私たちの遊んでいた音楽ゲームの裏には、クレーンゲームがある。クレーンゲーム越しに見える女の子の集団には見覚えがある。

 あの子たち、全員天文部だ。ちらっと見た限り、恵美ちゃんがいないのは、彼女は彼氏とデートだからだろう。甲高い声を上げているのは、天文部の中でも特に可愛い同学年の女の子だ。たしか……島谷しまたにさん。

 その女の子集団の中で、ひとりだけ男の子が見える。当然か。アクティブな男子の天文部員は篠山くんしかいないはずなんだから。「光太」と呼ばれた彼の顔はここからだと見られないけど、困ったように口を尖らせているような口ぶりだ。


「そうは言ってもさあ。セールなんだし。だから次は量販店な?」

「磨けば光るのにそんなことばっかり言って!」

「ここもうちょっといい服あるでしょ!?」

「お前ら俺の財布にちっとも優しくないなあ!?」

「あっはっはっは。光太郎、お前ほーんと所帯じみてんなっ! いい嫁さんになれるぞ!」

「茶化さないでくださいよ~」


 庶民的で庶民的な反応ばかり示す篠山くんに、女の子たちは当然ながらブーイングする。それを豪快に笑い飛ばしているのは、瀬利先輩だろう。こちらからも黒いTシャツでジーンズっていう普通の格好にも関わらず、スタイルがいいばかりにちらちらと皆が見とれてしまう彼女が見てとれた。

 あまりにも覚えのある光景だ。天文部では、力仕事を篠山くんがやって、その周りを女の子が取り囲んでいるという光景が日常的になっていた。

 女だらけに男がひとり。普通はなにかとやっかまれそうだけれど、瀬利先輩をはじめとして、女子のアクが強過ぎるせいで、誰も表だっては羨ましがらなかった、日常的な光景。

 ……少し前の私は、その中にいたはずだった。

 何度も何度も頭の隅に追いやったのに、今日は本人たちが少し近くにいるせいで、今まで以上にリアルにその光景を思い返してしまう。

 気付いたら、私の体は強ばっていた。

 ……逃げないと。そう思っているのに、体はピクリとも動かない。今の彼は私のことを知らないんだから、素知らぬ顔して通り過ぎればいい。頭ではわかっているのに、クレーンゲーム一台向こうに彼がいるとわかったら、怖くって動けなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る