向こう側

勝利だギューちゃん

第1話

テレビをつける。

画面の向こうでは、アイドルたちが元気に歌い踊っている。


芸能界は未知の世界。

当然、知っている人などいない。

イベントなどに頻繁に顔を出せば、顔は覚えてもらえるかもしれないが、そこまで。


それ以上は追及しないのが吉。


ただ、昔に比べたら垣根は薄くなった気がする。


昔のテレビはブラウン管で分厚かったが、最近は液晶で薄い。

おそらくそのせいもあるだろう。

いや、ないって・・・


「私、今度アイドルのオーディションに受けるんだ」

「私も。ミス〇〇だっけ?」

「そうそう、それそれ」

「私も受けるんだ」

「じゃあ、私たち7人で受けよう」


翌日、クラスの女の子たちがこんな会話をしていた。

〇〇というのは、今流行ってるアニメのヒロイン。

そのヒロインが、爆発的な人気なので、それにあやかっての事なのだが・・・


「もし、誰かひとりが落ちても、合格しても、友達だからね」

「もちろんよ」


嘘つくんじゃない。

口には出さないが、心の中でそう思う。


僕は、芸能界には興味がない。

アイドルの顔と名前が一致しないという、完全なおっさんだ。


けど・・・


「すみません。〇〇さんですが?」

「はい。僕ですが」

「すみませんが、また出てくれますか?」

「またですか?」

「ええ。足りなくて」

「わかりました」


僕は趣味で落語をやっている。

テレビの素人名人会で、何度も賞をとっている。

そう、何度も・・・


この番組は、歌はたくさん応募があるが、落語や漫才は皆無。

でも、素人名人会なので、出さないわけにはいかない。

それで、過去に出て方にオファーがあるのだが、僕もそのひとり。


〈ちなみにこれは、本当の話〉


「本当にありがとうございました」

「いいえ」

顔なじみとなっているスタッフから、ねぎらいの言葉がかけられる。


「あと、ミス〇〇コンテストなんですが」

「そういえば、この局が主催でしたね」

「この子どう思います?」


写真を見せられる。

あの7人の書類だ。


正直に答える。


「わかりました。じゃあ書類審査は合格ということで」


素人に頼んでいいのか?

まっいいか。


「ねえ、私書類審査合格したよ」

「私も」

「みんな合格なんだ」

「全員デビューしたりして」

「まさか」

「でも、ミスはひとりでも全員デビューできるかもよ」

「がんばろうね」


揃って向こう側へ行ける事を願おう。

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向こう側 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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