最終話 その後、そしてこれから

 ガイアを倒したことで、ローゼスを取り巻く環境も落ち着きを見せた。


 ルカの予想通り、第三席を失ったからかその日以降は全く襲撃を受けず、フィルヴィス家当主から黒幕の手掛かりを掴んだとの情報を得たローゼスは、単身でギルバート王国へと一時帰国した。


「わたくし自身の手で決着を付けないと気がすみませんわ!こてんぱんのギッタギタに切り刻んで差し上げます!」


「………あまりオーバーキルはするなよ」


 一応、まだ依頼は継続中なため、帰国にはルカも着いていこうとは提案していた。もしかしたら、帰国途中に襲撃されるという可能性も捨てきれないからだ。


 だがしかし、そこは流石の魔女。お得意の転移魔法で一瞬にしてローゼスを帰国させた。


「……なるほど、テロリスト組織か。また厄介なものに巻き込まれたものだね」


「お前の時もそうだったが、この世界は裏で色々と動きすぎじゃないか……?」


 ローゼスが休みということもあり、久方ぶりにルカの隣の席を陣取ったアーノルド。心做しか、若干ウキウキしてるのをすっごい気持ち悪いものを見るような目で会話を続ける。


「仕方ないさ、表向きは平和とはいえ、国絡みでは色々と権力争いは続いてるからね」


「……今思えば、こんなことに巻き込まれるようになったのも、お前の依頼からな気がする……やはり助けないでしておくべきだったか?」


「……それは流石に酷くないかい?」


「冗談だ────ま、お前はそのまま王になって、平和な世界が続くように尽力してくれ」


「勿論さ、君を失望させたくは無いからね」


 ここ数日は、ずっと気を張っており若干の疲れが流石にルカも感じていた頃だ。これでようやく、気を休めると思ったのも束の間。ポンッとルカの目の前に手紙が現れた。


「ん?」


「君に手紙かい?珍しいね」


「確かに」


 ひらりと舞い落ちる手紙をキャッチして封を開けてから内容を読む。隣から、顔を覗かせてアーノルドも読み始める。


「……どうやら、これで本当に終わったようだね」


「あぁ。上手くいった見たいだな」


 差出人はローゼスから。内容をざっくりと説明すると、黒幕が捕まったので明日から学園に戻れますということだった。


 黒幕は、ギルバート王国でも、真ん中くらいの爵位を持つ若い貴族のようだった。どうやら、まだローゼスが小さい頃、その美貌に惚れて長年恋していたようだが、中々振り返らないので、無理やり拐って既成事実を作ろうとし、事実上の結婚をすることが狙いのようだった。


「………ふぅ、この貴族は中々な下衆な奴なようだ。一体なぜこんな奴が貴族なんだ……?」


「親は優秀であっても、子はそうでもない。これが典型的な例だし、お前の身近にもいるだろう?」


「……確かにそうだね。あぁ、頭痛い……」


 文を読み終わると、まだまだ封に何かが入っていたことに気付く。なんだろうと思い、取り出すと、どうやら中には写真が入っていた。


 全面には、誰もが見惚れるような笑顔で、ピースをしているローゼス。その背後には、顔面が殴打の後で原型すら分からないほどに膨れ上がった、件の貴族が、ロープで体を拘束されて横たわっていた。


 写真の右上には、『やりました』とだけ書かれており、それだけでどれほどストレスを発散したのか手に取るように分かるほどだ。


「……ふっ……くくっ……」


「ぷっ……」


 それを察した二人は、クラスにいる他の人に迷惑にならないように口元を抑えて笑いを堪える。


「全く、あのお転婆貴族は本当に『舞姫』と同一人物なのかい?」


「本人いわく、『武闘派』らしいぞ。実は、内心その二つ名気に入ってなかったりな」


「有り得そうだ」


 写真と手紙を封に戻そうとしたところで、写真の裏にまだ何か書かれていたことに気づいたルカ。


「……………げっ」


「どうした?」


「………な、なんでもねぇ」


 そこには、『お父様にルカのことを話しました。大変ルカの事に興味を持ったようですわ』と書かれており、それだけでまだ何か面倒事が起こることを確信した。








「ルカ」


「……なんだローゼス。俺とお前の契約は終わったろ?」


「えぇ、ですが終わったら別に関わってはいけないなどとは、あの依頼書には書いてませんでしたから。わたくしがどうしようと、自由ですわ」


 次の日、中庭で授業をサボっていたルカをみつけ、先程学園へ帰ってきたローゼスが声をかける。


「……まぁいい。関わるのは自由だ。だけど、依頼が切れたから、もう君には剣は教えない」


「えぇ。まぁ、それで充分ですわ」


「…………」


 強調された言葉に、やはり何か嫌な予感がルカを襲い、たらりと冷や汗が流れる。思い浮かぶのは、ガイアを退けたあの日、キスをされた時のこと。


 前世では結婚はおろか、恋人すらいなかったルカには、この時どうすればいいのか解決策は持っていない。


 頼むから外れてくれ、と心の中で祈るも────それは、ポッキリと折られることになる。


「……こ、コホン。時にルカ?依頼の延長とかは有効でして?」


「……聞くだけは聞いてやる」


「そ、それでは……」


 もう一度咳払いをする。そして、ついに心を決めたローゼスは、その頬を真っ赤に染めながらルカへと指を指した。


「あ、あなたにはまだまだ依頼の延長をお願いしますわ!今度は!わたくしの婿候補として、側にいてくださいませ!」


「……………………いや、ほんと……マジで勘弁してくれ………」


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やる気ゼロの転生剣士。貴族令嬢を弟子に取る 結月アオバ @YuzukiAoba

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