園田遥香の取材⑦



「本当に着いてくるつもりですか? 私一人でも」


 遥香は車を運転しながら、隣に座る東嶋を横目で見た。

 リクライニングをギリギリまで倒している、彼の表情は窺えない。ただ機嫌が悪いのは伝わってきて、運転にも集中できない。

 気まずい空間の中にいるよりは、一人になった方がマシだ。

 そういった意味を含めて、一人で行くと提案する。


「そんなの許すわけないだろ。一人でなんて絶対に駄目だ」


 それは、死んだ恋人のことがあるから?

 遥香は言葉をグッと飲み込んで、気づかれないよう微かにため息を吐く。


 鈴木から、東嶋の恋人に関する話を聞いた。

 しかし、時間がほとんどなかったので簡単にだ。


 東嶋の恋人は雑誌記者だった。

 同じ出版社で、都市伝説などを主に担当していた。同期入社した二人は、初めは反発しあっていたが、徐々に仲を深めていったらしい。


 結婚秒読みだったそんな頃、彼女は編集長からある村について調べるように命じられた。

 その村に行けば生きては帰れない。いわく付きの場所で有名だったが、彼女は別に信じていなかった。そういうジャンルを担当していても、現実主義者だったらしい。


 大丈夫だと一人で村に行き、行方不明になってしまった。警察に届けて、彼女が向かった山の捜索が行われたが、全く見つからない。

 そこで、東嶋は鈴木を頼った。

 鈴木は色々と感じ取れる体質らしく、東嶋と共に彼女を探すのを手伝った。


 鈴木は山に来て、すぐに良くない何かがあると感じ取ったらしい。おそらく、彼女はすでに死んでいると。

 それを正直に東嶋に伝えてしまい、怒った彼と喧嘩になった。絶縁すると言われ、その日を境に距離を置かれた。

 遥香と家に訪ねるまで、東嶋は鈴木に一切連絡をしていなかった。


 東嶋は一人で彼女を探し続け、最悪の結果を目の当たりにした。

 死体を最初に発見したのは、東嶋だったらしい。

 野生動物の仕業とされたぐらいに、死体は損傷が激しかった。その姿を東嶋は見てしまったのだ。

 どれほどの衝撃か、話を聞いただけの遥香には分からなかった。


 彼女が言ったという、問題の山が遥香達が現在向かっている場所だった。

 鈴木が〇〇山に行くように言ってきたが、そこに何が待ち受けているか教えてもらえなかった。行けば、求めている情報が得られるとだけ。


 東嶋いわく、鈴木は悪人ではないが善人でもないらしい。

 自分に関係なければ、人がどうなろうと構わない。危険が迫っていても、忠告するかどうか気分次第。


 〇〇山に行っても大丈夫だろうか。

 本当ならば心強いはずの東嶋も、全く安心材料になっていない。

 重苦しい空気の中で、遥香は行きたくない気持ちを必死に抑え込んだ。


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