第6話

フロアに戻り席に着こうとすると吉本が声をかけてきた

「本部長のおよびだって?」いやらしい声だ。

柴田はこの男が嫌いだった。彼と同じ大学を出ている男だが、彼はこの男の人格は2流だと思っている。もちろん、やつの仕事自体も2流なのだ。前回も当然プロジェクトから外したが、そのことをいまだに根に持っている。

「お前には関係ない」柴田はきっぱり言った。


「プロジェクトの件だろう」吉本がしつこく聞いてくる。

柴田はわかっているなら聞くな。内心そう思いながら黙っていた。

この男は何かと人の粗探しをしたがる。

どこの会社にでもいる、一番嫌われるタイプだと柴田は思っていた。

まあ、相手にしないのが一番だ。今回もメンバーには選ぶつもりはなかった。


メンバー選出。柴田はこのメンバー選出に、苦労しそうだと思っていた。

選ばなかった人間との間に、どうしても確執が生じてしまう。

その溝はなかなか埋めづらい。関係を悪くすると後々の仕事、人づきあいにまで影響してくる。


前回任されたプロジェクトでも、選ばなかった足立とはいまだに仕事がしづらい。

そんなことを思っていながら、「とりあえず早めに木島は抑えとかなければ」、そう思い彼に声をかけた。

「木島、ちょっといいかな」

「なんですか」スマートな声だ、スーツもいいものを着ている様に見える。

この男は某有名私立大学卒のエリート社員で、同期の間でも出世頭と目されているらしい。


「今度のプロジェクトの件だ」柴田は言った。

「やっぱり先輩が仕切るのですか」木島が柴田にあこがれる様に言った。

「とりあえず仕切らせてもらう。君も手伝ってくれ」柴田が言った。

「わかりました。お手伝いします」やっぱり、スマートな返答だ、この男に頼ればプロジェクトもスムーズに進むだろう。実質的に彼に仕切らせればよいのだ。

柴田はそう思いほっとしていた。


その後、会社で柴田は悩んだ。プロジェクトとのメンバーがなかなか決まらないのだ、自分を含めて6人と設定したがあと一人・・・・。

まず木島、斎藤、この二人のC言語の腕は社内でNo1と言っていい、外す訳にはいかない。そして高橋の開発力、そうなのだ、彼の想像力は開発に必ず必要だ。

林。プロジェクトを進めていくうえで彼の総合的な技術力というものは必ず必要になってくる。あと一人。そう、あと一人がなかなか決まらない。


若手社員が何かと声をかけてくる。普段、会話をしたことのないような連中が、何かと声をかけてくる。柴田は彼らを平然と見つめ、腕を組んで目をつむった。

確かにプロジェクトの参加回数は、人事評価の対象だ。昇進への近道だ。

 

そしてこのメンバーで何が欠けているか考えたがなかなか出てこない。

3時の休憩時間に、女子社員のグループが集まって会話している。

この会社は女子がほとんどいないが皆優秀だ。

それを見つめて柴田はピンときた。そう女子、女子社員を加えよう。

そうすればプロジェクトに花が加わるようなものだ。柴田はそう思った。


そして早速1人の女子社員に目を付け、近づき話しかけた。

「高田さん、今回のプロジェクト興味ないかい」ずばり聞いた。

彼女の心臓の鼓動が、高鳴るのが聞こえた様だった。

高田初美、確か彼女は入社2年目25歳。


柴田から見れば自分の娘のように見えた。

しかし、プログラミングの腕は超一流と聞いている。

彼女の成長のためということで。

「えっ」彼女は急に顔を赤らめて柴田を見つめた。

「あたしなんかでいいんですか」


なんて初々しいのだ。きっとまだ男を知らないのかも知れない。

そんなことを思いつつ。

「勿論だ。だからこうして声をかけているじゃないか」

彼女ははにかんだ様に下を向き少し考えてから。柴田を見上げ、

「はい」と元気に答えた。その瞬間に彼は彼女に圭子にない魅力を感じた。

確か彼女は入社2年目25歳。


そこに何か圭子にない魅力を感じて困惑してしまった・・・。

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