女も少しは俺の事を可哀想と思ってくれるかもしれない。
彼はそう決意した。部屋の隅に置かれていた荷造り用のロープを手に取り、椅子の上に立って照明器具をぶら下げるためのフックに首吊り用の輪っかを作った。そしてその輪の中に頭を入れ、椅子を思い切り蹴飛ばした。
彼の頸椎に全体重がかかり、容赦なく首を締め上げる。彼はどちらかというと痩せ型だが、それでも死ぬには充分だった。
「…!!」
彼は苦しみに喘ぎ、足をバタバタと動かした。ロープが彼の動きに合わせてゆらゆらと揺らめいた。しばらくその状態が続いたが、やがて彼は動かなくなった。
彼は生物ではなく物体となり、部屋の一部となって簡素なパイプベッドやガタガタの机と同化した。生き物の放つ生のエネルギーが消えた部屋で、彼は誰かが自分を発見してくれるのを待ち続けた。
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